有賀 誠のHRシャウト! 人事部長は“Rock & Roll”【第50回】
人事ケーススタディ(その7)
「パーパス」策定の次は?
株式会社日本M&Aセンターホールディングス CHRO/株式会社日本M&Aセンター 取締役 常務執行役員 人材本部長 人材ファースト管掌
有賀 誠さん
人事部長の悩みは尽きません。経営陣からの無理難題、多様化する労務トラブル、バラバラに進んでしまったグループの人事制度……。障壁(Rock)にぶち当たり、揺さぶられる(Roll)日々を生きているのです。しかし、人事部長が悩んでいるようでは、人事部さらには会社全体が元気をなくしてしまいます。常に明るく元気に突き進んでいくにはどうすればいいのか? さまざまな企業で人事の要職を務めてきた有賀誠氏が、日本の人事部長に立ちはだかる悩みを克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。
みんなで前を向いて進もう! 人事部長の毎日はRock & Roll だぜ!――有賀 誠
前回は、日本M&Aセンターには「M&A業務を通じて企業の『存続と発展』に貢献する」という創業以来の格たる企業理念が存在するにもかかわらず、新たに「自分たちの存在意義を明文化したパーパス」を策定するに至った経緯をお伝えしました。プロセスとしては、あえて広告代理店を使わず、内製することにこだわり、次の「パーパス」が出来上がりました。
最高のM&Aをより身近に
私たちは、思いをつなぎ、
安心してM&Aに取り組める社会をつくります。
日本、そして世界で。
私たちは、「理念=企業としての目標(永遠に変わらないもの)」、そして「パーパス=現時点での企業としての存在意義(時代や環境により変わりうるもの)」と、違いも含めてそれらをセットで定義したのです。これは、創業30周年を迎え、経営陣の世代交代を視野に入れる中での「第二創業」の旗頭ともなりました。
行動規範としての「フィロソフィー」
次なるステップとして、「理念」と「パーパス」を推進・実現するために、社員全員が大切にすべき原則とでも言うべきものを作ろうという流れになりました。
まずは、それを何と呼ぶべきかを議論することからスタートしました。「バリュー」「プリンシプル」「ビリーフ」「クレド」「社員信条」「行動規範」「価値観」など、さまざまな表現を検討し、最終的に「パーパス」という言葉との相性・親和性を考えて「フィロソフィー」と呼ぶことになりました。
矛盾からスタート
日本M&Aセンターには、二人の実質的な創業者、分林(現ホールディングス名誉会長)と三宅(現ホールディングス社長)が提唱し、社員たちに語り続けてきた語録のようなフレーズが複数存在します。それらは組織としての強いDNAにもなっています。以下は、その代表例です。
- 仕事は誇りと使命感でする(金や名誉のためではない)
- 自利利他(他人のために尽くして、初めてそれが自分に返ってくる)
- 石もて石を、自らの偶像に(過去の自分自身を壊し、改革を推進していこう)
- 3KM(個人Kojin、家庭Katei、会社Kaishaを150%実現Management)
- ウォームハートとクールヘッド(愛・熱い心と論理性・戦略性の両立)
- 秘密保持に始まり、秘密保持に終わる(M&Aの機密顧客情報を死守する)
- リーダーシップとチームワーク
- 議論、議論、議論
「パーパス」を策定したときと同様、あえて分林や三宅は入らず、次世代の経営リーダーと目される数人の若手役員に、私がファシリテーターとして加わり、「フィロソフィー」の議論を始めました。
「フィロソフィー」の中身をどうするか、ブレインストーミングをする中、20件ほどのフレーズが提案されました。ところが……。
それらを眺めたところ、明らかな問題が生じていました。単なる分林・三宅語録になってしまっていたのです。それだけ強く組織内に浸透していた価値観ですから、当然のことではあるのですが、それでは「第二創業」にふさわしくありません。そして、真っ先にこれらを否定したのが社長の三宅でした。
「君たちは第二創業を託された意味をわかっているのか! 前人踏襲しかできないのだとしたら、君たちに将来の経営を任せることなどできない!」
これまで日本M&Aセンターが大切にしてきた重要な価値観は、絶対に今後も掲げ続けなければなりません。一方で、そこに新時代の思想や情熱を込めることができないとしたら、「第二創業」など言葉倒れになってしまいます。
検討チームのメンバーは、いきなり大きな矛盾に直面することになりました。
守るべきものと新たに加えるべきもの
「守るべきもの」を明確に定義するとともに、それを新世代の言葉にアップデートする。そこへさらに、将来に向けての思考や方向性として「新たに加えるべきもの」を吟味する。
簡単ではありませんが、やるべきことは明らかでした。詳しくはまた次回に。
有賀誠の“Rock & Roll”な一言
人生もキャリアも仕事も
「守るべきもの」と「新たに加えるべきもの」を考え続けることが大事
- 有賀 誠
- 株式会社日本M&Aセンターホールディングス CHRO/株式会社日本M&Aセンター 取締役 常務執行役員 人材本部長 人材ファースト管掌
(ありが・まこと)81年 日本鋼管入社。97年 日本GM入社。部品部門デルファイの取締役副社長兼AP人事本部長。03年 三菱自動車常務執行役員人事本部長。ユニクロ執行役員を経て06年 エディー・バウアー・ジャパン代表取締役社長。その後、日本IBM理事、日本HP取締役人事統括本部長、ミスミ統括執行役員人材開発センター長。23年4月より現職。ミシガン大学MBA。
HR領域のオピニオンリーダーによる金言・名言。人事部に立ちはだかる悩みや課題を克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。