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キーパーソンが語る“人と組織”

今こそ求められる「キャリア自律」、
その実現のために人事は何をすべきか?

慶応義塾大学大学院 政策・メディア研究科 准教授
コーポレートユニバーシティ・プラットフォーム代表取締役

小杉 俊哉さん

変化の激しい時代にあって、人材は流動化しており、個人がキャリアについて自分なりの考えを持ち、自分自身の力でキャリア開発を行う「キャリア自律」の必要性が出てきました。個人のキャリア自律は最終的には企業の成長につながるものであり、これを促進するのは人事の大きな役割です。昨今の不況下、コスト削減のためにキャリア自律研修を控える企業も多いようですが、中長期的な視点で考えれば、今こそキャリア自律に関する明確な施策を打ち出すことが、必要なのではないでしょうか。それでは、キャリア自律をどのような方法で実現させていけばいいのか?これまで数々の企業の人事責任者を歴任、また、大学ではキャリア自律を研究テーマとし、自身でもキャリア自律研修の講師を務める小杉俊哉さんに、詳しいお話を伺いました。

Profile

こすぎ・としや●1958年生まれ。早稲田大学法学部卒業。マサチューセッツ工科大学経営大学院修士課程修了。NEC、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ユニデン人事総務部長、アップルコンピュータ人事総務本部長を経て独立。専門は人事・組織、リーダーシップ、人材開発、キャリア開発。大学では「リーダーシップ論」「研究開発と組織」「テクノロジーマネジメント論」等の講義を担当している。最近は、「ラッキーをつかみ取る技術」「仮面を被らないキャリアの作り方(DoingからBeingへ)」「他者評価から自己評価へ」「ギフトとミッション」などをテーマに著述や講演を積極的に行っているが、自らの経験をベースとした語り口にはファンが多い。主な著書に、「29歳はキャリアの転機」「人材マネジメント戦略」「キャリア・コンピタンシー」「組織に頼らず生きる」「好きにやっても評価される人、我慢しても評価されない人」「ラッキーをつかみ取る技術」などがある。

今なぜ、キャリア自律なのか?

小杉 俊哉さん

キャリア自律を導入する企業が増えてきたように思いますが、そもそも「自立」と「自律」の違いは何ですか。

「自立」というのは、「親から自立する」という言い方に代表されるように、自分の食いぶちを自分で稼ぐということ。組織内で言うと、自分の仕事や役割を、人の手は借りずに自分でこなすことができる状態を言います。これに対して「自律」は、自分で立つことは大前提であり、その先の段階が重要です。与えられた仕事や役割をこなすだけではなく、自分で仕事や役割を作り出し、結果まで含めて責任を持つこと。これが自律です。

ジャック・ウェルチの有名な言葉で、「あなたの運命は自分で決めなさい。さもなければ、誰か他の人間が決めてしまう」というのがありますが、言い得て妙です。人から言われた通りにやっていると、それなりの評価を得るかもしれない。しかし、その人があなたの面倒をずっと見てくれるでしょうか?それはできない話です。だからこそ、自立から一歩進んで、自分は何をするべきかを、考えてみる必要があります。現在は、そのように自分を律することが求められる時代になってきました。

キャリア自律が求められてきた背景というのは何でしょうか。

自律は、昔は特に必要がありませんでした。組織の上位者から言われたことをひたすらこなしていく、そういう兵隊的な対応で十分でした。経済が右肩上がりの状態で、組織はどんどん拡大し、仕事は山のようにあったからです。そこでは、上位者が経験したことを伝承し、下位者はそれを学んで、自分もできるようになっていく。そういう拡大再生産が続いていた時代です。この場合、余計なことをされてはむしろ困るわけです。

ところが現在、ほとんどの職種は頭脳労働となりました。上位者が答を知っている訳ではなく、仕事に必ずしも自信を持っている訳でもない。なぜなら、現在の環境は上位者も経験したことのないものだからです。変化のスピードは激しく、競争相手が誰だか分からなくなってきています。今までの売り方やビジネスモデルでは、稼げない状況となっている。さらには、企業自体の存続も危うい。こういう状況は、誰も経験していません。

