明確な就業規則違反、業務命令違反がない問題社員対策!
「グレー問題社員」への注意・指導と懲戒処分の仕方
弁護士
浅井隆(第一芙蓉法律事務所)
3. 類型別グレー問題社員への対応
(1)勤怠不良型
1ページ目、2(1)の具体例を念頭に、対応を考えます。
【1】始業時刻ギリギリに出社する
ⅰ.グレー度
まず、出社時刻が就業規則所定の始業時刻に間に合っており、始業時刻と同時に労務提供を開始できていれば、遅刻ではありません。しかし、始業時刻と同時に労務提供ができていない場合には債務不履行となります。例えば、9時が始業時刻とした場合、9時キッカリに出社しタイムカードを打刻したものの、すぐに席に着いて仕事を開始せずにコーヒーを飲みに行ったり、朝食をとり始めたりするのは、債務不履行です。つまり、遅刻はしなかったが、いきなり職務専念義務違反、職場離脱をしたことになります。
ⅱ.対応
まず、始業時刻ギリギリに出社してタイムカード打刻後、食事、トイレ、その他一服等していたら職務専念義務違反(債務不履行)に該当しますので、注意してください。注意は、まずは口頭で、例えば、「始業時刻に間に合ってタイムカードを打刻してもすぐに仕事に就かないのは、職務に専念していないということなので、そのようなことはしないように、食事、トイレ等は、始業時刻前に済ませて、仕事にすぐにとりかかれるようにしてください」というように言います。
一度口頭注意をしても改善されないときは、二~三度口頭注意をしたうえで(この段階になったら、口頭注意を業務報告書(書式例1参照)の形で記録化する)、さらに改善がみられないときは、文書で注意(書式例2参照)してください。
文書で注意しても改まらないようであれば、軽い懲戒処分、例えば、けん責処分等(書式例3参照)をして、当該グレー問題社員を覚醒させてください。また、賞与査定、昇給査定においても考慮し、上記の勤務態度が処遇上もマイナスとなることを、グレー問題社員にはっきりわからせてください。
【2】電車遅延を理由にした遅刻が多い
ⅰ.グレー度
労働義務は、「持参債務」といって、債権者つまり使用者の事業場で行うもの(民法484条)なので、電車遅延による遅刻であっても、その時間分は債務不履行に変わりなく、ただ債務者(=労働者)に帰責性がない(民法415条)ということです。よって、その対価である賃金は支払わないとしても、まったく問題ありません。ただ、帰責性がないので、懲戒等の処分はできません。
ⅱ.対応
一度や二度の電車遅延による遅刻なら大目に見ることができても、「多い」のであれば、その路線は遅れやすい公共交通機関なので早めに自宅を出て(持参債務である)労働義務をきちんと履行できるように、注意すべきです。例えば、口頭で、「あなたの通勤経路は遅れが生じやすいようなので、そのことも見込んで出勤時刻に間に合うようにしてください」というように注意します。
その注意をほとんど聞かず、その後も遅刻を繰り返すようでしたら、その時間分(わずかな時間でも)賃金をカットすればよいでしょう。さらに、賞与の査定において、査定項目として「積極性」や「責任感」などの項目があれば、この点の評価を低くして賞与額に反映させればよいでしょう。
ただ、懲戒処分までするのは難しいと考えられますので、その点は慎重にしてください。
書式例1
平成○年○月○日
業務報告書
○○営業部長 殿
第2営業課課長 ○○○○
第2営業課の課員○○には、職務遂行上、下記の問題があることから、本年○月○日午後○時第3会議室にて、○○係長同席の上、下記注意・指導をいたしましたので、その旨報告いたします。
記
1. 職務遂行上の問題点
始業時刻ギリギリに出社してタイムカード打刻後、食事、トイレ、その他一服等していて、職場専念義務に違反している。
2. 注意・指導内容(上記1.に対応)
