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今こそ求められる「キャリア自律」、
その実現のために人事は何をすべきか?

慶応義塾大学大学院 政策・メディア研究科 准教授
コーポレートユニバーシティ・プラットフォーム代表取締役

小杉 俊哉さん

キャリア自律に向けて、人事がすべきこと

ところで、キャリア自律を組織に根付かせるためには、何がポイントとなりますか。

キャリア自律に対するトップのコミットメント、これは必須でしょう。これからは、現場が自分で仕事を作って、自分で責任を取る。それを、上位者は支援していく。それができない限り、会社の未来はありません。トップは大きな方向性は示せたとしても、次のビジネスモデルが分かるかと言えば、答えをもっていないでしょう。それには、現場からアイデアを出してもらって、現場を活性化させ、主体的に動いてもらうことが不可欠です。社外のネットワークを通じての協業も重要になります。新しい価値や仕事は、そういうダイナミズムの中でしか生まれません。だからこそ、トップからのメッセージが重要です。

キャリア自律に限らず、何か制度や施策を導入する場合、人材マネジメント・バリューチェーンとの整合性が重要になってくるように感じました。

組織の構成員の意識が変われば、行動に表れ、制度・施策などは自然と機能していきます。その際、人材マネジメント・バリューチェーンを精緻に極める必要性ありません。それよりも、それと反することを言ったり、したりしないことが重要です。それだけで、ベクトルが進むべき方向に合ってきます。あるいは、それに反するような中間管理職層を放っておかないこと。「俺の言う通りにやれ」というような人を、登用してはいけない。そういう人は外しておかないと、部下は育ちません。

その際、人事が果たす役割とは何でしょう。

人事はトップに対して、働きかけていかなければなりません。ところが、多くの人事はそうではない。自分のポジションを守ることに、重きを置いています。官僚的で、過去のやってきたことに縛られています。このようなあり方を、自分たちで変えようとしない限り、人事の未来はありません。

考えてみてください。人事は人材像や評価制度、給与制度を作り、人材開発を行い、新入社員の採用を行っているわけです。そこでの古い発想を一度横に置いて、将来を見据えた上で、まずは自分たちで壊そうと動かない限り、社員には響いてこないでしょう。

人事部門の中でも、セクショナリズムがあったりします。

人材開発と人事企画、採用担当が交わらなかったり、協力体制がなかったりしている。そこの部分でのバリューチェーンが機能していない人事は、少なくありません。だから仕組みとして、少なくとも人事の中で、人材を回していくことは欠かせないでしょう。また、人事内の交流も必要ですが、それ以上に、外部の人材を投入していくことです。個人的には、半数くらいは営業やラインから来た人で構成していくべきだと思っています。

人事も、会社組織の機能の一つでしかありません。しかし、人材マネジメント・バリューチェーンに対して、ものすごく大きな影響力を持っており、非常に重要な部門です。そこの人材が全て、入社したときから人事しか経験していないというのは、あり得ない話です。これでは、自分たちのやっていることを客観的に見ることができません。

だからこそ人事が率先して、自らのキャリア構築と継続的学習に積極的に取り組み、ネットワーク作りをするようになれば、それは社内に対する大きなメッセージとなります。それをもって、経営に進言していく。こういう流れを、人事が自ら体現していくことが大切のように思います。

キャリア自律に限りませんが、社内改革を進めていくことは、人事だけの力ではできません。同じ志を持つ他の部門を巻き込みながら、一緒にやることが必要です。あるいは、役員レベルで支援する人を巻き込んでいくことです。

そういう意味でも、社内の人を巻き込みながら事に当たっていくというのは、人事として不可欠なスキルとなりますね。

そうです。ただ残念ながら、そうしたスキルを持った人は、人事には少ないように思います。経験していないからです。しかし、人事ほど、ネットワークの力が求められている部門はないでしょう。現場からの生の声を吸い上げたり、新しい人事施策を浸透させるために現場に非公式に訪れて、若手社員に分かりやすく説明したりして理解を促すことが必須です。そのためにも、他の部門から登用するとか、人事担当者で上にいって欲しい人は現場に出していく必要があります。現場を分からないで人事をやっていると、単に自己満足の世界になってしまいます。

なるほど。キャリア自律の根底には、人事としての重大な課題が内包されていることがよく分かりました。本日はお忙しい中、どうもありがとうございました。

小杉 俊哉さん Photo

取材は2010年1月15日、東京・港区にて
(取材・構成=福田敦之、写真=東幹子)


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