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社員の「学ぶ力」を劇的に変える方法

株式会社アクティブラーニング 代表取締役社長

羽根 拓也さん

企業がこぞって「学ぶ力」に着目

実際には、どんな企業でこうしたアクティブラーニングの手法が導入されているのでしょうか?

有名企業や、自治体や官公庁などからも声をかけていただきますし、デジタルハリウッド大学院では、04年からアクティブラーニングの手法を全面導入していただいています。独立行政法人国際協力機構(JICA)でも、海外に専門家を派遣される場合、アクティブラーニングを必須科目として受講するという形で利用していただいています。

アクティブラーニングの手法というのは、優れたビジネスパーソンであれば、自然に身につけているはずのものです。私たちはそれを理論化し、体感させていく。その上で、例えば、先ほどの3Wの研修であれば、個々人が3Wのどこが苦手でできていないかを見抜き、それに合ったアドバイスと訓練をしていく、ということをしています。

企業がこぞって、「学ぶ力」に着目する理由は何でしょう?

羽根 拓也さん Photo

それは非常に簡単です。「学ぶ力」の上に乗るべき専門知識があまりに速い速度で廃れていくので、専門知識を身につけさせるだけでは、時代の変化に対応できなくなっているからです。

昭和の時代であれば、ある一つのやり方を確立すれば、それが10年、20年はもったでしょう。それがインターネットの発達やグローバル化で、3年になり、1年になり、場合によっては1年持たない、ということも起こりうるようになっています。

そういう時代に、新しい知識を注入しようと思っても、すぐに古くなってしまう。ならば、企業が人を育てようとする場合、何を鍛えればいいのかというと、どんな環境変化にも対応できる「人間力」、つまり「学ぶ力」を育てることしかないんだと思います。

私たちは採用のお手伝いもしていますが、それを理解している企業はどこも、そうした力に注目して人を採りたいとおっしゃいます。

採用の段階で、その人が「人間力」を持っているかどうかを見抜くことはできるんでしょうか?

昔から、採用面接で何となく、「田中君より鈴木君がいいね」という時は、たいていこの「人間力」を見ていたわけです。「人間力」とは、その人が持つ「可能性」と言い換えてもいいかもしれません。

ビジネスをしていく上でこうした力が必要なんじゃないかということは、2年くらい前から政府も言い出していて、「社会人基礎力」という言葉で定義されています。具体的には、前に踏み出す力やコミュニケーション力などがそれにあたると言われています。ただし、そうした力を育てたいと思っても、これまでは確固とした方法論がありませんでした。私たちは、それを明確な方法論として提示しています。

「人間力」や「学ぶ力」を鍛えるというと、時間がかかりそうなイメージがあります。

スポーツをするために、筋肉をつけなければならないのと一緒だと考えてください。一週間トレーニングすれば変化は見えますが、それで「変わった」とは言いきれない部分はあります。

私がイメージするのは、いわゆる伝統芸能の世界です。茶道にしても武道にしても、何年もかけて、その根っこの部分を教え込んでいきます。いわゆる「型」を覚えるというのは、「学ぶ姿勢」を整えているのと同じ。時間はかかりますが、いったん身に付けてしまえば、学ぶ対象が何であれ、応用が効きます。

アクティブラーニングで、組織も変わりますか?

変わります。先ほど説明した3Wをチーム全体で意識させて、自分たちが作ったフレームワークが絶対ではないと気づかせてあげればいい。そのためには、お互いが何を見て、どう感じているかをアウトプット&フィードバックさせることから始めます。

自分は「こう思っていた」ということをお互いにアウトプットし、「なぜそうなのか」を明らかにして行くと、自分自身がある一つのフレームワークにとらわれた思考をしていたことに気づきます。場合によっては、それを異なる組織や企業同士で組み合わせて実施するんです。そうすると、それまで見えていなかった「差異」が見えてきて、それがある一定まで達すると、個人が成長をはじめ、組織が自動的に変化していくんです。

実はこうしたことを、すでに文化として持っている企業もあります。典型的なのは、トヨタの「カイゼン」です。

カイゼンのいいところは、商品開発や売上を伸ばすことが目標ではなく、自分たちが成長し続けることが目標になっている点です。つまり、社員全員が「学ぶ力」を持つことが、トヨタの強みであるという共通認識ができている。これは非常に強いです。こうした人材育成を、ある会社ではリーダーシップ研修という言い方をしてみたり、グローバル人材育成といっているんですが、やっていることは何かというと、学び続けることができる人材を作っているのだ、ということに尽きると思います。

「なぜ?」を常に問い続ける

これからどんな社員研修をしていくべきか、悩む人事部へアドバイスをお願いします。

人も組織も、成長を続けるのは、しんどいものです。今ある状態よりもより良くしようというのですから、当然、負荷もかかります。負荷がかからないと、人は成長できません。

ただし、その時にむやみやたらに「努力」や「根性」で乗り越えようとしても限界があります。それを、先ほどの3Wのような、思考回路や行動特性を意識することによって、方法論として実践できるのです。

人も組織も、一つのフレームワークにはまってしまうと、それを自ら壊すことは難しくなります。長い間培った伝統と技を持つ企業でも、業界を超えた変革の波がやってきた時に、それに固執していたら対応できません。

人事部の方々も、去年行った研修はどういう効果があったかを、具体的に思い浮かべてみてください。変わったと思うなら、それでどのくらい、業務が改善されたでしょうか? もしも、思ったほど業務が改善されていないとしたら、それは「なぜ?」でしょうか。その「なぜ?」を問うことが、次に研修が成功するために必要なのです。

取材は2008年2月14日、東京・港区にて
(取材・構成=曲沼美恵、写真=中岡秀人)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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