始業時刻に間に合ってタイムカードを打刻しても、すぐに仕事に就かないのは、職務に専念していないことなので、そのようなことはしないように、食事、トイレ等は、始業時刻前に済ませて、仕事にすぐにとりかかれるように、と注意した。
以上
書式例2
平成○年○月○日
○○○○ 殿
株式会社 ○○○○
人事部長 ○○○○
注意書
始業時刻に間に合ってタイムカードを打刻しても、すぐに仕事に就かないのは、職務に専念していないことなので、そのようなことはしないように、食事、トイレ等は、始業時刻前に済ませて、仕事にすぐにとりかかれるようにしてください。
以上
書式例3
平成○年○月○日
○○○○ 殿
株式会社 ○○○○
人事部長 ○○○○
けん責処分通知書
貴殿は、始業時刻ギリギリに出社してタイムカード打刻後、食事、トイレ、その他一服していて、職場専念義務違反している。
これらの行動は、就業規則第○条第○号(服務規律の規定)に違反し、よって、同第○条第1号(「本規則、会社の定める諸規程または法令に違反したとき」に該当するので、同第○条第2号に基づき、けん責処分とすることを通知する。
以上
【3】昼間の休憩時間を所定時間以上取り、午後の始業時刻になっても戻って来ない
ⅰ.グレー度
例えば、所定休憩時間は12~13時の1時間なのに、12時に午前の仕事を終えて外出し、13時30分にようやく戻ってきて仕事を再開した場合です。
「所定休憩時間」とは、言わば、約束した休憩時間なので、それ以上休憩するのは約束違反=債務不履行です。また、午後の始業時刻を過ぎても戻って来ないなら、この点でも債務不履行です。
では、例えば、12時30分まで仕事をして休憩を取り、13時30分に戻ってきた場合ですが、これは、休憩時間がずれた(変更した)ことになり、そのようなことが職場では時々発生し、これまでも特に問題とされていなかったならば、債務不履行とは言えません。また、当該社員を管理職と位置付け残業代を支払っていなかったなら、管理職と位置付けている以上労働時間管理を当該社員に委ねていることになるので、問題視はできません。もし、その管理職が自分の労働時間にルーズなため部下を管理できていないというなら、勤怠不良ではなく職責不良なので、その管理職を降格させるのが本筋です。
ⅱ.対応
上記ⅰで債務不履行という評価ができるなら、上記【1】、【2】と同様の対応をすべきです。つまり、口頭注意→文書による注意→軽い懲戒処分、賞与・昇給査定でのマイナス評価、です。なお、書式は、書式例1~3の中の注意の内容を変えれば、そのまま使うことができます。
【4】勤務時間中に離席し、かつ、なかなか戻って来ない
ⅰ.グレー度
当該職務に必要なことをするための離席ではなく、何をやっていたのかわからない離席の場合は、職務専念義務違反(債務不履行)です。
例えば、トイレやタバコ一服の許容も、厳密に言えば、職務専念義務違反であるのを必要最小限度の範囲で許容しているだけで、トイレ休憩が異常に長いとか喫煙回数が多いときは、注意してもよいのです。同様に、例えば、経理課に赴いての出張旅費の精算が離席理由であると言うなら、その時間が通常それに要する時間を大幅に超えている場合に、どうしてそんなに時間がかかったのかを確認して、事実を正確に把握してください。その結果、例えば、精算ついでに経理課にいる同僚と私的な会話を延々していたことが判明したなら、精算に必要な時間を超える時間は、職務専念義務違反(債務不履行)で、非違行為でもあり懲戒の対象にもなり得ます。
ⅱ.対応
上記ⅰの通り、事実関係をきちんと確認したうえで、もし、職務専念義務違反(債務不履行)、さらには職場秩序を乱すとの評価が可能なら、上記【1】~【3】と同様の対応をすることになります。
つまり、口頭注意→文書注意→軽い懲戒処分、あるいは賞与・昇給査定でのマイナス評価です。その場合に使用する書式についても、書式例1~3を参考にしてください。
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