転職活動と電話交渉やすり合わせに有効だが 増えてきた「電話に出ない人」
ビジネスにおいて、もっとも頻繁に使う連絡手段といえば「電話」。そんな時代は、過去のものになりつつあるようだ。電話から主役の座を奪ったのは、言うまでもなく「電子メール」である。近年では「いきなり電話するのは失礼だ」と考える人も少なくないらしい。人材紹介において、その場でスピーディーに調整や交渉、すり合わせができる電話は非常に有効なツールだが、電話を使うことに消極的な人が増えてきた現在、それ以外の連絡方法を模索する必要が出てきている。
「いきなり電話は失礼」という風潮
「面接を担当する部長が急に出張することになったので、Tさんの面接日を変更してもらえないでしょうか」
企業から、面接日の予定変更を依頼されることは珍しくない。しかし、この時ばかりは都合が悪かった。Tさんはすでに他の企業から内定をもらっていたのだが、比較・検討するためにもう一社の面接も受けてみては、と提案していたのだ。その面接日が遅れると日程的に厳しくなり、面接を辞退される可能性があった。
こんな時にはすぐ、「電話」で連絡しなければならない。企業側の事情を伝えるとともに、すでに内定の出ている会社にはどれくらい待ってもらうことができるのかを聞き、Tさんの意向も尊重しながら、すり合わせていく必要があるからだ。
さっそくTさんに電話をしたが、留守番電話になっている。折り返し電話をくれるようにメッセージを残し、夜には自宅にも電話してみたが、Tさんが電話に出ることはなかった。
翌日、Tさんから一通のメールが届いた。
「電話で話す時間がとれないので、用件をメールで送ってもらえませんか」
単に用件を伝えて済むのなら、最初からそうしている。しかし今回は、感触を探りながら説得、交渉していく必要がある。メールなら、何往復もやりとりすることになるだろう。タイムリミットが迫る中、それは避けたかった。
しかし、最近は「電話よりメール派」の人が増えているのも確かだ。「相手の都合も考えずに、いきなり電話するのは失礼」と考える人は多い。電話に出られる時でも、用件のわからない電話には出ない、という人もいる。メールが普及する以前に社会人になった人は、基本的に「何はともあれ、まず電話」と教えられてきたし、メールがビジネスシーンで使われるようになってからも、「いきなりメールを送るのは失礼」と言われてきた。しかし、今ではその常識がまったく逆転しようとしている。
人材紹介の場合には、別の理由もあるようだ。メールならすぐに返信せずに、ワンクッション置くことができる。「話の主導権を握られたくない」と考える求職者にとって、メールは都合の良いツールなのだ。紹介会社のアドバイスはありがたいが、説得されたり、丸め込まれたりしたくない、と考える人は多いのである。