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人材採用“ウラ”“オモテ” 
企業・求職者・人材紹介会社の「転職」三角関係

「損か得か」は考えない
好きな業界に関わり続けたい人材

転職にまつわる優先順位

特定業界へのこだわりは、転職にどう影響する?

新卒で就職活動をする際、多くの人がまずは「どんな業界で働きたいか」を中心に考えるのではないだろうか。日本の新卒採用は総合職採用が主なので、入社後に配属される部署や職種は、企業側が適性を見て判断するケースがほとんどだ。しかし、就職して一定のキャリアを積んだ後は、それまでの職種の経験を活かして転職することが多くなる。人事や経理といった管理部門の職種の場合には、業界の垣根を超えての転職も可能になるのだが…。

第一志望は「音楽業界」です

「これまで15年以上ずっと音楽業界で働いてきました。ですから、できれば今後も同じ業界を第一志望にしたいんです」

その日、転職相談に来たTさんは、ある有名レコード会社に新卒で入社していた。最初は営業や宣伝などを数年担当したが、ここ10年ほどは主に経理部門でキャリアを重ねてきたという。ところが、音楽業界再編の影響を受けたTさんの会社は大幅な組織変更を行うことになり、経理担当者全員が早期退職の対象になってしまったのだ。

「私も音楽業界のことはある程度分かっているつもりなので、中途採用の求人が少ないことは知っています。今は業界全体も厳しいですし…。ですから、音楽関係については知人の紹介を中心に考えています。それと並行して、人材紹介会社には“音楽業界以外”での新たな可能性をアドバイスしてほしいのです…」

Tさんは現実的に転職活動を進めているようだ。

Photo

「承知しました。おっしゃる通り、人材紹介会社には音楽業界からの求人案件は決して多くありません。ですから、知人のご紹介を中心にお考えになるのは良いと思います。同時に、Tさんの場合、10年近く経理に携わっていらっしゃいますから、どこの業界でも通用するキャリアということになります。他の業界にも目を向けられると、年収アップで転職できる可能性も十分ありますよ」

さっそく私は、Tさんが希望した数社に応募書類を送った。年齢的にも30代中盤、職種は経理、さらに前職のレコード会社が大手電機メーカーの系列会社だった…というキャリアが評価され、Tさんを面接してみたいという企業が現れるのにそう時間はかからなかった。

「さっそく面接が入りそうです!」

Tさんに連絡を入れてみると、その返事は思いがけないものだった。

「実は、第一志望にしていた音楽関係で仕事が見つかりそうなんです…」

急な展開に驚いたが、希望の業界で仕事があるのならTさんにとってはベストな結果だ。ちょっと気が早いかなと思いつつも、私は思わず声をかけていた。

「良かったですね、おめでとうございます!」

たとえ「派遣」でも働きたいのです

「ありがとうございます。ただ、ちょっと迷っているところもあるんですよね…」

希望業界での仕事が見つかったというのに、Tさんの声はいまひとつ冴えない。

「何か心配事でもあるのですか?」

「紹介してもらった仕事はレコード会社の経理ですから、今までの経験をフルに活かせるんですが…実は派遣社員なんですよ」

やはりこの時期、正社員の募集案件は少ないらしい。かわりに、経理など管理系の仕事をアウトソーシングする会社は増えているので、「派遣や請負なら仕事があります」と言われたのだそうだ。ただし、給与は前職にかなり近い形で考えてくれるらしい。

「なるほど…」

希望する業界の派遣と他業界の正社員。この時、私が思ったのは「Tさんは派遣の仕事はしないだろうな…」ということだった。新卒で大手メーカー系列の企業に入社し、正社員として15年のキャリアがあるのだ。別の業界でもその経験は高く評価されるし、音楽業界自体が今、再編期にあり、正社員であっても磐石ではないことは、Tさん自身が身をもって体験しているのである。

「せっかくですから、この機会に他業界の企業の面接もお受けになってはいかがでしょうか。双方の条件を総合的に比較してから、判断するのです。年齢的にも他業界に移る最後のチャンスかもしれないですし…」

そんな私の提案を聞いたTさんはかなり悩んでいた。

「確かにそうですね。少し考えてみます…」

数日後、Tさんから連絡をもらった。結論は「第一志望の音楽業界で働きたい」というものだった。

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「条件的には正社員で働く方が良いのはよく分かっています。ただ、音楽に関わる仕事は私にとって学生時代からの夢だったんです。たまたま、この10年ほどは経理をやってきましたが、別に自分は経理そのものがやりたかったわけではなく、音楽を創る人たちのために働けることがヤリガイだったんです。この数日、よく考えてそう思いました。幸い家族も、自分を応援してくれていますし…」

ここまでTさんの意思が固ければ、私にはもう何も言うことはなかった。人材紹介の仕事をしていてよく思うのだが、転職ともなれば、大抵の人が新卒で就職活動をしていた時のような、「この業界で活躍したい」というピュアな熱意よりも、年収や勤務条件、安定性…といった「損か得か」ばかりを優先で考えてしまうようになる。そういう意味では、Tさんは純粋に音楽が好きで、その業界のためになる仕事を選べる幸せなケースなのかもしれなかった。

「分かりました、頑張って下さい!」

こういう転職もあっていいのだろうな、と私は思ったのだった。



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