長期休暇をはさむ転職
年内に決着しておけばよかったのか 正月の間に考えが変わった人材
年末年始休暇、夏休み、ゴールデンウィークといった長期休暇の後は、転職活動を始める人が増える傾向があると、昔から言われている。自分の生き方を見つめ直したり、実家に帰って家族や旧友と話し合ったり、時間をかけて情報収集ができたりと、その理由はさまざまだ。一方で、それまで進んでいた転職話を急にストップしたい、方向転換したいという人が現れるのもこの時期だったりする。そのため正月明けの人材紹介会社は、転職希望者からの突然の連絡に敏感になっている。
転機となった年末年始休暇
「年明けの役員面接は、従来どおりであれば入社意思の確認になると思います。年内に最終面接まで済ませられたら良かったのですが、年末は役員が多忙でして」
F社はKさんの第一志望企業だった。書類選考と1次面接が無事に終わり、2次面接は最終の役員面接となる。スムーズに進んでいる案件だと思っていたのだが、佳境にさしかかったところで、ちょうど年末年始休暇が入ってしまった。F社の人事担当者も少し間が空くことを気にしていたが、こればかりは仕方がない。さっそくKさんに連絡を入れて、年明けの役員面接の日程を押さえてもらった。
「わかりました。年末ですから仕方ないですね。前回の面接の時にいただいた資料を読みこんで、役員の方の質問にしっかり答えられるようにしておきます」
Kさんの反応は最終面接を楽しみにしている、というものだった。何か問題があるような気配はまったくなかったのだが。
年明け早々にKさんから届いていたメールを見て、私はひっくり返りそうになった。
「誠に申し訳ないのですが、F社の件は辞退させて下さい。家族ともじっくり話し合った末の結論です」とある。
メールではそれ以上詳しいことがわからない。急いでKさんに電話をかけてみた。転職希望者の中にはそれっきり電話がつながらなくなって、連絡が途絶してしまうような人も少なくないのだが、幸いにもKさんは電話に出てくれた。
「ご尽力いただいたのに、申し訳ありません。実は……」
Kさんは1年ほど前に結婚したばかりだった。実家に帰った際に、転職活動のこと、年明けにF社に決まりそうなことなどを話したところ、両親から「結婚したばかりでの転職には賛成できない」と強く言われてしまったのだという。
Kさん自身も現職に不満があって転職するわけではなく、キャリアアップを考えての転職活動だったので、「もう少し今の会社で頑張ってみろ」という家族の意見に押し切られてしまったそうだ。たしかに、Kさんの勤務先は大手企業であり、F社は新進企業である。将来性はともかく安定感で考えると、家族の意向もわからないでもない。