不確実性の時代に企業や人事はどう行動すべきか
「変化対応能力のある組織」をつくるダイバーシティとキャリア自律
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授
高橋俊介さん
マイノリティーがいづらくない、ダイバーシティのある社会
日本型組織が日本企業の標準であるなら、企業が変わるためには日本社会全体も変わっていく必要がありますね。
組織も社会も同じです。あるタイプの人に最適化された社会は、異なるタイプの人には非常に住みにくい。結果的に、優秀な人材が海外に流出してしまうことになります。アカデミー賞を受賞したカズ・ヒロさんや青色発光ダイオードを開発した中村修二さんなどがその一例でしょう。
日本的雇用や日本型組織は日本人に向いている、という脳科学の専門家もいます。日本人の遺伝子をゲノム解析すると、脳内のセロトニン受容体の性能が低い人が多いのですが、セロトニンが足りないとストレスに弱くなり、不安にかられます。そのため、日本人が安心できる長期雇用が向いている、という説です。
しかし、経営視点で考えると、これまで日本企業で成功してきたビジネスモデルは、「たまたま日本人の多数派の特長を生かすものだった」としかいえません。日本人の中にも日本という枠から飛び出して活躍するような人がたくさんいたのに、そういう人たちを排除して、多数派を生かすビジネスモデルに特化してきたのです。
人類史を振り返っても、人間はダイバーシティによって進化してきたことがわかります。ホモサピエンス自体が、ネアンデルタール人のような旧人のDNAをかなり含んだ存在ですし、日本人は縄文人や弥生人、ミクロネシア系や北方系などの多様な血が混じって成立した民族です。いずれも異なる文化を持つ者同士が混じりあって、大きく発展してきた歴史があるわけです。
企業の場合も同じでしょう。文化的な交雑によって、創造性だけでなく変化への対応能力も高まります。同じタイプの幹部ばかりをそろえていたら、そのタイプでは対応できない問題に直面したとき、総崩れになってしまいます。いってみれば単一銘柄の株に全財産を投資するようなものです。それではリスクが高すぎるので、ポートフォリオ、分散投資という概念がある。ダイバーシティも、それと全く同じ意味で必要とされているのです。
今後、日本はどのような社会になっていくべきでしょうか。
「マイノリティーがいづらくない社会」「違いを認める社会」だと思います。例えば、発達障がいの一種であるADHDの人。落ち着きがなかったり、対人関係の空気を読むことが不得意だったりするので、一般社会ではどうしても生きにくさを感じる側にまわりがちです。
しかしADHDの人に特徴的な、いろいろな思いが次々と浮かんでくる「マインドワンダリング」という心の状態こそが、実は創造性の源であることがわかっています。そういう人たちこそがイノベーションの核になる可能性がある。これまで組織から排除されがちだった人々をどうインクルージョンするかが、一つの試金石になると思います。
社会心理学では、集団の中の一定以上が態度を変えると、全体の流れががらりと変わる臨界点があることが徐々にわかってきています。日本人の特性といったものが仮にあるとしても、何かきっかけがあれば、新しいビジネスモデルに適合できる社会に変わっていく可能性はある。その最初の一歩がダイバーシティではないでしょうか。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。