ATD 2018 International Conference & Expo 参加報告
~ATD2018に見るグローバルの人材開発の動向~
株式会社ヒューマンバリュー 取締役主任研究員 川口 大輔
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2018年5月6日~9日に、米国カリフォルニア州サンディエゴにて、「ATD 2018 International Conference & Expo(ICE)」が開催されました。ATD(Association for Talent Development)はタレント開発に関する世界最大の会員制組織(NPO)。ATDが主催する国際カンファレンスには毎年、世界各国から企業のHR、コンサルタント、研究者、教育機関・行政体のリーダーたちが集い、現在直面している課題やこれからの人材開発のあり方について、組織の枠を超えて学び合います。日本での認知度も年々高まっており、人材開発に携わる人々が議論を行う共通の言語やプラットフォームとなっています。本レポートではATD 2018の現地の様子や、行われていた議論の内容を共有することを通して、グローバルの人材開発の動向を紹介するとともに、カンファレンスの魅力や醍醐味(だいごみ)をお伝えします。
10年ぶりのサンディエゴでの開催
ATDはアメリカの主要都市(ワシントンD.C.、シカゴ、ダラス、デンバー、オーランドなど)で順繰りに開催され、数々の都市を回ることができるのも魅力の一つとなっています。今年は10年ぶりにサンディエゴでの開催となりました。アメリカ西海岸のサンディエゴはメキシコとの国境に隣接し、カリフォルニアではロサンゼルスについで大きな都市です。温暖な気候で、美しく青い海が広がり、治安も良く、日本人にも人気の街です。映画「トップガン」の舞台となった海軍基地の街でもあり、カンファレンス期間中に行われるATDのパーティーは、空母がそのまま博物館となった「ミッドウェイ博物館」を貸し切って行われました。
10年前と違ったのは、街のいたるところにアプリで気軽に借りられるレンタルバイクや電動スクーターを見かけるようになったこと。カンファレンスの合間にバイクや徒歩で気軽にビーチを散歩する人も多く、「例年以上にオープンでリラックスした気持ちでカンファレンスに臨めた」と話している参加者の方が多かったように思います。
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75周年を祝うオバマ前大統領の基調講演
今年のカンファレンスは、75周年というATDにとって特別な大会になりました。その記念大会の目玉としてオバマ前大統領が基調講演に登壇したことが、何といっても今年一番のトピックでしょう。ATD-ICEには毎年10,000人近くの参加者が集いますが、今年はオバマ前大統領が講演を行うことも影響したのか、参加者数は過去最高の13,000人に上りました。日本からも、例年は150名程度の参加者のところ269名の人が参加するなど、その影響力の大きさがうかがえます。基調講演が行われた日は、朝の5時前から会場に列ができ始め、講演の直前にはこれまでのATDで見たことのないくらいの大行列ができていました。当日は全国ネットのテレビのニュースでも講演の様子が流れ、全米においても注目のイベントだったようです。
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オープニングの基調講演で、ATDのCEOであるトニー・ビンガム氏と対談するバラク・オバマ前大統領
75周年を迎えるATDの今
カンファレンス会場の中央の広場には、ATDの75年の歩みを振り返るパネルが並べられ、参加者の目を引いていました。1940年代から続くタイムラインを眺めると、社会の変化とともにタレント開発のあり方が進化してきたことがわかります。私が初めて参加した2001年は、Eラーニングがブームになっていた年。たくさんの情報や気づきに、ただ圧倒されるばかりだった当時の自分が思い起こされます。パネルを見ながら、自分の歴史と照らし合わせて自己を顧みていた人も多かったのではないでしょうか。
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会場にはATDのタイムラインを示すパネルを設置
トレーニングを職業とする人々が集うアソシエーションとして、1943年にスタートしたATDですが、75年が経過した今、私たちはどこに立ち、どこへ向かおうとしているのでしょうか。ATDチェアであり、TDバンク・グループにおけるTalent and Organizational Effectivenessのヘッドを務めるタラ・ディーキン氏は、冒頭の基調講演の中で、「AIをはじめとしたテクノロジーの進化が、ナレッジ・ワーカーを含むあらゆる職業に影響を与えます。何百万という仕事が自動化され、人間の仕事がロボットに取って代わられることに対して、私たちは皆、恐れを感じています」と述べ、私たちが今、急激に進むデジタル・トランスフォーメーションの真っただ中にいると警鐘を鳴らします。
さらにディーキン氏は「このような時代だからこそ、タレント開発に携わる私たちが、マシンと人間が共存する時代に合った新しいタレント開発のあり方を生み出していけるよう、役割を再定義すべきだ」と強く訴えかけました。「私たち自身がデジタルやデータについて学び、働く人々が自分たちの能力を高め、スキルをアップデートし続けていくところに貢献していこう」というメッセージを丁寧に投げかけていることが印象に残りました。
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タレント開発のあり方の革新を訴えるATDチェアのタラ・ディーキン氏
ATDは自分たちのミッションを「Together We Create a World That Works Better(共により良い世界をつくる)」と掲げていますが、今年のカンファレンス中には、これまで以上にこの言葉が何度も連呼されていたように感じました。75周年を迎えた今、世界の進化に合わせて、私たちタレント開発に携わるものの使命を大きく変え、未来を築いていこうという大きな流れを実感させる大会であったように思います。
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