三菱樹脂株式会社:
男性中心組織から「女性が働きやすく活躍できる組織」へ(前編)
古西宏枝さん
(三菱樹脂株式会社 人材開発部ダイバーシティ推進グループ 課長代理)
佐藤慶子さん
(三菱樹脂株式会社 人材開発部ダイバーシティ推進グループ 兼人事部給与・厚生グループ)
近年、さまざまな企業で女性活躍推進に関する取り組みが行われていますが、その多くは期待通りに進んでいないのが実情です。その原因の一つは、日本企業が依然として「男性正社員モデル」を組織の基本にしていることです。長年根付いた組織風土や人事制度を変えていくことは、そう簡単ではありません。そのような状況下、三菱樹脂は女性活用が進展しない実態にメスを入れ、大胆な改革に着手。2014年から多様な人材がイキイキと活躍する職場の実現を目指す「ダイバーシティ&ワークライフバランス推進」をスタートさせ、1年後、その取り組みは大きな「成果」をもたらしました。同社では、どのようにプロジェクトを進め、どんな成果や知見を得ることができたのでしょうか。また、今後はどのような方向に活動を展開していこうとしているのでしょうか。「ダイバーシティ推進女性委員会」事務局を担当したお二人に、詳しいお話をうかがいました。
- 古西宏枝さん
- 人材開発部ダイバーシティ推進グループ課長代理
こにし・ひろえ●大学卒業後、三菱樹脂に入社、能力開発室に配属される。2001年 総務部秘書グループ社長秘書(統合までの7年間、二人の社長を担当)。2008年4社1事業の統合を機に、能力開発室(現:人材開発部・2010年4月に名称変更)に異動する。主な業務は研修企画、講師、通信講座、語学講座、新卒・派遣社員採用など。2014年人材開発部ダイバーシティ推進グループ発足に際し、課長代理となる。日本キャリア開発協会認定キャリアカウンセラー(CDA)の資格を持つ。
- 佐藤慶子さん
- 人材開発部ダイバーシティ推進グループ 兼人事部給与・厚生グループ
さとう・けいこ●大学卒業後、都市銀行に入社。2006年三菱樹脂に入社、総務人事部人事グループにて給与・社会保険を担当する。2010年育児休業、2011年人事部(給与・厚生グループ)に復職。2013年 育児休業、2014年人材開発部(ダイバーシティ推進グループ)に配属される。主な業務は、研修企画、通信講座、語学講座、育児休業者復帰支援、給与関係など。
女性活躍推進を阻む「原因」は、旧態依然とした実務職に関する認識と対応だった
女性活躍推進に取り組む以前の貴社には、どのような課題があったのでしょうか。
古西:当社が女性を「総合職」として定期的に採用するようになったのは、2003年からです。採用人数は総合職全体の1割未満で、しかも最初は研究職などの技術系が中心で、女性総合職が営業に配属されることは、ほとんどありませんでした。
一方、一般職に相当する「実務職」は1960年代から定期的に採用していましたので、当社には「女性=実務職」という考えが根強くありました。総合職の男性社員を支える、縁の下の力持ちという役割です。かつては、当社に限らず世の中の流れとして、女性社員は、就職して数年勤めたら結婚を機に退職する人が多く、短期間で実務職の入れ替わりがありました。そのため、長く勤めるという考えは薄く、職級を積極的に上げていくような仕事の与え方にはなっていなかったため、研修の機会もありませんでした。しかし近年、世間では女性の働き方や意識が大きく見直されるようになり、当社でも、結婚後や出産後も働き続ける女性が増え、女性社員の働き方や意識が徐々に変わっていきました。
具体的には、どのように変わっていったのでしょうか。
古西:ここ数年、女性総合職の採用が増えているとは言え、当社の女性社員の大多数は実務職です。平均勤続年数は19年と長く、以前のように入社後数年で結婚し、退職していたような状況ではなくなり、次第にスキルや経験を積んだ実務職の仕事の範囲も広がっていきました。しかし基本的には、会社の中における実務職の役割、立場は依然として変わっていないのが実状でした。
当社には役割等級という資格体系があり、実務職の大半は入社後5級からスタートします。現在の女性社員の役割等級を見ると、実務職の9割が入社時のまま(5級)か、そこから一つ上の等級(4級)となっていて、入社してから4級に昇級するまで、平均17年もかかっていました。勤続年数が長く、スキルアップもしたことで仕事の幅も広がり、各職場で大きな役割を担うようになったのにもかかわらず、役割等級の運用は十分に見直されないままだったのです。
そのような状況を受けて、「ダイバーシティ&ワークライフバランス推進」を行うことになったわけですね。
古西:多くの企業で少子高齢化とグローバル化対応の動きが加速していますが、それは当社でも同様です。特に競争力の一つとして、ダイバーシティ対応が非常に重要になっています。中でも、最初に女性活躍推進を推し進めていきたいという考えが、経営陣にはありました。しかし、社員の意識が追い付いていなかったため、2014年3月31日に社長が自ら「女性活躍宣言」を発表。翌日の4月1日、人材開発部に「ダイバーシティ推進グループ」が発足しました。経営課題の一つとして、積極的に女性活躍推進に取り組んでいくことを会社として宣言したのです。
佐藤:ダイバーシティ推進の中では、「性別」「年齢」「ハンディキャップ」「国籍」を超えるという四つの重点課題を決めましたが、まずは当社が一番遅れていると考えていた「性別=女性活躍推進」に全社を挙げて取り組んでいくことになりました。そこでスタートしたのが「ダイバーシティ推進女性委員会」です。
「仕事を取り巻く多様な課題を抽出し、優先順位付けを行い、具体的方策の方向性を絞り、経営提言を行う」というミッションの下、「女性の活躍推進について、女性自らの参画により、実際的なニーズを掘り起し、働きやすい環境づくりの実現に向けて課題に取り組む」ことを目的としました。参加メンバーは全社から選出され、管理職、総合職、実務職の各層からなる、女性社員12人に決定しました。
古西:2008年に4社1事業が統合し、現在の三菱樹脂ができたわけですが、私自身、その頃からダイバーシティに注目していました。女性がもっと活躍すべきだという思いを持った女性8人で、ダイバーシティ・プロジェクトを発足させ、会社に対して女性が活躍できる制度・仕組みを作ることを提言しましたが、オフィシャルな活動ではなかったので、実現には至りませんでした。そうした経験があるだけに、今回、社長宣言の後、ダイバーシティ推進グループが正式に発足したときは、長年の夢が叶ったようで感無量でした。
佐藤:私は人事部で給与や社会保険を担当していたのですが、育児休業から復職してダイバーシティ推進グループに配属されました。配属当初は、ダイバーシティ女性活躍推進と言われても、ピンときませんでしたがプロジェクトを進めていく過程で、女性社員、中でも実務職の置かれている現状を知り、何とかしなければならないという意識が非常に強くなっていきました。