Jリーグ 村井チェアマンに聞く!ビジネスで発揮してきた人事・経営の手腕を、
Jリーグでどう生かしていくのか?(後編)
~グローバルで勝つために必要な「成長戦略」[前編を読む]
公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)チェアマン
村井満さん
「プロフェッショナル集団」としてのJリーグをどう運営していくか
Jリーグという組織を運営する上で、どのような点を心がけているのでしょうか。
Jリーグでは、毎週サッカーの試合が行われ、14~15万人もの観客がスタジアムを訪れます。今年は、J1の入場者数が1億人を突破しました。これだけの大規模な観客を動員するリーグ運営を各クラブと協力しながら行っていくと考えると、Jリーグは巨大なプロの「興行主」であることが分かります。
サッカーには、人を熱狂させるものがあります。職場の中でものすごく大きな声で叫ぶことはありませんが、サッカーのスタジアムならものすごく大きな声を出してもいい。サポーターはひいきのチームを応援し、スタジアムは熱狂の渦と化していきます。こうしたエキサイティングな試合を毎週、興行しているわけです。そのためには、まずスタジアムを安全に運営するプロフェッショナルであることが求められます。
新卒で採用してローテーションによって時間をかけて人を育てていく企業とは違い、即戦力であるプロフェッショナルでないと、興行は仕切り切れません。完全なスペシャリスト集団です。Jリーグ本部には約50名のスタッフがいます。競技の運営担当、スポンサー対応する営業担当、メディアに対する広報担当など、それぞれのプロフェッショナルが対応しています。それと同時に、興行主ですからプロフェッショナル同士の横のコミュニケーション・連携が不可欠です。何か問題があると広報は瞬時にメディアに伝えると同時に、スポンサーに伝えなくてはなりません。また、そうしたことが二度と起こらないよう、競技を運営する各クラブに伝えていきます。こうした横の動きが、一糸乱れず連携して行わなければなりません。
プロフェッショナル組織というのは、完全な縦割りで権限移譲されると、横との連携が遮断されがちです。そこに横串を刺して運営していくことが、Jリーグには宿命として義務付けられています。今、私が腐心しているのも、既にプロフェッショナルはいるので、横の壁を越えたコミュニケーションをどうするかということです。そのためにチェアマン室で部署や担当などレベルを越えたホールミーティングを開催していて、今後はこれを定例化していく考えです。
各クラブや選手との連携も大変ですね。
今、Jリーグには全国36都道府県に51クラブがあり、約1500人の選手と3000人近くの職員が所属しています。しかも、各クラブにはトップチームだけではなく育成レベルの少年チームがあり、女子チームやサッカー以外のチームを持っているクラブもあるなど、非常に大きな裾野を持つスポーツビジネスと言えます。
そのため、チェアマン室にいても得られる情報は非常に少ない。そこで、全国のクラブハウスに出向いて選手のロッカールームの様子を見る、練習場に行って芝の管理の状態をチェックする、あるいはサポーターが集まる飲み屋に行って彼ら・彼女らの思いや熱気を感じる、さらには行政や経済団体のトップに会って地域における支援の実態を知る(支援をお願いする)、といったことを毎週行っています。各地域やクラブに直接足を運んでありのままの姿を見ることによって、私自身のやるべきことの「基準値」が定まってきます。チェアマンに就任して9ヵ月が経ちましたが、J1、J2、J3合わせて51あるクラブのうち、既に49のクラブを訪問しました。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。