転職サポートで重要な価値観の確認
「当たり前」も人によって違う
人材紹介会社の転職サポートは、求職者の希望に合わせて進めるのが大原則だ。そのため、最初の転職相談では、転職の経緯や今後の希望・条件などを詳細に確認する。ところが、そこまでしても、途中からなんとなく話がかみあわないと感じる時がある。それはだいたい、求職者とキャリアアドバイザーの価値観がくいちがっているときだ。自分は当然と思って話していることが、実は相手にとってはそうでもないこともある。
「もっと大きい会社の求人はありませんか」
人材紹介の基本的なプロセスでは、転職相談の後、求職者に具体的な求人案件を見てもらい、応募したい企業とそうでもない企業を選り分けてもらう。希望にぴったりの企業をすぐに紹介できることが理想だが、通常はこうした作業を繰り返して、徐々に紹介の精度を高めていく。
設備設計の経験を生かしたいというYさんにも、希望に合いそうな求人をピックアップして見てもらった。すると、返ってきたのはこんな反応だった。
「たしかに先日お伝えした条件には合っているんですが、どこも企業規模が小さいですね。もっと大きい会社の求人はないでしょうか」
紹介した求人案件がすべて気に入られることはないが、「全部違う」と言われたのはショックだった。しかも、その理由は「企業規模が小さいから」だという。大企業のみ希望という話は聞いてなかったのだが。
「申し訳ございません。先日お聞きした際には、大企業希望ということを十分うかがえてなかったようで」
「設備設計の経験を生かすなら、大企業しか選択肢はないじゃないですか。自分でも情報を集めているんですが、この一覧にあるような企業の求人情報は取り扱っていませんか」
Yさんが自分で探したという企業のリストを見せてもらうと、たしかに日本を代表するような大手企業が並んでいる。ただ、その中には事業再編や赤字のニュースが報じられている社名も含まれていた。よく見ると、M&Aで買収されると噂されている企業もある。
「大手でも事業環境が厳しいところはありますよね。今回ご紹介したのは大企業ではありませんが、業績も良く成長企業といえると思うのですが」
「そうですけど、大手は一時的には悪くても立て直してきますからね。まあ、求人そのものがなければ仕方ないので諦めます」
どうやらYさんにとっては、大手企業で仕事をすることが当たり前で、あえて条件にあげるまでもない、ということのようだった。
「ハードワークで体調を崩した」それなのに……
転職希望者との価値観の違いといえば、こんなケースもあった。
「とにかく仕事がハードで、身体を壊してしまったんです。長時間勤務は当たり前で、休日もほとんど出勤していました」
Kさんは前職の会社を退職した理由をそう語ってくれた。3ヵ月ほど静養して現在は復調しているので、心機一転して、また仕事を頑張りたいという。ただ、退職後のブランク(無職期間)が転職にあたって不利にならないかを心配していた。
「それは大変でしたね。でも、そういう事情をしっかり説明すれば、理解してくれる企業は必ずあると思います」
Kさんには、「働きやすさ」に配慮している企業の求人を中心に紹介した。少なくとも、入社直後からきつい仕事がふられそうな会社は避けた。
ところが、Kさんはなんとなく物足りない顔だ。
「働きがいというか、やりがいは欲しいんです。体調も元に戻っていますし、バリバリやれる成長企業があったら紹介してもらえませんか。ベンチャーでも問題ありません」
もちろん、働きやすくてやりがいのある会社はたくさんある。その後も、Kさんに求人情報を送り続けたのだが、なかなか気に入ってくれる案件がないようだった。
「その後、転職活動の進展具合はいかがですか?」
あるとき、送付した求人案件の感想を聞こうとKさんに直接電話をかけてみた。するとなんと、前職の同僚に、そのグループ会社の募集があると教えてもらい、先日話を聞いてきたという。前職と同じグループなら、職場環境も同じようにハードではないかと心配になったが、Kさんの返答はあっさりしたものだった。
「業種も職種も違うので、そこまでハードではないと聞いています。仕事内容もおもしろくて、やりがいがありそうです」
どうやら、Kさんの気持ちはほぼ固まっているようだった。
働き過ぎで体調を崩した人はハードな仕事は避けたくなるものだと思い込んでいたが、もっと「やりがい」に振りきった案件を紹介した方がよかったのかもしれない。自分の価値観に求職者を当てはめすぎてはいけない、と感じたケースだった。