トップ自らが面接するベンチャー企業
採用の意思決定は速いはずが……
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結論まで1ヵ月?!
「昨日はありがとうございました。Nさんは、とても優秀な方ですね。社長も好感触だったようです。ぜひ前向きに検討したいと思います」
E社の総務マネジャーに連絡すると、Nさんの評価は上々のようだ。しかし、そのわりに「前向きに検討」という言い方が引っかかる。ベンチャー創業者のオーナー社長だから、自身が納得すれば即決という話ではなかったか。
「ありがたいことに、他にも複数の候補者をご紹介いただきましてね。社長としては全員にお会いしてから結論を下したい、ということなんです。Nさんはとてもいい方なので、ぜひ待っていただきたいそうです」
思わず私はうなってしまった。たしかにE社は今注目のベンチャー企業であり、Nさん以外に興味を持つ転職希望者がいても全く不思議ではない。また、総務マネジャーによれば、採用予定は「一人だけ」。複数の候補者がいるのなら、ベストの人材を選びたいのは当然のことだ。
「結論が出るのはいつ頃になりそうでしょうか」
その回答は、なかなか厳しいものだった。社長は非常に多忙で、出張の予定なども多い。また、候補者も現職の人材が多く、数週間から1ヵ月程度はかかりそうだという。私はNさんに正直に状況を伝え、即決に至らなかったことを詫びた。
「そうですか。併願していた大手企業の方はもう条件提示も受けていまして、あとは返事をするだけになっています。1ヵ月も引き延ばすのは難しそうです」
こういう場合、企業側に「早く結論を出してほしい」と迫るのは、人材紹介会社としてはかなり勇気が必要になる。経験的に「待てないなら他に行ってもらってかまわない。うちでどうしても働きたいという人材しかいらない」と言われてしまう可能性がかなり高いからだ。
そこで、ある作戦を立てることにした。まずはNさんに相談だ。
「もしE社の内定が出たら100%入社するとお約束いただけるなら、それを材料に結論を早く出すように交渉してみますが、どうでしょうか」
Nさんの返事は、希望の条件面さえクリアしていれば大手企業の内定は辞退してE社に入社する、というものだった。そして数日後、E社からの返事が届いた。
「Nさんに内定とお伝えください」
一般的な企業であれば奇跡的といってもいい結論だった。
「事情を伝えたところ、社長が『だったらNさんでいこう』と即決したんです。新しい人材に早く合流してほしいという経営判断もあったと思います」
そんな総務マネジャーの話を聞き、トップが決める採用はやはり結論が速い、と痛感させられたケースだった。
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