伊藤忠商事株式会社:
「多残業体質」から脱却し、効率的な
働き方を実現する「朝型勤務」(後編)
人事・総務部 企画統轄室長
垣見俊之さん
業務効率化に向けたキャンペーンと社員の反応
業務効率化に向けたキャンペーンでは、組織ごとにいろいろな取り組みを行っているそうですね。
人事・総務部のケースで言うと、「社内会議ルール」を決めました。具体的には部内会議は30分以内、開始時間も厳守としました。これまで、役職の高い人が来ないと会議が始まらないことがありましたが、そういうことに関係なく、時間になったら開始して時間通りに終えるようにしました。また、終了に当たっては必ずラップアップし、何が結論だったかを記録して、必要に応じて次回までに配布することにしました。資料は事前に配布し、その場では内容の説明は基本的に行いません。会議参加者が事前に資料を読み込んでおき、会議が始まったらすぐに議論できるようにしたのです。参加者も厳選し、責任者もしくは主担当のみに限定しました。こうしたルールを決めるだけで、議論の密度が変わりました。このルールは全ての人事・総務部の会議室に貼っています。また、ある程度の時間、業務を集中して行いたい場合に使用できる「集中業務ブース」も設置しました。
他の部署では、部下への指示は朝一番(もしくは午前中)に行い、帰り間際の指示をなくして、残業が起こらない状況を作るための運動を行っています。タイピング検定を取得して、パソコンを会議に持ち込み、議事録を即時作成するといったことも行われています。出張報告はメール、もしくはA4一枚のみに限定させる。タブレット端末を配布し、移動中に上司に業務連絡を行う、といった取り組みも行われています。
非常に基本的な事ばかりですが、このようなキャンペーンを部署毎に行ってもらい、月1回の社内報に、取り組み状況やメンバーからのコメントを掲載することで、各部署で競争意識が芽生え、取り組みが加速化する、という相乗効果も生まれます。こうした点も、部署ごとに取り組んだからこそ生まれる、メリットだと思っています。
社員の方からは、どのような反応や感想がありましたか。
定量的には効果の出た「朝型勤務」ですが、定性的な側面、つまり社員からは、業務への集中度がアップし、業務の取捨選択が進んだという声が多数入ってきています。これまでは、社員に優先順位を付けて仕事をするように言っても、なかなか実践されなかったものが、制度導入後は18時になると「あと2時間しか時間がない」という緊張感が生まれ、集中して仕事をするようになりました。何より、仕事を取捨選択して、本当に重要な仕事から取り組むようになったことが、一番顕著に見られる成果だと思っています。
もう一つ、「平日の夜の時間を有効に活用できるようになった」という声も聞かれます。仕事を早く切り上げることによって、上司・同僚と飲みながらコミュニケーションを取る機会が増えた、習い事や自己研鑽・読書をする時間ができた、家族団らんの時間が持てるようになったというように、多くの社員が心身のリフレッシュ効果を上げています。また、女性社員からは、計画的に仕事ができるようになったため、配偶者と家事の分担がしやすくなったという声をよく聞きます。
当初、労働組合からは、持ち帰り残業や休日勤務が増えるのではないか、あるいはお客様対応がおろそかになるのではないか、と心配する声がありました。しかし、パソコンの持ち出しをセキュリティーの観点から禁止しているため、持ち帰り残業はできませんし、お客様対応について支障が出たという報告もなく、心配していたような事態は発生しませんでした。逆に、「朝型勤務」の取り組みが世に広まったことで、むしろお客様から、ぜひ話を聞かせてほしいという声が増えています。