人事マネジメント「解体新書」第89回
長期的観点から再考する「コア人材」の採用と育成【前編】
~企業の発展段階により、コアとなる人材ニーズは変化する
企業間競争が激しさを増す中、企業には自社固有の経験と高い能力を持った人材、いわゆる「コア人材」の確保・育成が求められている。実際、さまざまな企業がそのために施策に取り組んでいるが、早期登用や外部採用などではなく、長期雇用を前提としたコア人材の確保・育成や、キャリア支援に力を入れる企業が目立つ。短期的な評価や雇用関係によらない長期的な人材戦略を行うことで人材層の厚さが確保され、企業価値の創出、職場での信頼関係などプラスの要素が期待できるからだ。では、長期的な視点からコア人材をどう処遇していけばいいのか。「前編」では、そのあり方について解説する。
「コア人材」の活用によって進む企業変革
◆企業の発展段階ごとに求められる人材要件とは?
新たな段階に入ったアベノミクスの下、景況感は好転。新たな成長戦略を受け、多くの企業が事業変革を推し進めている。それと同時に、そのカギを担うコア人材への“渇望感”も、また大きく膨らんできているようだ。昨今の人材難に加えて、たとえ同じ企業でも、創業期と変革期とでは置かれた状況や構成要素が異なってくるので、コア人材に求められる要件も異なってくるからだ。だからこそ今後、中長期的な成長戦略を図るため、どのようにコアとなる人材を採用し育成していくかを、今一度考え直す必要に迫られているのだ。
企業がその発展プロセスの各段階で、事業を推進していくためにどのような人材が求められるのか(人材要件)を整理しておくことは、コア人材の処遇を考える意味で有効なことだろう。なぜなら企業の発展段階により、求められる人材ニーズも変わってくるからだ。なお、ここで言うコア人材とは、トップマネジメントやその候補者だけを指すのではなく、企業のビジネスモデルを効果的に回し、他社との差別化の源泉となる人材のことである。
(1)創業期:組織が未完成なため、課題発見や判断、実行力のある人材の有無がカギを握る
企業が誕生したばかりの「創業期」は、まだ組織・制度などが未完成・未整備の状態にある。このような時期は、トップの強いリーダーシップの下、何事にもスピーディーに対応できる組織となっている必要がある。まだ社員数も少ないため、個人の役割分担もそれほど明確になっていない。逆に言えば、全員に経営者的な視点が求められると言っていいだろう。会社独自のビジネスモデルをはじめとして、業務の流れや仕組みを一から構築していかなければならず、その上で、他社との差別化を図っていくことが急務となる。
求められる人材は、何事にも主体的に取り組み、自分で企画立案を行うことができ、そこでの課題を発見し解決のための提案ができる、万能型のタイプ。創業期では、このような資質を持った人材が社員として参画することによって少しずつ組織が整備され、企業としての基盤が築かれていくのだ。
(2)成長期:自社の事業サービスの標準化・システム化が課題。量的拡大や生産性向上への貢献のできる人材が不可欠
そして「成長期」になると、受注等の拡大に伴い、右肩上がりの状況になる。社員も増え、各部署の役割分担がより明確になり、組織としての基盤が進み始めた状態となる。自社の事業サービスの内容もある程度、均質化・標準化・システム化され、よりいっそうの量的拡大を求める動きが活発化してくる。
先に述べたように、創業期にはトップと直結したスピーディーな動きが求められたが、組織が拡大していく成長期になると、指揮系統はトップダウンから委譲型へと移行し、現場レベルでの権限委譲が進行する。その結果、自分に与えられたミッションを果たすために、周囲の仲間や部下、他部門との連携プレーが不可欠となる。さらに、業務を効率的に進めていく中で、その都度発生した問題を適切に解決したり、優先順位を決めてやるべきことを遂行したりする能力も必要となる。成長期にあっては、このような量的拡大や生産性向上に貢献のできる人材がとても重要なのだ。
(3)多角期:確立したサービス商品・サービスを軸に、顧客層の拡大や競合との差別化戦略で、活路を拓くことの出来る人材が求められる
そして「多角期」を迎えることになるが、ある程度発展を遂げ、自社の商品・サービスが比較的安定した顧客を確保し始めた段階では、今後どのよう方向を目指していくのかが重要な企業戦略となる。
この段階で求められる人材は、現在、会社が置かれている状況を的確に分析し、どう進むべきかを考え、見極めることができるタイプである。今、いったい何が問題なのか、どのような障壁を克服すれば新しい発展につながるのか、今後変えていくべきことや残すべきことなどを見極める。そして、やるべきこと・行くべき方向が定まれば、周囲や上司を説得し、自らが率先して推し進める。このような人材に、経営側も大いに期待することになる。
(4)変革期:改善・改良レベルではない、抜本的な仕組みを考え、提案や実行していく人材が不可欠。第二の創業的な新生に挑戦するタイプが求められる
「変革期」というのは、言わば第二の創業、企業の新生時期に当たるものである。それだけに求められる人材要件は、創業期と似通った点がある。しかし、異なる点も多い。なぜなら、従来のビジネス構造をベースにした新しい仕組み作りの提案や、既に確立している顧客や取引先に対する顧客満足の見直しなどを踏まえた上で、新規事業の立ち上げやビジネスモデルの再構築に取り組んでいかなければならないからだ。
そのためには、自分の提案やアイデアを現実レベルに落とし込みながら、主体的に推し進めていく力が求められてくる。また、短期間に結果を出すことよりも、中長期的な視点で改善計画や目標達成の具体的なシナリオを考案できるかが優先される。変革期では、このようなことのできる人材が求められており、高度成長期、そしてバブル経済崩壊後の空白の10年を経て、成熟期にある大企業がこの段階にあるのではないか。
参考までに、具体的なコア人材のイメージをつかんでもらえるよう、企業の発展段階で求められる人材要件(人材ニーズ)とコア人材の例を上げておく。
■図表:企業の発展段階と求められる人材要件(人材ニーズ)=コア人材のイメージ
企業の発展段階 | 求められる人材要件(人材ニーズ)=コア人材のイメージ |
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創業期 |
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成長期 |
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多角期 |
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変革期 |
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