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これから日本の「働き方」「雇用」はどのように変化し、
人事はどう対応していけばいいのか(後編)[前編を読む]

日本大学総合科学研究所 准教授

安藤 至大さん

これからの変化に対して、人事はどう対処するべきか

その他、これから予想される労働・雇用に関するさまざまな事象に対して、人事はどのように備え、どういう姿勢で臨むべきでしょうか。

少し先を見据えた議論を、社内でしておいた方がいいと思います。例えば、東京オリンピック・パラリンピックが終わってから10年後の2030年。今から15年後くらいに、自社のビジネスがどうなっているのか。その時に、働き方はどのように変わっているのか。そういうことをイメージするのです。

そのような時間軸を持った視点で考えると、これからも絶対に失われない仕事があることが分かります。よく例に出されるのは、日本で一番古い株式会社と言われる、飛鳥時代に創業された金剛組。社寺仏閣の建築の設計・施工、文化財建造物の復元を行っている会社ですが、同社の仕事は機械で置き換えることが難しい。一方で、これから簡単に機械に置き換えられてしまう仕事も出てくるでしょう。例えば、自動翻訳機はどんどん性能が良くなっているので、近い将来、翻訳や通訳は必要なくなるかもしれません。5年、10年、15年と少し先の状況をイメージしながら、そこで自分たちに何ができるのかを考えていくことが必要でしょう。

安藤至大さん Photo

今後、日本では人口が減少していきますが、世代間で均等に減っていくわけではなく、高齢者の割合が多く、現役世代の割合は減少していきます。また日本の中で急速に人口が減っていく地域がある一方、東京には人がどんどん流入してくると予測されます。つまり、日本全体を見渡した時、空間的な人の配置が今とは大きく変わってくるのです。そうした状態も見通しながら、経営計画を立てていかなければなりません。経営者も人事担当者も、常に未来に向けて、幅広い勉強が必要だと思います。

また、労働異動についても考えなければなりません。労働異動を阻害している要因として、企業年金を転職先の会社に持っていくことができないといった問題は、確定拠出年金(401k)のようなポータブルな形にした方がいいと思います。これは、退職金に対する優遇税制についても同様です。例えば、50歳の労働者が、今の会社にいるよりも自分を必要とする新興企業に移ったほうが、やりがいのある仕事ができるけれど、いま会社を辞めるのは退職金などの面で金銭的に損失が生じるので転職しないというのは、もったいないことだと思います。その点からも、退職金税制の変更が必要なのです。

労働者本人が会社を移りたいとき、また、移ったほうが望ましいときに異動を支援するという意味での雇用の流動性は、あっていいと思います。だからといって、雇用の流動化を進めなくてはならないと一方的に言うのは、乱暴な議論です。これまでも、景気が良くなって労働者側から望んで移っていくケースがありました。一部に解雇の規制を緩和しないと、適材適所が実現しないという意見がありますが、そのようなことはありません。解雇規制は、契約や法律の原理原則に則った上で、一方的な契約破棄は認められないということです。

これからは、いろいろな立場の人が雇用や働き方について、オープンに話し合うことのできる場が必要のように思います。

時代に合った働き方を作っていくためには、一方的な思い込みや乱暴な議論ではダメですね。具体的に今どんな問題があって、それにどう対応するべきなのかを、現場の人たちがきちんと話し合わなければなりません。ところが現実では、経営者側、労働者側のそれぞれの立場の人が、自分の経験や思い込みだけで話をしてしまいがちです。それに対しては、我々のような研究者がデータやロジックなどでサポートしつつ、議論を深めていきたいと思っています。

現在、「高度プロフェッショナル労働制」の問題など、雇用と働き方についてさまざまな議論が進んでいますが、これから日本が取り組まなくてはならない必要な改革はあると思います。新しい方向に踏み出すことを怖いと思う人もいるかもしれませんが、変えていく必要性があるのは事実です。ただ、もしうまくいかなかったら、元に戻すことができてもいいと思います。

例えば、最低賃金。生活保護との逆転現象などが問題視され、このところ上昇しています。しかし、場合によっては下げてもいいのではないでしょうか。というのも、賃金は1回上げるとなかなか下げられないとしたら、それは実は賃金を上げることへの抑止力となってしまいます。その結果、景気が良くなっても、労働者の待遇改善になかなか結び付かない。ところが、下げることができるなら、その時々の状況に応じて、柔軟に対応することができます。「場合によっては下げることもあります」と想定していれば、賃金も上げやすくなるのです。

ベースアップの問題も同じですね。

バブル経済崩壊後、失われた10年、あるいは20年と言われた景気の悪かった時代には、労働組合もベースアップではなく、雇用を守る方向で会社と交渉していました。実質的には、ベースダウンの意味を含んでいたわけです。このようなことも含めて、現場の人たちがよく話し合うことと、どういう仕組みが労働者と企業の双方のためになるのかを冷静に考えていく必要があると思います。

企業で人事や雇用に携わる方々に向けて、メッセージやアドバイスをお願いします。

経営者には、一般の労働者の気持ちがなかなか分かりません。一方、労働者には企業経営の経験がありません。経営者と一般の労働者は、それぞれをあまり理解しないまま、表面的に相手を責めているように感じます。

まずは、お互いに相手をよく知ることが大切です。労働者にもいろいろな人がいますし、それは経営者にしても同じです。まっとうな労働者が困った経営者のことを攻撃し、まっとうな経営者が困った労働者を攻撃するような状況がありますが、重要なのは人と組織を回していくことです。個別的、具体的に問題があるのなら、どう対処すればうまく回るのか、冷静に議論してほしいと思います。

最後に一つ、今後の人事施策において重要な要素の一つとなるのは「リテンション」だということを、強調したいと思います。つまり、労働者の離職防止です。これから人口は大きく減少していきます。この時、限られた労働者の奪い合いが発生し、企業では労働者の離職防止が大きな問題となると予想されます。そのために何が必要かを、いまから考えておくことが望ましいでしょう。

デフレによる長期不況の元では、一部の飲食業が好業績を実現していました。しかしそれは低賃金と過酷労働に支えられたものです。しかし少し景気が良くなると、労働者が集まらなくなり経営に苦しんでいます。そのような事態にならないために、労働者の待遇を長期的視点から考えておくことが企業経営者や人事担当者の必須課題になる、私はそう考えています。

安藤至大さん Photo

(2015年6月23日 東京都千代田区 日本大学会館第二別館にて)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

安藤至大さん: これから日本の「働き方」「雇用」はどのように変化し、 人事はどう対応していけばいいのか(前編)
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この記事ジャンル 人事管理諸制度

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