「配転命令権」行使の有効性判断が必要
人事異動に応じず、従来の職場に出勤する社員への対応
ジョーンズ・デイ法律事務所 弁護士
山田 亨
4. 従来の職場へ出勤する社員への対応
以上の整理を踏まえて、配転命令後も従来の職場に出勤する社員への対応を考えてみましょう。
最初にすべきは、すでになされた配転命令権の行使の有効性を(再度)確認することです。その際、社員が主張する配転命令拒否の理由を手がかりとして、客観的に評価することが必要です。
(1)配転命令権の行使が無効であると判断される場合
すでになされた配転命令が無効であると判断される場合は、その無効原因が治癒可能か否かによって対応が異なります。無効な配転命令権を存続させたまま他の 対応(例えば懲戒処分)をしても、後続の法律行為は無効と評価されますから、無効原因のある配転命令を解消することが先決となります。
1. 治癒可能な場合(例えば配転後の労働条件の調整によって社員が懸念する不利益軽減が図れる場合)
まず、対象社員に対して、治癒のための措置を説明し、改めて当該社員の納得を得るように努めることになります。治癒後の対応は、配転命令権の行使が有効であると判断される場合と同様となります。
2. 治癒不能な場合(例えば対象社員の同意が必要である場合)
まず、配転命令を撤回します。治癒不能であるにもかかわらず配転命令を維持した場合は、会社の不法行為が認定されやすくなり、また、責任の範囲も拡大するおそれがあります(配転命令の有効性について訴訟が係属している場合、社員が負担するリーガルコストについても責任が生じるおそれがあります)。
そのうえで、同意の取得を目指すか、配転以外の方法による目的の達成(例えば対象社員の所属する部門の統廃合によるリストラ等)を図るか、断念するかを検討します。
(2)配転命令権の行使の有効性の判断が困難な場合
社員が配転命令を拒否する理由に一定の正当性があり、有効性の判断が困難な場合は、専門家のアドバイスを得ながら、最 終的に裁判所によって有効と判断される可能性・無効と判断される可能性を予測し、有効であるという前提に立って次のステップ(懲戒処分など)に進むか、無 効の可能性を重視して、上記(1)と同様の対策をとるかを決定することになります。
ただし、仮に有効であるとの前提に立つとしても、社員の主張する拒否理由に一定の正当性があり、その 原因を治癒することが可能であるのに、対立解消に向けた努力を怠って硬直的な対応をすると、次のステップ(懲戒処分等)に進む際の手続き面における社会的 相当性が認められなくなるおそれがあります(三井記念病院事件)。以上をまとめると、以下の通りとなります。
1. 有効性の判断を困難にしている原因が治癒可能な場合(例えば不当な目的による転勤命令であると推認されかねない事情がある場合)
上記(1)と同様に、対象社員に対し治癒のための措置を説明し、改めて当該社員の納得を得るように努めるようにします。治癒後の対応は、配転命令権の行使が有効であると判断される場合と同様となります。
2. 治癒不能な場合
無効と判断されることによるビジネスリスクを勘案し、
- (ア)無効と判断されるリスクを回避する必要がある場合は、上記(1)2と同様に対応します。
- (イ)無効と判断されるリスクを甘受しうる場合は、配転命令を維持したうえで、有効性の判断を困難にしている原因が治癒可能な場合(社員への説明が十分に尽くされていない、対応可能な不利益軽減措置が執られていない等)は、治癒した後、次のステップに進むことを検討します。
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