職場のモヤモヤ解決図鑑【第97回】
従業員の急な退職に伴う
スムーズな引き継ぎの進め方とは?

自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。昔思い描いていた理想の社会人像より、ずいぶんあくせくしてない? 働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!
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志田 徹(しだ とおる)
都内メーカー勤務の35才。営業主任で夏樹の上司。頼りないが根は真面目。
エース社員の突然の退職により、頭を抱える志田さん。突然の退職は、業務の停滞や顧客サービスの質の低下といったリスクをもたらすこともあります。リスクを最小限に抑えるには、スムーズな引き継ぎが大切です。業務の引き継ぎにおいて気を付けるべきことをおさえましょう。
社員の突然の退職は企業にとって大ダメージ
社員の突然の退職は、企業にさまざまなリスクをもたらします。具体的には、以下のような問題が考えられます。
業務の停滞、顧客サービスの低下
急な退職による一時的に人手不足は、業務の遅延や顧客対応の停滞を招く可能性があります。
知識・ノウハウの喪失
退職する社員が持つ属人的な知識・ノウハウや業務フローが失われることで、業務効率や顧客満足度の低下を招くおそれがあります。
企業信頼度の低下
上記の問題が重なることで、顧客や取引先からの信頼が低下し、最悪の場合、取引停止に至る可能性も考えられます。
職場環境の悪化、連鎖退職のリスク
残された社員への業務負担増加やトラブル対応により、職場環境が悪化することで、さらなる退職者が発生するリスクも高まります。
このようなリスクを回避するためには、管理職や人事部門が主体となって、計画的かつ適切な引き継ぎを実施する必要があります。
引き継ぎで管理職が心得ておくべきこと
社員の突然の退職に直面した管理職は、現場の混乱を最小限に抑えるため、積極的に引き継ぎプロセスをリードする必要があります。単に業務内容を伝えるだけでなく、後任者や周囲のメンバーが安心して業務を引き継げる環境を整備することが重要です。
早めの引き継ぎ計画の立案
退職や異動の意思表示があった時点で、速やかに引き継ぎ計画を立てます。最終出勤日や有休消化の取得予定を考慮し、余裕のあるスケジュールを設定することで、業務効率の低下を抑制できるでしょう。さらに、業務の棚卸しを行い、「誰が・いつまでに・何を」引き継ぐのかを明確にします。
後任者・関係者への情報共有と調整
後任者だけでなく、関連部署や社外の関係者にも必要な情報を共有し、連携を図ることが不可欠です。属人的な人間関係や暗黙知は、管理職が補足説明を行うことで、引き継ぎの漏れを防ぐことができます。
精神的なケアとモチベーション維持
退職者が引き継ぎ期間を前向きに過ごせるように、感謝や理解の姿勢を示すことが重要です。後任者に対しては、過剰な負担がかからないように心理的なサポートを行います。不安やストレスを軽減することで、業務の円滑な移行を実現できます。
スムーズな引き継ぎのための事前準備:三つのポイント
管理職や人事が引き継ぎに不可欠なポイントをおさえ、サポートを行うことで資料の完成度が高まり、現場の混乱を防ぐことにつながります。
【ポイント1】
引き継ぎ業務を洗い出す
- 業務の棚卸しで抜け漏れを防ぐ
- 日次・週次・月次・年次など、頻度別に分類する
- 業務の可視化で全体像を把握する
- 必要に応じて業務改善・整理する
引き継ぎの範囲が曖昧だと、業務の抜け漏れやトラブルが起きることもあります。引き継ぎ業務を洗い出し、前任者と確認しながら引き継ぎ内容を決定しなければなりません。退職者が出てマンパワーが不足することも想定し、ときには業務内容を減らすことも必要です。
【ポイント2】
引き継ぎスケジュールを決定する
- 引き継ぎの完了日を明確にする
- 後任者・前任者の状況を考慮する
- 余裕を持ったスケジュールを設定する
引き継ぎの完了日は、有給消化や残務処理を考慮し、実質的な最終出勤日から逆算して設定します。退職日までに、引き継ぎに充てられる時間は限られています。業務の重要度や複雑さに応じて、「いつ・どの範囲を・どのように」引き継ぐかを考慮することが重要です。
また、進捗を管理するために、ToDoリストやチェックリストを活用すると効果的です。後任者が未定の場合は、暫定的に担当者を定めるなど、柔軟な対応が求められます。
【ポイント3】
引き継ぎ資料を作成する
- 業務の目的・全体像を明確にする
- 業務のフローチャートを作成する
- 各作業の手順を具体的にまとめる
- トラブル事例と対応策をまとめる
- 必要なファイルやデータの保管場所を明記する
業務目的・全体像を明確に示し、業務フローチャートや作業手順、トラブル対応例を具体的に記載します。必要なファイルやデータの保管場所も明記します。資料作成時には、期待する品質や目的を明確に伝えるとともに、フォーマットやテンプレートを提供することで質のばらつきを防げます。
【まとめ】
- 突然の退職は、人員不足、業務効率やサービスの質の低下などさまざまなリスクがある
- 引き継ぎ作業を前任者任せにするのではなく、管理職や人事がサポートすることで、業務の質を保てる
- 引き継ぎ内容の洗い出しを行い、何をどのように引き継ぐのかを決定する
- 引き継ぎスケジュールは最終出社日から逆算して余裕をもって行う
- チェックリストやフォーマットの活用は、わかりやすい引き継ぎ資料の作成に役立つ
後編では、組織力を高めるための効果的な引き継ぎについて詳しく解説します。