成功してきた企業、成功してきた人ほど、過去の成功体験を多く持っています。それと違うことをやるのは、成功した企業や成功してきた人ほど難しい。それは、自己否定につながるからです。それ故に企業を内部から変革することは難しい。実態として、このような仕組みが存在するようになってきました。

こういう状況になったのは、いつ頃からでしょうか。

小杉 俊哉さん Photo

決定的になったのは、20年ほど前のバブル崩壊後です。しかし、そういう状況でも、今までと同じやり方をずっと続けているから、なかなか浮上できない。それでは、やり方を変えるにはどうすればいいのか。例えば、より現場に近いところの人、まっさらな新人、あるいは中途採用で他の会社を知っている人のほうが、状況をより客観的に見ることができるでしょう。そういう人を中心に据えて会社を運営していくことで、環境変化に対応することが可能となります。そのために、これから会社が何を目指すかと言えば、自律した組織にすることではないでしょうか。それは、従来型のマネジメントとは違うものになるはずです。

自律した組織にできないのも、自己否定することがなかなか難しいからですね。

SCM(サプライチェーン・マネジメント=供給連鎖管理)と同じように、これには人材マネジメント・バリューチェーンの問題があります。企業がその活動によって価値を生み出していくバリューチェーンは、人材マネジメントにも存在しているからです。

まず、企業を取り巻く経営環境の中で、企業の方向性やビジョンが設定されます。次いで、リーダーシップのあり方、発揮の仕方があり、それに応じた組織・人事の戦略が構築されます。これに沿った形で、人事制度や人事施策が運用され、社員に適用されます。その一連の価値連鎖の最終段階に位置する社員が、市場や顧客に沿う形でバリューを提供しているわけです。これが人材マネジメント・バリューチェーンであり、それを体現しているのが企業の風土・文化と言うことができます。

昨今の成果主義云々の問題は、この人材マネジメント・バリューチェーンの整合性を取らないで、施策だけを変えてしまったことによって起こりました。今までと同じような組織マネジメントを行いながら、いきなり施策だけを導入してしまった。バリューチェーンの構造が同じなのに、人事制度・施策だけを変え、社員に対して「今から、あなたたちには成果主義を適用します。成果によって、給料を変えます」といきなり言ったので、機能不全を起こしてしまったわけです。成果主義にするのならば、人材マネジメントの全てを、それに合わせた形に変えなければなりません。社員の評価の部分だけを変えても、機能するわけがありません。

つまり、成果主義が悪いのではなくて、人材マネジメント・バリューチェーンに齟齬をきたしていることが問題なのです。成果主義に変えるのだったら、ビジョンやリーダーシップのあり方や組織も変えないといけない。ビジネスを考えると、価値連鎖を考えるのはごく普通の当たり前の話です。それが、なぜか人材マネジメントに関しては、正しく行われていません。

バリューチェーンの整合性が取れていない中での成果主義の導入は、破たんするのが必然だったわけです。私はこれらのことを、1999年に「人材マネジメント戦略」で指摘したわけですが、当時はほとんど理解されませんでした。それが10年経った現在では、研修や講演で話をすると、「その通りですね」と皆が言います。

現在は、会社が個人に対して雇用責任を持てなくなりました。終身雇用ということは、新卒で入った人の40年後までも面倒を見なくてはならない。そんなことは、数年で代わる社長が保証できるはずもありません。そもそも、それまで会社が存続しているかどうかも分かりません。ですから、会社としては必然的に、皆が自律して欲しいと願うわけです。また、そういうふうにならないと、責任を取る人が誰もいなくなってしまいます。

これも必然的な流れですね。

キャリア自律を言い出したのは10年ほど前ですが、当時はものすごく抵抗がありました。そんなことをしたら、社員が辞めてしまうのではという意見が大半でした。さすがに今ではそういうことを言う人はほとんどいません。正しく理解されているかどうかは別として、自律意識を持たないといけないという話は、企業の中でかなり浸透してきたように思います。


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