留学経験があまり評価されない転職市場
企業が考える「グローバル人材」に必要な要件とは?
語学力、異文化コミュニケーション、MBA取得… 留学経験で得た強みは、企業へのアピールになるか
一般的にグローバル人材といえば、語学力があることは大前提として、異文化の人々とうまくコミュニケーションをとれる能力や、海外など新しい環境に順応した経験を持つ人材がイメージされる。そういった人材を採用したい企業にとっては、当然、海外の大学への留学経験者はその候補といえるだろう。ところが、中途採用市場では、留学経験が評価されないケースが少なくない。その背景には何があるのだろうか――。
転職活動に失敗したから留学したの?
「英語は日本にいた時からかなり勉強していました。ビジネスにも使える武器にしていこうと考えたのですが、やはり海外で生活した経験がないと『生きた英語』は身につかないと思ったんです」
転職相談の席でそう話してくれたMさんは、日本の大学を卒業後、さらにアメリカの大学院に進んで勉強してきた人材だった。日本での就業経験はない。
「アメリカでのインターンシップの経験はあります。まわりに日本人がまったくいない環境で、ビジネス英語にも自信がつきました」
帰国しての就職を希望し、さまざまな就職サイトで情報を収集したところ、日本では今「グローバル人材」が強く求められていることがわかった。Mさんとしてはアメリカでのインターン経験もあることから、新卒と同列には扱われたくない。そこで人材紹介会社の利用を思いついたのだという。
「やはり語学力を活かしていきたいので、外資系企業を第一志望にしています。日系企業なら、海外に進出している企業に興味があります」
とても熱心な人材だったので、若手・第二新卒を募集している企業の求人票を見てもらい、幅広く当たってみる作戦を立てた。Mさんには、いくら語学に自信があるといっても、それだけでは最初の就職は難しいという現状を話し、十分に理解してもらう。
ところが、結果は想定していた以上に厳しいものだった。まず、Mさんが希望していた外資系企業は「実務経験者でないと無理」だという。語学は出来て当たり前だから、アメリカでビジネス英語を身につけてきたといっても、それが特に強いセールスポイントにはならないのだ。
「外資系企業はやはり即戦力志向が強いですね。Mさんには、日系企業の方が向いていると思いますよ」
しかし、日系企業からも色よい返事はもらえなかった。「Mさんは、なぜ大学卒業後すぐに就職しなかったんですかね」と、アメリカの大学院に進学した経緯をやたら気にする人事担当者が多いのだ。はっきりとは口にしないが、どうやらMさんが、「国内での就職活動に失敗したので、モラトリアム的に海外の大学院に進んだのではないか?」と疑っているようなのである。
「ビジネスレベルの英語を身につけるためです」と説明しても、「弊社には最初から海外赴任を確約できるようなポジションはないんですよ」とつれない。確かに日系企業の人事担当者から見ると、Mさんは新卒以外の何者でもないのだろう。すぐには海外へ赴任できないとなるとミスマッチで早期退職されるリスクも考えているのかもしれない。
私たちがMさんの日本での就職をお手伝いすることは、残念ながら叶わなかった。Mさんの語学力以外の武器でもある、異文化コミュニケーション力や海外生活体験などを企業に評価してもらえなかったのだ。