三菱樹脂株式会社:
男性中心組織から「女性が働きやすく活躍できる組織」へ(前編)
古西宏枝さん
(三菱樹脂株式会社 人材開発部ダイバーシティ推進グループ 課長代理)
佐藤慶子さん
(三菱樹脂株式会社 人材開発部ダイバーシティ推進グループ 兼人事部給与・厚生グループ)
プロジェクト経験がコース転換への「チャレンジ」につながる
プロジェクトをスタートさせるに当たり、意識したことは何でしょうか。
古西:このプロジェクトを実務職の女性社員にとっての「キャリアパス」にするということです。プロジェクトメンバーの1年間の活動内容は、総合職の仕事に値すると感じたからです。スタートする前から通常の研修よりも密度の濃い経験をすることが想像できましたので、このプロジェクトを終えた後、実務職からエリア総合職(勤務地を一定地域に限定する「総合職」コース。現在は「エキスパート総合職」に名称変更)へと、コース転換にチャレンジする人が増えたらいいなという思いがありました。
以前から実務職がこの総合職にコース転換する制度はありましたが、そのことを知らない社員もいました。また、知ってはいたけれど、いつどのように募集されて、どんな試験が行われて、自分から手を挙げられるのか、といった詳細が分からない人も多かったのです。
今回のプロジェクトに参加した社員が優先的にエリア総合職へと昇格できるというわけではありませんが、プロジェクトを経験した実務職のメンバーにはエリア総合職への挑戦の気持ちが高まり、昇格試験を受け、コース転換した人が数人います。
佐藤:今回のプロジェクトは、メンバーが同じ女性でも、立場、職場環境、ライフステージがさまざまだったため、委員会のミッション、目的について認識のすり合わせが重要でした。また、日常業務が忙しい人ばかりでしたので、プロジェクトに参加してもらうため、プロジェクトの持つ意味を丁寧にメンバーに説明していきました。
1年間のプロジェクトの内容について教えてください。
古西:全体ミーティングを2014年7月~2015年4月にかけて4回実施し、2015年6月の最終報告会で経営に提言するという日程を組みました。第1回目はオリエンテーション。社長からプロジェクトメンバーへの期待を述べてもらい、メンバーとの一問一答の対話の機会を設けました。また、チーム編成とテーマ設定を行いました。社外のファシリテーターの下、女性が活躍する会社になるためには何が必要かを皆で話し合い、出てきた意見を「女性のキャリア支援、キャリアプラン」「職場のコミュニケーション、多様な働き方」「女性が頑張りたくなる会社」の三つに分類し、12人のメンバーを4人ずつ三つのチームへ振り分けました。この後、各チームは全体ミーティングとは別にグループワークを随時行うことになります。
全体ミーティングには「学ぶ」要素を取り入れました。最終的に経営陣に向けて提言するわけですが、これまで経営陣の前でプレゼンテーションを行う機会などほとんどありませんでしたので、どのような資料を用意すればいいのか、ロジカルにどう説明すればいいのかなど、進め方に悩みました。そこで、提言に向けて必要なスキル(クリティカルシンキング、アンケートの作り方など)を学ぶ場を設け、継続的にプレゼンテーションのスキルを学びました。
また、委員会の名前が「ダイバーシティ推進女性委員会」と長くて固い印象でしたので、なじみやすく、親しみやすい名前に変えようと皆で考え、輝く未来に向けてというメッセージを込めた、「みらいキラリ!プロジェクト(略称:みらキラ)」としました。このようなネーミングにしたことで、社内へ広く浸透していったように感じます。
佐藤:第2回は、他社事例の学びと交流を行いました。女性活躍推進において、先達である有名食品メーカーのカゴメ株式会社様の取り組み(同社で女性活躍推進を目指す「リリコ・プロジェクト」)について、プロジェクト発足時のメンバーの方からどのように進めていったのかをレクチャーしていただき、メンバーとの情報交換および質疑応答を行いました。その後、各チームの進捗状況を報告し合い、それぞれフィードバックを行いました。ここではカゴメ様から大変具体的かつ有用なアドバイスをいただきました。
また、メンバーにクリティカルシンキングに関する本を課題図書として事前に読んでもらい理解の状況を確認するとともに、それをどうやって活用していくかを、2回目の全体ミーティングで話し合いました。その後も全体ミーティングを重ね、最終的には、クリティカルシンキングを学ぶ中で得たフレームやロジックツリーを使って考えることのできる段階に達しました。アンケートの設問作りをする時にもクリティカルシンキングのアプローチは非常に有効で、提言に向けてのレポート作りにも大変役立ちました。
カゴメ様の事例を聞いて、どのように思われましたか。
古西:プロジェクトメンバーの力が会社を動かした素晴らしい取り組みであり、実際、離職率(結婚退職)が減るなど、具体的な成果を出していました。私たちのプロジェクトも、このようになればいいと思いました。
佐藤:カゴメ様も男性中心の組織の中でしたが、女性が表立って声に出さない気持ちの部分を、メッセージとしてすごく上手に表現していました。こういうやり方をすれば、広く社内に伝わるのだということがよく分かりました。この段階で、経営への提言へのイメージがかなり形づくられたように思います。
古西:続いて第3回の会合は、当社の工場がある滋賀県・長浜市で行いました。この時はクリティカルシンキングのフレームワークを使って、中間報告を実施するとともに、北海道支社長(当社初の女性の支社長)をゲストに招いて、「リーダーシップ研究」を開催しました。彼女は一般職として入社し、コース転換を経て総合職となり、管理職、支店長に昇進、この4月には理事になりました。まさに、当社の女性活躍推進のロールモデルの一人と言えます。彼女にはキャリアの節目でどういうことを大事にして仕事をし、現在に至ったのかを語ってもらいましたが、一般職で入社した後、営業職に転じた頃から自分の働き方が変わり、会社からコース転換を勧められて管理職になって、今があると言っていました。
当時はまだ女性管理職が少なかった時代ですから、プレッシャーはあったと思います。その中で本人は、男性と同じようなやり方はできなくても、自分は自分なりのやり方でやればいいという考え方が、話を聞いていてストレートに伝わってきました。外資系企業などに見られる、バリバリと働いてステップアップしていくというタイプではなく、日々の仕事に対して目的意識を持ち、誠実に働いているうちに、気が付いたら今の立場になっていた、という感じなのです。「自然体で素敵な人だな。この人のようになりたいな」と思いました。
佐藤:第4回は、最終報告会が迫ってきたので、もう一度中間報告会を行いました。ゲストスピーカーとして経営幹部(常務)に参加してもらい、経営陣への提言に向けて、当社の課題について議論しました。常務からは「提言するのなら、言いたいことを全て言うように。革命を起こすつもりで、とことんやりなさい」とアドバイスを受けました。メンバーはどこまで言っていいのか迷っていたのですが、この一言でふっきれたのかもしれません。
じっくりと1年間かけて、ビジネススクールのような学びと並行しながら、女性活躍推進に向けたアクションラーニングを実践していったわけですね。
古西:最後に1年間をかけたプロジェクトの集大成として、「最終報告会」を行いました。「女性が働きやすく、活躍できる会社にするにはどうすればよいか」というテーマで問題を洗い出し、課題を整理したところ、「意識の改革」「環境の拡充」「能力の向上」が必要だと考えました。ただし、この三つは女性実務職、女性総合職、上司(管理職)と立場によって、課題が異なります。それを今回のプロジェクトでは三つの提言の軸としてまとめ、その内容は実に約100枚ものスライドに及びました。