味の素のグローバル化に向けた
“トランスフォーメーション”による
人財マネジメント変革(後編)[前編を読む]
味の素株式会社 理事 グローバル人事部 次長
髙倉 千春さん
グローバルのゲームに乗るための「プラットフォーム」を作る
少し大きな話になりますが、今、日本は「第三の開国」にあると感じています。第一は江戸時代から明治へと移った時、第二が第二次世界大戦後の時、そして日本の構造改革が求められている現在が、まさに第三の開国の時です。ここで日本がどのようにチェンジし、世界に打って出るのかが、これからの日本の将来を大きく左右します。だからこそ、次の時代に向けてどんな人財を育成していくのかが、問われている。それも、スピード感を持ってやらなければならない。味の素としても、2030年になった時、輝く日本経済、グローバル味の素が発展しているように「人財育成基盤(プラットフォーム)」を、今からしっかりと作っていく必要があります。
サッカーで例えれば、Jリーグの中だけ(国内市場)で戦っているだけならいいかもしれません。しかし、FIFAワールドカップのようなグローバルな市場で戦おうとするのなら、Jリーグだけにフォーカスしているわけにはいきません。グローバルのルールで勝つサッカーをするために、グローバルでのゲームに乗る「プラットフォーム」を作る必要があります。そのような思いで、来年度には「味の素アカデミー」として、将来を見据えた、新たな次世代人財の育成プログラムを開始する予定です。
本当に人が育つには時間がかかりますが、この部分について言えば、味の素は非常に良い企業文化だと思います。問題は、世の中の変化のスピードが非常に速くなっていること。この変化を、どのように受け入れていくかが重要ですね。
最近、人事制度を大きく変えた企業を見ると、外部から人事責任者を抜擢して対応するケースが多いように感じます。
それぞれの会社でビジネスモデルが違うので、それぞれに合ったやり方があります。いずれの場合も重要なのは、考える「ステップ」です。何を大事にするのか、どのように社内関係者と話をするのか、変革するチームをどのように構成するのかなど、物事を進めていくやり方のプロセス、考え方の基盤をいかに構成していくかが、変革する際には重要です。
とかく日本人は「正解」を求めすぎで、「正解」を知ることで安心してしまいます。これも「失敗」を恐れるからです。失敗の中から、本当に自分に合った「正解」が出てくるにもかかわらず、なぜかリスクテイクしないのでしょうか。
これからは、ますます「正解」や「お手本」がなくなっていきます。重要なのは、まず自分でじっくりと考えること。そして、そのプロセスを楽しむこと。分からない中で、いろいろと考えを巡らしていくわけですが、それは人との関係性でも同じです。人との意見のぶつかり合いが、後になって実を結び、楽しい思い出に変わります。私自身、味の素でいろいろな立場の人と話し合いを進めてきたことが今、大きな成果を生んでいるように思います。
変革を進める場合、人との関係性構築がとても重要になってくるわけですね。
自分から「最近、どうですか?」と声を掛けること。そうすると、相手も目標は一緒なので、いろいろと話したいことがある。こうしたやり取りが続くと、いつの間にかお互いに相談し合う関係になります。それが、「この人と話をすると、何となく気持ちが楽になる」といった信頼関係へと結び付いていくように思います。このような人と人の関係性がないと、組織に変革を起こすのは難しいのではないでしょうか。
ありがとうございました。それでは最後に、人事部の方々へメッセージをお願いします。
私たちはビジネスの世界にいるわけですから、顧客に対面するビジネスのフロントラインの人たちを忘れてはいけません。ファイザーにいた時、社長から「人事がやるべきことは、顧客と対面する営業などが働きやすいようにすること」と言われました。だからこそ、ビジネスの最前線にいる人を時々忘れがちですが、現場視点、ビジネス視点を持って人事を担当することがこれからますます重要になると考えます。
できるだけビジネスの現場の人たちの話を聞き、施策・アイデアを検証し続けていけば、人事は信頼してもらえる存在となるのではないでしょうか。人事が強くなればビジネスも強くなり、絶対に会社は成功する、という自負を人事担当の方々には強く持ってほしいと思います。