人事の部課長アンケートにみる人材マネジメントの現況と今後の課題
労務行政研究所では、これからの人材マネジメントの在り方を探るために、人事部門の管理職に対してアンケートを実施しました。結果には成果主義人事が一巡した後の新たな課題が浮かび上がっており、多くの企業にとって参考となる内容となっています。
※『労政時報』は1930年に創刊。80年の歴史を重ねた人事・労務全般を網羅した専門情報誌です。ここでは、同誌記事の一部抜粋を掲載しています。
過去5年間における仕事や職場の変化 全体の傾向~この5年で社員が増える一方で、メンタル不調者が増加
[注]以下では、調査結果の傾向をつかみやすくするため、「Aに近い」と「ややAに近い」の合計(A寄りの回答)と「Bに近い」と「ややBに近い」の合計(B寄りの回答)の結果を中心に分析する。
過去5年間における仕事や職場の変化について、「(8)メンタルヘルス不調を訴える社員数」が“増加した”は65.9%、「(1)社員数」が“増加した”は60.1%で、いずれも60%超となっており、3位の「(6)職場内での連携や協力・協業の雰囲気」が“向上した”という回答の38.4%を大きく上回りました。
[図表1]をみると、総じてA寄りの回答のほうがB寄りの回答を上回っています。ただし、「(4)社員の仕事に対する意欲・モチベーション」に関しては、A寄りの回答が28.2%に対して、B寄りの回答が30.4%と、“低くなった”と“高まった”の回答がほぼ拮抗しています。
社内のコミュニケーションや、管理職の部下育成、職場内での連携や協力・協業の雰囲気は高まりをみせています。しかし一方で、社員数は増えたものの、自己都合退職者は増加傾向にあり、長時間労働等を背景にメンタルヘルス不調を訴える社員も増えています。そうした、職場環境が結果的に仕事に対する意欲やモチベーションを下げつつあるというのが、この5年間の流れといえるでしょう。
人事戦略・人事方針 役職別の状況~「採用における人事部門の関与」「教育訓練の方針」では、 部長と課長でやや温度差
回答者の中から、部長・課長を抽出して、役職別に傾向をみたのが[図表2]です。いずれの項目も、両者に大きな隔たりはありませんが、両者の平均点で0.3点以上差が出たのは、「(1)採用における人事部門の関与」と「(6)教育訓練の方針」――の2項目です。
(1)採用における人事部門の関与
「人事部門が積極的に関与」は、部長74.2%、課長72.8%であまり差はありませんが、「現場主導」は、部長が6.9%に対して、課長は18.2%と3倍近くに上っています。部長と、現場により近い課長の認識の違いが出たものといえます。
(6)教育訓練の方針
「社員全体の底上げ教育を重視」は、部長の48.3%に対して、課長では58.5%と、課長が10ポイントほど上回りました。一方、「選抜教育を重視」は、部長で29.3%と3割近くあるのに対して、課長は16.9%と部長を12ポイント下回りました。
今後重視する人事施策 全体の傾向~人材育成や職場環境の整備、健康管理といった施策を重視
[注]今後重視する人事施策では、「重視する」とする割合から「重視しない」とした割合を差し引いた値(D.I.=Diffusion Index 、ディフュージョンインデックス)で比較した。その値がプラスであれば重視傾向、マイナスであれば軽視傾向を示し、その数値が大きくなるほど傾向が強いことを意味する。
規模計で各項目のD.I.をみると、「38社員のモチベーションの向上」(89.1)、「21 管理職層の人材育成能力の向上」(88.4)、「56 社内におけるコミュニケーションの促進」(87.0)、「51 メンタルヘルス対策」(86.2)の4項目が85以上となっています。
特に、上位4項目は、[図表1]で挙げた「過去5年間における仕事や職場の変化」の中で、「(2)上司と部下、社員間のコミュニケーション」「(4)社員の仕事に対する意欲・モチベーション」「(5)管理職の部下育成に対する取り組み意識」「(8)メンタルヘルス不調を訴える社員数」の項目に符合します。
過去5年間を通じて、メンタルヘルス不調は増加し、コミュニケーション、人材育成、モチベーションとも、はかばかしい成果が表れていないために、その課題解決に向けて重視すべき項目として高く認識されているといえます。
以下、「18 OJTの強化」82.6、「55 経営理念、価値観や企業文化の共有」80.4、「20 新人・若手の早期戦力化」77.6、「4 若手社員層の定着」76.9、「47 時間外労働の削減」76.8、「50 長時間残業者に対する健康管理対策」72.5と続きます。
全体の傾向としては、人材育成や職場環境の整備、健康管理といった施策を重視していることが分かります。ちなみに、人事制度に関連する項目は、「33 職務や役割に基づく人事制度の導入」(37.6)は30位、「31 成果主義人事制度の見直し」(20.3)は38位、「32 コース別、職種別など多様な人事制度の導入」(12.3)で40位、「30 成果主義人事制度の導入・強化」(△5.1)45位、「45 降格人事」(△25.3)55位と、他の項目に比べ、総じて重視度合いは低くなっています。
厚生労働省の「2004年就労条件総合調査」によれば、「個人業績を賃金に反映する」企業の割合は、規模計で53.2%に上ります(第14表)。この傾向は規模が大きくなるほど高まり、従業員1000人以上の企業では83.4%に達します。いわゆる、成果主義人事は2004年時点で相当普及・浸透していることが分かります。その点で、今回の結果は、人事制度改革が一巡し、成果主義人事の運用を通じて得られた新たな課題を象徴しているといえるでしょう。
人事の専門メディアやシンクタンクが発表した調査・研究の中から、いま人事として知っておきたい情報をピックアップしました。