“できる力”をとことん引き出す――
エフピコが目指す障がい者の
「真の戦力化」とは
工場見学が学生に人気、採用活動に現れた波及効果とは
企業が障がい者雇用を推進するのに、特別なコツや秘訣はないということですね。
且田:よく聞かれるのですが、何か特別な、障がい者用の教育プログラムがあるわけではありません。障がい者だからではなく、同じ人間としていかにプライドを持って働けるようにするか。同じ働き手としてどう能力を引き出し、一人前に育てるか。考えていることは通常の人材育成と変わりません。私たちはその原点を守り続けているだけなんです。
障がい者雇用の取り組みに注目が集まることで、グループ全体の企業活動そのものに何か波及効果は出ていますか。
井上:私は新卒採用の現場に携わっていますが、障がい者雇用に積極的な企業ということで、弊社に関心を持ってくれる学生がとても増えました。障がい者雇用といっても、私たちにとってはごく身近で当たり前のことでしたから、反響の大きさに正直、驚いています。外部から注目され、評価されることであらためて、弊社はこんなすごいことをしているのかと誇らしく、また身の引き締まる思いでもあります。
やはり最近は、“やさしい若者”が多いからでしょうか。就職においても人の役に立つことや、社会に貢献するといった価値観を重視する傾向が強まっているようです。障がい者が働く生産現場で学生向けの見学会を実施するなど、人事部としても弊社の取り組みについて正確な内容を発信するように心がけています。
障がい者雇用に取り組む企業に向けて、メッセージをお願いいたします。
且田:最近は、仕事でお付き合いのある各地のスーパーや生協などから依頼されて、障がい者雇用のコンサルティングに出向く機会も増えましたが、決して何か特別なノウハウを教えるわけではありませんし、先ほど申し上げたようにそうしたものはないんです。“障がい者だから”と、あえて特別な施策を講じたり、過度な職場づくりに配慮したりするのは無意識の差別につながりかねません。弊社がここまで成果を出せたのも、要は“何もしなかった”からだと、私は思っています。
最初に作った特例子会社のダックスには、創業時から勤続28年の知的障がい者もいます。彼らは、やればできるんです。もちろん何ができるかは人によって違いますが、受け入れて育てる側が、その「できる力」にとことん向き合えるかどうか、結局は私たちの執着心にかかっているんじゃないでしょうか。
藤井:これも当たり前のことですが、障がい者とはいえ、皆一人ひとり違うわけですから、一括りにせず、目の前にいる“その人”に関心をもってコミュニケーションを深めること。現場ではそれが何より大切でしょう。彼らと工場で一緒に過ごす時間は8時間から、長くて10時間ですが、それ以外の時間は例えば家で何をしているのか、親や家族、友人とはどんな話をしているのか、そういうことにも関心を向けて、じっくりと話を聞くことです。職場に理解者がいると思えば、彼らもより安心して仕事に集中できますからね。
永尾:障がい者雇用の取り組みはあくまで企業活動の一環ですから、人事部のスタンスとしては、全体のバランスを見ながら、できることを積極的に取り組んでいくことに尽きます。社内のさまざまな部門や事業と接する機会が多いわけですから、その中で障がいのある社員の能力を活かせる分野を見極め、任せていく。私たちにきちんと任せる勇気さえあれば、それが彼らの本当の仕事、いわば“天職”になっていくのではないでしょうか。
(東京・新宿区の株式会社エフピコ 東京本社にて)