留学経験があまり評価されない転職市場
企業が考える「グローバル人材」に必要な要件とは?
語学力、異文化コミュニケーション、MBA取得… 留学経験で得た強みは、企業へのアピールになるか
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MBAよりも現場での叩き上げ人材を優先?
新卒に近かったMさんと違い、Eさんは大手企業で約7年勤務した実務経験者だった。しかし、勤務していた企業で大きな組織変更があったのをきっかけに、「ここに長くいても先がないかもしれない」と考え、30歳を目前にキャリアアップのための留学を決意したのだという。
「当時、リーマン・ショック後で転職環境が厳しかったので、少し時期をずらそうと思ったのと、円高を利用すれば海外での学費も割安になると思ったんです」
日本と世界の経済環境をも計算に入れてキャリアプランを立てているところは、さすが社会人というべきだった。Eさんは、2年間でしっかりと学び、MBAを取得して帰国した。
「前職は化学関係の営業ですが、そこにはこだわらず幅広く探したいと思っています。MBAのコースで経営を学んだので、今後は経営企画や事業開発などができればベストなのですが」
Eさんは優秀だし、海外でMBAも取得しているのだからまじめな努力家でもあることは間違いないだろう。人材紹介会社としてはぜひ「推していきたい」人材だった。しかし、実際に企業に打診してみても、いま一つ良い返事が戻ってこない。
多かったのは「経営企画も事業開発も未経験だ」というもの。また化学業界以外では「業界経験がない」ことも断りの理由だった。
さらに、はっきりとは言わないものの、「現場ではMBA取得者は使いにくいと思っている」ことが何となく伝わってくる企業もあった。知識やロジックよりも現場での経験を重視するという考え方が、まだ日本企業の中には根強いのだ。
「しばらくは、前職の営業からやり直した方がいいみたいですね」
ある日、Eさんからそんな連絡があった。外資系化学会社がマネジャークラスのポジションを用意してくれそうなのだという。ただし、日本の現地法人なので、Eさんが希望するような経営企画や事業開発といった仕事はない。いずれも海外本社の管轄になるからだ。
「異文化の中で勉強したことは、私にとって自信になっているのですが、だからといってすぐそれを評価してくれる企業は少ないようですね。先日もグローバル人材を募集しているメーカーの面接を受けたのですが、英語のできる日本人の『通訳』を探している感じでした。海外拠点とのインターフェースになって欲しいということでしたが、自分で何かを考えてやって欲しいという感じはあまりしませんでした」
近年は「日本人が内向きになっている」と嘆く声が多く聞かれる。しかし、せっかく海外に飛び出して勉強してきた人材がなかなか評価されないのも日本の転職市場の現状だ。
「良い案件が出たら、また必ずご案内しますね」
Eさんにそう伝えながら、何となく釈然としないものを感じるのだった。
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