有賀 誠のHRシャウト!人事部長は“Rock & Roll”
【第11回】人事部とリーダーシップ(その7):
監督とキャプテン
株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括
有賀 誠さん
人事部長の悩みは尽きません。経営陣からの無理難題、多様化する労務トラブル、バラバラに進んでしまったグループの人事制度……。障壁(Rock)にぶち当たり、揺さぶられる(Roll)日々を生きているのです。しかし、人事部長が悩んでいるようでは、人事部さらには会社全体が元気をなくしてしまいます。常に明るく元気に突き進んでいくにはどうすればいいのか? さまざまな企業で人事の要職を務めてきた有賀誠氏が、日本の人事部長に立ちはだかる悩みを克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。
みんなで前を向いて進もう! 人事部長の毎日はRock & Roll だぜ!――有賀 誠
これまで、リーダーシップにはいろいろなスタイルがあることに触れてきました。今回は「監督タイプ」と「キャプテン・タイプ」について述べたいと思います。どちらが良いとか悪いとかいう話ではありません。両者には違いがある、ということです。
監督とキャプテンの違い
監督にとっては、「勝つこと」がすべて。至上命題です。勝たなければ、自分がクビになります。そして勝つためには、乱暴にふるまったり、わざと嫌われ者になったりすることもあります。
しかし、キャプテンは違います。仲間との信頼関係を築き、メンバーとの絆を深め、チームの和を実現することがその使命です。あなたが学生時代に体育会チームのキャプテンやクラブの部長を務めていたのなら、そこでの仲間は一生の友となるはずです。目の前の1勝のために仲間を裏切ったり、はしごを外したりはしないでしょう。極論かもしれませんが、キャプテンには、「勝つこと」よりも大事なものがあるのです。
先日、サッカー日本代表の元監督、岡田武史さんにお会いしました。2010年のワールドカップで日本代表を決勝トーナメントに導いた名将です。彼は選手の誰とも、飲みに行ったり、食事を共にしたりしないそうです。結婚式に呼ばれても、参列することはないそうです。
試合でピッチに立てるのは、常に11人。12番目以降の選手には、「お前はベンチだ」と命じなければなりません。そして、ワールドカップに連れて行けるのは23人までです。24人目以降の選手には、「お前は遠征メンバーから外れた」と伝えなければなりません。ある選手(あるいは選手たち)と親しくなると、非情かつ冷徹に厳しいメッセージを発することが難しくなってしまう。そのため、本当は選手と一緒にお酒を飲んだり食事をしたり、結婚式にも行きたいのに、それをしないとのことでした。監督という役割を100%果たすための決断です。まさに、「勝つこと」にこだわった結果と言えるでしょう。
キャプテンには、チームを鼓舞し、叱咤激励することはあっても、おそらく非情かつ冷徹な厳しいメッセージを発する機会はないでしょう。むしろメンバーみんなと近い距離でいることが求められます。飲みにも食事にも行くし、結婚式では友人代表の挨拶もするでしょう。それこそ、キャプテンに期待される役割なのです。
2タイプの共存とバランス・シフト
上述してきたように、監督とキャプテンは、その役割が異なります。そして、経営リーダーには、「監督タイプ」と「キャプテン・タイプ」が存在します。また、一人のリーダーの中に、両方の要素がある割合で共存していることもありえるでしょう。
読売ジャイアンツの原辰徳さんは、同チームの監督を3回経験されています。最初に監督となった2002年の彼は、キャプテンで4番バッターだった現役時代の延長線上にありました。喜怒哀楽を表に出し、選手と一緒に喜び、悔やしがり、グラウンドで飛び跳ねていました。しかし、最近の原さんは違います。ピンチでもチャンスでも、大きく表情を変えることはありません。どっしりと構えている印象です。積み重ねた年齢と経験がそうさせたということなのでしょうが、彼の中で「キャプテン的な部分」よりも「監督的な部分」のウェイトが大きくなっているのではないでしょうか。
繰り返しになりますが、「監督タイプ」と「キャプテン・タイプ」のどちらのリーダーシップ・スタイルが良いと言っているわけではありません。強いチームには、優れた監督と信頼されるキャプテン、その両者がいるはずなのですから。
あなたは「監督タイプ」と「キャプテン・タイプ」のどちらでしょうか。あるいは現時点で、あなたの中に、それぞれの要素がどのようなバランスで共存しているでしょうか。
有賀誠の“Rock & Roll”な一言
監督とキャプテン、あんたはどっち?
両方いないと勝てないぜ!
- 有賀 誠
- 株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括
(ありが・まこと)1981年、日本鋼管(現JFE)入社。製鉄所生産管理、米国事業、本社経営企画管理などに携わる。1997年、日本ゼネラル・モーターズに人事部マネージャーとして入社。部品部門であったデルファイの日本法人を立ち上げ、その後、日本デルファイ取締役副社長兼デルファイ/アジア・パシフィック人事本部長。2003年、ダイムラークライスラー傘下の三菱自動車にて常務執行役員人事本部長。グローバル人事制度の構築および次世代リーダー育成プログラムを手がける。2005年、ユニクロ執行役員(生産およびデザイン担当)を経て、2006年、エディー・バウアー・ジャパン代表取締役社長に就任。その後、人事分野の業務に戻ることを決意し、2009年より日本IBM人事部門理事、2010年より日本ヒューレット・パッカード取締役執行役員人事統括本部長、2016年よりミスミグループ本社統括執行役員人材開発センター長。会社の急成長の裏で遅れていた組織作り、特に社員の健康管理・勤怠管理体制を構築。2018年度には国内800人、グローバル3000人規模の採用を実現した。2019年、ライブハウスを経営する株式会社Doppoの会長に就任。2020年4月から現職。1981年、北海道大学法学部卒。1993年、ミシガン大学経営大学院(MBA)卒。
HR領域のオピニオンリーダーによる金言・名言。人事部に立ちはだかる悩みや課題を克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。