タナケン教授の「プロティアン・キャリア」ゼミ【第33回】
キャリア形成に必要なのは、ワークアウト!
法政大学 キャリアデザイン学部 教授
田中 研之輔さん
令和という新時代。かつてないほどに変化が求められる時代に、私たちはどこに向かって、いかに歩んでいけばいいのでしょうか。これからの<私>のキャリア形成と、人事という仕事で関わる<同僚たち>へのキャリア開発支援。このゼミでは、プロティアン・キャリア論をベースに、人生100年時代の「生き方と働き方」をインタラクティブなダイアローグを通じて、戦略的にデザインしていきます。
タナケン教授があなたの悩みに答えます!
キャリアについて悩んでいる社員の方をなんとかしたい
キャリアプラトー(停滞)状態の社員になんらかのきっかけをつくりたい
これらは人事の方であれば、誰もが直面する課題です。
終身雇用、年功序列、企業別組合の「三種の神器」からなる日本型雇用によって長年、守られながら働いていくと、新卒や中途入社時の「主体的なキャリア形成」意識が次第に薄れていきます。
私も大学に雇用され、3年も経つと、いつの間にか組織に依存するようになりました。会社や組織のために何かを創り出して貢献していくことよりも、会社や組織の意向として求められていることをこなしていくことの方が、無難なのです。
しかし、この無難な働き方が、やりがいや働きがいにつながらないのです。仕事は作業となり、ローンで購入した自宅や生活費を補うために残業代を目当てに生産性を落として働く社員も少なくありません。
日本企業の生産性や競争力が低いのは、会社が個人を囲い、個人は会社に依存しているからです。会社に守られていること自体は、社内の心理的安定につながるもので否定すべきことではありません。
守られている状態が長く続くと、依存するようになる。この現実から目を背けてはなりません。そして、他人事や対岸の火事ではなく、自分事として、そして、自社の課題として受けとめなければならないのです。
こうした課題意識を前提に、私は現代版プロティアンを企業現場に届けてきました。2019年8月に『プロティアン』(日経BP)を出版し、2019年11月末から本連載の機会をいただき、今回で33本目となります。
年間、200社以上の企業に登壇し、10万人以上の社員の方々にプロティアンの知見を伝えていきました。E-ラーニングを制作し、全社員が視聴してくださっている企業もあります。
伝えたいことは、一点。
もう組織内キャリアは限界を迎えている。
自律型キャリアで自ら主体的にキャリアを形成しながら、組織に貢献していこう。
ということです。コロナ・パンデミックは「パンドラの箱」をあけました。ハイブリッド・ワークが実現し、オンライン会議が日常化する経験を通じて、オフィスという「物理的空間」で顔を合わせなくても、私たちは働くことができることを学んだのです。
リモートワークを推奨する企業では、会議や打ち合わせの時間以外の同僚の働きぶりは見えなくなりました。働き方の「全体」が見えなくなるなかで、自ら主体的に働く自律的なキャリアの重要性はさらに増してきました。
コロナ・パンデミックとは、組織内キャリアから自律型キャリアのCX(=キャリアトランスフォーメーション)を促す歴史的機会だったのです。
この3年弱で景色は変わりました。自律型キャリアへの理解が進み、プロティアン研修の導入も進みました。私個人としても、時価総額TOP20の大企業の7割に、経営層、管理職、階層別、3年次、新卒、従業員組合・労働組合、などのいずれかの機会でプロティアンを伝えてきました。
知識としてのプロティアンは、一定の役割を果たしたと言えます。
今、私が最重要事項として位置付けているのが、実践としてのプロティアンです。
プロティアンを知るだけでは意味がないのです。プロティアンを企業現場で実践していく方を一人でも多く増やしていくために次のことを伝えています。
キャリアについて考える機会を組織が与えるのではなく、自らが創り出す状態が理想です。そのためには、キャリア開発を1年に一度の「お祭り」にするのではなく、歯磨きと同じように「習慣」にしていくことがポイントになります。
難しいことではありませんし、巨額の予算などは不要です。まず、出発点としては、第19回のゼミで扱った『「自分らしく生きる」を設計する三つの方法』を社員の方々に共有してください。
