転職と資格取得の関係
冷静に考えれば当然なのだが…… 企業は資格よりも実務経験を重視

やる気のある人ほどハマる「資格」

「未経験者ならせめて資格くらい持ってないと経験者には太刀打ちできない、書類選考の段階で落とされてしまう、ということでした。それで一念発起して資格取得をめざすことにしたんです」

意欲的なKさんは、どうせ資格を取るなら誰もが一目置くような資格でないと意味がないと考えた。そして忙しい仕事を続けながら資格の勉強に取り組んだのだった。当時まだ20代だったKさんは、数年がかりで資格取得に成功したものの、現在は30代に突入している。

「資格がようやく取れたのでこうして転職活動を再開したんです。それなのにやっぱり無理というのはどういうことなんでしょうか?」

前回、Kさんに「資格取得できれば紹介する」と言ったのは私ではない。しかし、Kさんからすると人材紹介会社全般から「未経験でも資格があればなんとかなる」と言われたような気がしていたのかもしれない。

さらに、資格取得のためのスクールなどに行くと「資格があれば転職に有利」「キャリアアップに成功した」といった話をあちこちで聞くことになる。いつしか『資格取得=転職成功、キャリアアップ成功』という図式が頭の中に出来あがっていったのかもしれない。

私はKさんの努力を最大限に認めつつ、現実的なキャリアアップのアドバイスをすることにした。

「おそらく前回アドバイスされたコンサルタントの方は、20代で資格持ちなら未経験でも推薦できる企業があると言いたかったのではないでしょうか。しかし、30代で未経験の方を採用する企業はほぼないといっていいでしょう」

私は言葉を慎重に選びながら話を続けた。

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「キャリア採用では20代後半の5年間の実務経験を生かすことが原則です。これが一生の『メシのタネ』になるといっても過言ではありません。Kさんはその間、営業職としての経験を積まれてきました。さらに今回資格も取られています。つまり営業経験と会計資格を同時に生かせる方向にキャリアアップされてはいかがでしょうか」

私は営業企画や経営企画のような仕事には財務や会計の知識が重要であり、営業経験者が活躍するケースも多いことなどを伝えた。

「なるほど、そっちの方向からCFOをめざすこともできますかね」

Kさんもやっと前向きに考えていく気になってくれたようだった。

それにしても、世間で流布されている資格の価値と、採用企業が考える資格の価値のギャップのなんと大きいことだろうか。Kさんが投資した時間、努力、費用……。まじめな人ほど「資格の魔力」にハマってしまうようなところがあるようだ。もとはといえば人材紹介会社のちょっとしたアドバイスからKさんが取り組んだ資格取得だが、なんとかいい形で生かせるような提案をしたい。私は改めてそう思ったのだった。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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