企業訪問のハードルが高くなった影響は?
オフィスから読み取れる細かな社風
転職希望者が人材紹介会社を利用する理由の一つに、「求人票だけではわからない情報を知りたいから」というものがある。企業の内部情報や裏事情というよりは、第三者から見た社風や雰囲気を聞き、働くイメージを持ちたいようだ。人材紹介会社側もそういった情報の提供には注力しているが、最近はコロナ禍により、企業を直接訪問するハードルが高くなっている。
求人票に書かれていない情報とは
「A社はどんな雰囲気の会社ですか」
企業の求人票を見た転職希望者から、よくこんな質問をされる。社名や製品、サービスなどはホームページを見ればわかるが、職場の雰囲気までは読み取れない。
「営業以外は服装が自由で、夏はポロシャツを着ている人もいますよ。オフィスは整理されていて、すっきりしています。壁に目標数字やスローガンが大きく貼りだされているといったこともないですね」
人材紹介会社の良さは、このように求人票や求人広告には出ていない情報まで提供できることだ。業界内での立ち位置や仕事の進め方の違いといった情報だけでなく、実際に企業を訪問して見たり感じたりしたことも、伝えることができる。
「オフィスの一部がしゃれたカフェのようになっていて、そこで打ち合わせをしている人もいました。しかも飲み物は無料だそうです。面接のときは、たぶんそこに通されますよ」
オフィスや福利厚生の情報を新卒向けに打ち出している企業は多いが、中途採用の場合は業務重視なのか、案外アピールする企業は少ないように思う。
転職希望者が少しでも興味を持ってくれれば、人材紹介会社にとってもありがたい。そこで、求人を出している企業を訪問するときは、社内の様子をできる限り観察するようにしている。
ところが、2020年は年初からコロナ禍に見舞われた。
「求人依頼は基本的にメールでお送りします。また、これまで定期的に行っていた紹介会社対象の『求人説明会』も、Zoomによるリモート会議方式で行う予定です」
外部との不要不急の接触をできるだけ減らしたいという企業が増え、こんなメールをよく受け取るようになった。実際にオフィスを訪問する機会も、ほとんどなくなってしまった。そのため、「求人票には出ていない情報」を集めることが難しくなっている。
特に課題なのは「新規の求人企業」だ。責任を持って紹介するために、どんな企業なのか最低一度は足を運んで現地を見るのが原則なのだが、それができない状況が続いている。
実際の雰囲気は現地に行かないとわからない
ただ、「求人企業の社内を直接見る」ことに関しては、コロナ禍以前から少しずつ変化はあった。
企業を訪問すると受付から応接室などに案内される。それは昔から変わらないが、かつては、受付からオフィス内を一望できる企業が多かった。応接セットが執務スペース内にあるケースも多く、求人票を受け取りながら大勢の社員が働いている様子を見ることができた。上司が部下を叱責する大きな声が聞こえてきて、その企業の営業の厳しさを実感することもよくあった。
現在は業務情報や個人情報の保持が重視されているので、そういったオフィスはまずない。受付と応接室をつなぐ動線からは、社内の様子が一切見えないのが普通だ。
そのため、「オフィス環境を見せていただいてもいいですか」と、わざわざ頼む。気軽にオフォス内を案内してくれる企業もあるが、社内規程の関係で本当に少ししか見られないところもある。近年は後者が増えてきていた。
それでも、実際に訪問すると細かい情報はいろいろと得られるものだ。廊下ですれ違う社員の服装や態度、雑談の様子。オフィス内がすっきりしているのか、グラフや垂れ幕などで埋め尽くされているのか。人が多いのか少ないのか。静かなのかガヤガヤしているのか。見学中に交わす人事との何気ない会話の中から、興味深い情報が出てくることも多い。
もちろん、現地で見つけた細かい情報は、おすすめの企業に興味を持ってもらうために提供するのが基本といえるだろう。よほどのことがなければ、ネガティブな情報を転職希望者に伝えることはない。この人には明らかに合わないだろうと思う企業は、そもそも紹介しないからだ。
いずれにしても、実際に企業に足を運ぶことで得られるものは、まだまだ多い。
コロナ禍が終息し、一日でも早く、企業を遠慮なく訪問できるようになってほしいものである。