社内のメールで上記のURLを案内してもらうのでも構いません。また、自律型キャリア形成の社会的意味や企業内での意義については、富士通の平松浩樹常務との対談も、おすすめです。
プロティアンや自律型キャリアの知識を習得するコンテンツは、そろってきています。あとは、実践です。
2022年、私自身のパーパスは、「人的資本の最大化にフルコミットし、社員一人ひとりの心理的幸福感を高め、企業の生産性と競争力を再活性化させる」ことです。
業種や業界を問わず、できるだけ多くの企業現場に足を運んでいきたいと考えています。とはいえ、登壇や研修を「形式的なもの」にはしたくない。行動変容の実践的な場にしたいのです。
そのため基本的には、1日に1登壇。スケジュールの都合で、複数登壇を抱えることもありますが、毎回、企業HP、IR情報、統合レポートを熟読し、登壇先企業の課題と今後の中長期計画をインプットした上で、登壇しています。
働く人は6000万人。私の2年間の登壇実績は10万人。ライフワークとして取り組んでも、足りません。
キャリアを悩むのではなく、キャリアを考える。
キャリアを組織に預けるのではなく、自らデザインする。
そんなキャリア形成を日常的に実践していく文化を創っていきます。今回、新作を出版します。その名も『Career Workout』(日経BP)です。
誰にでもできる、キャリアワークアウトをまとめました。キャリアの悩みは9割解決できます。残りの1割は、大切な人が亡くなったときや、自身が病気やけが、事故などにあったときのことを想定しています。その1割のときに、焦る必要はありません。じっくりと時間をかけましょう。
それ以外の9割の悩み。仕事、職場の人間関係、転職や副業などは、悩んでいるより、考え解決策を導き出し、実践していく方がキャリアは充実していきます。
キャリアワークアウトを実践していくと、次の5つの「ないない状態」から脱却できます。
長年、組織にキャリアを預けていることで、好奇心やモチベーションが湧かない状態は、誰にとっても望ましいとは言えません。
人事の方々は、社員の方々の「グロースパートナー」です。(詳細:第31回 これからの組織と個人は、グロースパートナー)
経営者は組織や事業のグロースに取り組んでいます。その実現のために、人事の皆さんは社員のグロースにフルコミットしていきましょう。
『Career Workout』は、ヒント集です。今回は13にまとめました。13のワークアウトをアップデートして、皆さんが考えるキャリアワークアウトを社内でも実践していってください。「〇〇版キャリアワークアウト」が、皆さんの企業現場から考案されることを期待しています。
それではまた次回に!
- 田中 研之輔
法政大学キャリアデザイン学部教授/一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事/明光キャリアアカデミー学長
たなか・けんのすけ/博士:社会学。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。専門はキャリア論、組織論。UC. Berkeley元客員研究員、University of Melbourne元客員研究員、日本学術振興会特別研究員SPD 東京大学。社外取締役・社外顧問を31社歴任。個人投資家。著書27冊。『辞める研修辞めない研修–新人育成の組織エスノグラフィー』『先生は教えてくれない就活のトリセツ』『ルポ不法移民』『丼家の経営』『都市に刻む軌跡』『走らないトヨタ』、訳書に『ボディ&ソウル』『ストリートのコード』など。ソフトバンクアカデミア外部一期生。専門社会調査士。『プロティアン―70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本論』、『ビジトレ−今日から始めるミドルシニアのキャリア開発』、『プロティアン教育』『新しいキャリアの見つけ方』、最新刊『今すぐ転職を考えてない人のためのキャリア戦略』など。日経ビジネス、日経STYLEほかメディア多数連載。プログラム開発・新規事業開発を得意とする。
HR領域のオピニオンリーダーによる金言・名言。人事部に立ちはだかる悩みや課題を克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。