ビジネスライクな関係を求める転職者とのつき合い方
忙しい現役ビジネスパーソンに多い? 信頼関係を築けない転職支援
- 1
- 2
無事入社するまで心配な日々は続く
「役員面接の感触はいかがでしたか?」
A社でのKさんの選考は着々と進み、最終の役員面接も終わった。さっそく手応えを聞いてみようとするのだが、いまだにKさんには会えていない。忙しいの一点張りなのだ。
「悪くはなかったですよ」
Kさんからの報告はそっけない。もし内定が出たらA社に入社する気があるのかどうかもよくわからない。転職希望者が他の人材紹介会社を通して、あるいは直接の応募で複数の企業の選考を受けているのはよくあることだ。直接会って、こちらとしては信頼関係を築いているつもりでも、最後の最後で「やっぱり別の会社にお世話になることになりました」などと言われるのはよくあるので、まだ一度も会ってないKさんの考えていることなどまったくわからないのが実態だ。
そんなわけで、A社とKさんの案件は、一見順調に進んでいるようだが、今後どうなるかわからない不安なものだった。A社から内定書が届いても、Kさんがそれに対して「お世話になります」と返事をしても、その心配は続いていた。
「この度は内定おめでとうございます。縁あってA社へのご転職をお手伝いすることができましたし、ご入社までに一度ご挨拶をしたいと思いますが」
タイミングが遅いのは承知の上で、とにかく一度実際に会っておきたいと私は思っていた。あまり考えたくないことだが、入社が決まっていても直前に「他の会社に内定したから辞退します」などというケースもあるからだ。もちろん、会っておけばそれが防げるというものでもないのだが……。
だが、ここにきてもKさんのビジネスライクな対応は変わらなかった。
「もう決まりましたし、今からお会いしてもあまり意味がないですよね。それに引き継ぎで仕事もものすごく忙しいので」
それからKさんが入社するまでの約1ヵ月、気が気ではない日が続くことになった。A社から別件で電話やメールがあると、「Kさんから辞退の連絡がきましたが、把握されていますか?」といった話だったらどうしようと、その度にヒヤヒヤとしていた。入社当日の朝、A社に電話してKさんが予定通り出社していることを確認した私は大きく息をついていた。
Kさんからすれば、人材紹介会社を情報源の一つとして利用しただけのことだったのだろう。しかし、キャリアアドバイザーとしては、信頼関係が築けていない状態で転職支援を進めることの頼りなさを痛感させられた一件でもあった。
- 1
- 2