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HR調査・研究 厳選記事 掲載日:2025/11/27

海外と日本の最新動向から読み解く日本企業の人的資本戦略

マーサージャパン株式会社 組織・人事変革コンサルティング プリンシパル 野石 龍平氏

海外と日本の最新動向から読み解く日本企業の人的資本戦略

人的資本開示をめぐる国際的な規制と基準は急速に進化している。欧州では賃金透明性指令が2026年に向けて実装され、日本でも金融庁が開示様式の改訂を進めている。さらにISO 30414:2025やISSB(国際サステナビリティ基準審議会)/SASB(サステナビリティ会計基準審議会)、そして国内ではSSBJ(サステナビリティ基準委員会)基準が策定されるなど、従来の枠を超えた新たな開示テーマが提示されている。

マーサーとしての視点は明確だ。人的資本開示は単なる規制対応ではなく、企業が成長戦略を投資家や社会に示す「戦略的コミュニケーション手段」である。本稿では、これらの海外と日本の最新動向を整理し、日本企業がいかなる戦略的対応をとるべきかを論じる。

日本企業にとっての「人的資本開示元年」は2023年にさかのぼる。有価証券報告書において、従業員数や勤続年数、女性管理職比率などの基礎指標に加え、人材育成や労働環境に関する情報開示が義務化された。人的資本は人事の管理指標にとどまらず、経営戦略および投資家との対話の中核へと位置づけ直された年である。

2025年の現在、日本企業は「形式的な報告」から「戦略的な対話」へ進む局面にある。同時に、欧州では開示の厳格化が進み、数年かけて各国実装が迫る。EUは2023年に賃金透明性指令(Pay Transparency Directive)を採択し、2026年6月7日までの各国法制化、続く2027年6月からの報告が見込まれる。初回報告は2026年の給与データを基礎に行われるため、実質的な準備期間は長くない点に留意すべきである。

欧州の指令の要点

  • 採用時の透明性:募集段階で給与レンジを提示し、応募者に過去の給与履歴の提示を求めない
  • 在職中の情報開示と権利:従業員は同等価値労働に対する性別別平均賃金や自らの給与水準に関する情報照会権を持つ
  • 報告義務:企業規模に応じて男女賃金格差データの定期開示が必要(例:大企業は年次、150〜250人規模は数年ごと)
  • 格差是正プロセス:5%以上の賃金格差で正当化できない場合、労使共同の原因分析と是正策が義務
  • ESGとの連動:CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)※と接続し、経営層と平均報酬比率など投資家KPIとしての開示を強化 (※欧州のサステナビリティ開示規制。2023年1月5日に発効し2024年1月1日に開始する会計年度から適用が開始されている。)

日本の金融庁が示す方向性

  • 「成長戦略と一体」の新様式:人的資本情報を経営戦略と結び付けて記載
  • 必須項目の明確化:従業員数、勤続年数、女性管理職比率、男女賃金差
  • 追加開示の促進:平均給与の増減率、役員報酬・ストックオプションの戦略整合性、デジタル人材確保・リスキリング計画の具体化

企業は数値の羅列ではなく、戦略と接続した開示を行うことが求められている。

国際基準の最新動向

  1. ISO 30414:2025(発行済)

    2018版から大幅に改訂され、必須要件と推奨指標の二層化、サステナビリティ報告との整合性強化、マテリアリティの明確化(AI要素を含む)、生産性やパフォーマンス指標の拡充、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures=気候関連財務情報開示タスクフォース)型の開示フォーマット導入推奨、人権・倫理・ウェルビーイング指標の追加、データプライバシー・セキュリティの責任明確化、中小企業や大企業の事例付録追加などが行われた。カバレッジは健康・安全・ウェルビーイング、リーダーシップや文化、スキル開発、後継者計画など多岐にわたる。

  2. SASB/ISSB

    IFRS財団のISSBはSASB基準の包括的見直しを進めており、人財(ヒューマンキャピタル)と生物多様性を重点領域に位置付けている。2025年7月には人的資本開示に関する公開草案が出され、労働慣行や労働安全衛生、従業員健康などの対象業種拡大と技術プロトコル更新が提案された。発効は公表後12〜18か月が見込まれ、今後も国際的に比較可能な人的資本情報を整備する方向が強調されている。

  3. SSBJ(日本のサステナビリティ基準委員会)

    2025年に公表されたSSBJ基準は、ユニバーサル基準・一般開示基準・気候関連開示基準から構成される。ISSB基準と整合しつつ、日本市場特有の文脈を反映している。2027年以降、プライム市場の大型上場企業を中心に義務化される見込みであり、人的資本情報も「リスク・機会」「組織のレジリエンス」として位置づけられる。ここでは、重要性の明確化や短期・中期・長期の時間軸の整合性といった要求が特徴的であり、人事部門は投資家目線での人的資本の戦略的価値を説明することが不可欠になる。

日本企業が取るべき戦略的対応

  • 給与体系と説明責任の明確化:採用時に給与レンジを提示し、給与決定基準を文書化・公開する
  • 格差データの人的資本KPI化:性別・職種別の賃金格差や経営層と平均給与比率を開示し、投資家評価を高める
  • 是正プロセスの整備:一定閾値超の格差が出た際に原因分析と是正策を策定できる社内体制を構築する
  • 国際基準の同時対応:ISO 30414:2025で「型」を押さえ、ISSB/SASB・SSBJ基準に沿って「投資家が比較可能な情報」に磨き上げる

