条件が異なる人材を紹介できるか
希望は性別を限定した採用
「医大の入試で女子受験生が一律減点されていた」というニュースが広く注目された。その目的は男子学生が多くなるように合格者の男女比を調整することにあったという。試験で高得点をあげれば合格できると信じていた女子受験生にとっては、大いにショックな出来事だったはずだ。入試と同様に性別で機会を制限してはならないとされているものに企業の「人材採用」がある。ただ、人材紹介会社には「どうしても性別を限定して採用したい」という企業から、相談が寄せられることもある。
条件にぴったりの人材はいるが……
「このポジションには、できれば男性を紹介してほしいんです。今後、弊社では若い男性向けの製品の開発を進めていくのですが、該当部署には女性が多く、ターゲットとなる層の気持ちがわかる人材を採用したいと考えていまして……」
A社の採用担当者がそう言いながら渡してくれた求人票には、どこにも「男性」という文字はない。男女雇用機会均等法が施行されて、もう30年以上がたつ。男女を指定して募集することは、基本的にできないことは常識である。
しかし、さまざまな事情から「男性がほしい」「女性がいい」というケースは出てくる。そんなとき、非公開で要望を伝えられる人材紹介を利用するという企業は多い。
A社の求人を社内のデータベースに登録したところ、さっそく同僚のキャリアアドバイザーから打診があった。
「A社の仕事にぴったりの候補者がいるのですが、女性は無理でしょうか。性別以外はぴったりの人なので、ぜひ推薦して欲しいんです」
キャリアアドバイザーの気持ちはよくわかるが、もらった条件と異なる人材をいきなり紹介するのは気が引ける。
「部門の事情として、男性を採用したいそうなんです」
「もちろん事情はわかりますが、しっかりした経験をお持ちの人なので、会えば絶対に採用したくなりますよ。今回の枠とは別で採用するという話になるかもしれません。ダメもとで一度紹介できませんか」
「うーん、どうでしょうか……」
しばらく押し問答を重ねた結果、とりあえず紹介してみることになった。実際、本当にキャリアのある人材なら、キャリアアドバイザーが言うように、もらった求人とは別枠で採用されるケースもあるからだ。人材紹介会社の仕事はチャンスを広げることでもある。しかし、その結果は残念なものだった。
「今回は見送らせてください」
A社からの回答はあっさりしたものだった。