展望

ここまで見てきたように、欧州では賃金透明性指令による給与の可視化、CSRDとの連動、そして是正プロセス義務化が進み、日本においても金融庁が「成長戦略と一体化した開示」を企業に求めている。さらに国際基準であるISO 30414:2025はウェルビーイング、エシカルマネジメント、AI・データガバナンスといった新領域まで包含し、、ISSB/SASB・SSBJは業種横断での比較可能性を重視しながら人的資本開示を再定義している。つまり、人的資本開示は「雇用慣行の報告」から「経営資源配分と投資家対話のフレーム」へと進化しているといえる。

コンサルタントとして強調したいのは、日本企業が「受け身」で対応するのでは遅いという点である。2026年のEU規制本格化と2027年以降のSSBJ基準義務化は、投資家にとって人的資本の国際比較が当たり前になる起点である。その時点で自社の情報が曖昧、あるいは従来型の数値開示にとどまっていれば、日本企業は資本市場における評価で劣後しかねない。むしろ2025年の現在こそ、国際基準を先取りし、投資家との対話を設計する好機である。

具体的に、日本企業に求められるのは、三つの段階的アプローチである。

第一に、内部整備として、自社の人材ポートフォリオ、報酬体系、リスキリング計画を体系化し、経営戦略との接続を明文化すること。第二に、外部開示として、ISO 30414の「必須指標」を起点に、ウェルビーイングやスキル開発、組織文化といった推奨指標も積極的に開示し、差別化を図ること。第三に、投資家対話として、開示情報を単なる数値ではなく「未来志向の経営ストーリー」として提示し、人的資本への投資がいかに企業価値や社会的信頼につながるかを語ることである。

これまでの日本企業の人的資本開示は、ジェンダーペイギャップやエンゲージメント調査結果といった「部分的な開示」が中心であった。しかし今後は、ISOやISSB/SSBJが示すように「ウェルビーイング」「人権・倫理」「後継者計画」「スキル開発」「データガバナンス」といった多面的領域を包括的に扱う必要がある。そこでは人事部門だけでなく、経営企画、財務、サステナビリティ推進部門との協働が不可欠になる。言い換えれば、人的資本経営はもはや「人事の領域」ではなく「経営全体の課題」として昇格したのである。

マーサーの視点からすれば、人的資本開示はクライアントにとって「規制対応の負担」ではなく「競争戦略のチャンス」である。人的資本の開示を契機に、エンプロイーエクスペリエンス(EX:従業員体験)の再設計、経営層と従業員の報酬バランスの見直し、クロスボーダーM&A時の人材統合戦略、ファイナンシャルウェルビーイングの推進など、従来は断片的に議論されてきたテーマを一つのフレームに統合できるからである。こうした統合的な人的資本経営こそ、国際的な投資家から評価される「次の日本型モデル」の起点になり得るだろう。

2025年から2026年にかけては、日本企業にとって「人的資本をどう開示するか」ではなく「人的資本をどう戦略化するか」が問われる時期だ。質の高い開示は投資家や従業員との信頼を築くだけでなく、企業の成長ストーリーを語る最強の武器となる。日本企業は国際基準を参照しながら、自社らしい人的資本経営の物語を描き、それを世界に向けて発信していくべきである。

人的資本開示は義務ではなく、企業が自らの成長戦略を世界に発信する機会である。2026年の欧州規制本格化と2027年以降のSSBJ基準義務化、2025年発行のISO 30414およびISSB/SASBの改訂サイクルを見据えると、日本企業にとって残された準備時間は多くない。ここで重要なのは、単に「国際基準に準拠した報告書」を整えることではなく、それを起点に自社らしい人的資本経営の物語を描き、外部へと発信していくことだ。

そのためには、人事部門に従来と異なる三つの役割が求められる。

  1. 内向きから外向きへ:戦略を投資家目線で語る

    これまでの人事は、従業員満足度や社内制度の整備といった「社内効率」の視点が中心だった。今後は市場・顧客・競合といった外部環境を踏まえ、人的資本戦略を「競争優位の源泉」として発信できる力が不可欠である。3C/4Pなどの様々なフレームを応用し、人的資本を経営資源の一角として投資家に説明する姿勢が求められる。

  2. 単独から横断へ:部門連携のオーケストレーター

    ISO 30414:2025が示すように、ウェルビーイング、データガバナンス、後継者計画といった開示領域は人事だけでは担えない。経営企画、財務、サステナビリティ推進部門と協働し、人的資本情報を全社戦略に統合する推進役として、人事がリード役を果たすことが必要になる。

  3. 管理から対話へ:投資家コミュニケーションの設計者

    ISSB/SASBの動向が示すように、人的資本情報は投資家にとって「比較可能性のある財務外情報」として重視されつつある。ここで人事は、数値の羅列にとどまらず「自社の未来を支えるストーリー」として情報を再構成し、投資家との対話を設計する役割を担うべきである。

日本企業に突きつけられているのは「何を開示するか」ではなく「どう戦略として語るか」という問いである。人事部門がこの変化を受け止め、社内外に向けて人的資本の物語を語れる存在へと進化できるかどうか。それが今後の競争力を大きく左右するだろう。

参考文献

マーサージャパン株式会社

組織・人事、福利厚生、年金、資産運用分野でサービスを提供するグローバル・コンサルティング・ファーム。全世界約25,000名のスタッフが130ヵ国以上にわたるクライアント企業に対し総合的なソリューションを展開している。
https://www.mercer.co.jp/

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この記事ジャンル 経営

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【用語解説 人事辞典】
人的資本経営
インタンジブルズ(無形資産)
SX
社会関係資本(Social Capital)
心理的資本(Psychological Capital)
ISO30414
人材ポートフォリオ