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キーパーソンが語る“人と組織”

グローバルで女性が活躍するためには何が必要か
――レースクイーンから「世界最速の女性レーシング・ドライバー」になった井原慶子さんに聞く(後編)
~女性活躍推進には、「制度」よりも、まずは「ムーブメント」~
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2015/11/20

井原 慶子さん
(レーシング・ドライバー/FIA国際自動車連盟アジア代表委員/慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科特任准教授)

井原慶子さん レーシング・ドライバー/FIA国際自動車連盟アジア代表委員/慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科特任准教授 Photo
前編」では、井原さんがカーレーサーとなり、欧州での厳しい生活環境の中、プロフェッショナルとして活躍するために、「今日やるべきことを、できるところまでやる」など、独自に身に付けたスタイル・処世術について聞いてきました。「後編」では、今後、女性が組織の中で活躍していくために、どのようなことが必要なのか、世界レベルの経験をされた井原さんならではの意見やアイデアを伺いました。
Profile

いはら・けいこ●1973年東京生まれ。1997年法政大学経済学部卒業。世界最速の女性カーレーサー・慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科特任准教授。1999年にレースデビュー以来世界70か国を転戦。2014年にはカーレースの世界最高峰・WEC世界耐久選手権の表彰台に女性初で上り、ルマンシリーズでは総合優勝。女性レーサーとして世界最高位を獲得。レース転戦のかたわら、地域での英語教育活動や慶応義塾大学院など教育活動に携わる。また、自動車産業や自治体と共に環境車のインフラ整備や女性が活躍しやすい環境作りにも力を注いでいる。日本国・内閣国家戦略大臣より「世界で活躍し『日本』を発信する日本人」として国家戦略大臣賞の表彰を受け、中学・高等学校で使用される教科書に掲載される。FIA国際自動車連盟アジア代表委員、経済産業省産業構造審議会委員、外務省ジャパンハウス諮問委員、三重県政策アドバイザーなどを歴任。著書に『崖っぷちの覚悟―年齢制限!?関係なし!』がある。

制度の前に「ムーブメント」を起こすことで、女性活躍の道を開く

―― ところで企業社会でも、最近は盛んに「女性活躍推進」が喧伝されています。組織の中で女性の活躍を推進するためには何が必要でしょうか。ご自身のカーレーサーとしてのご経験や、現在の「Women in Motorsport」の取り組みなどのご経験を踏まえてお聞かせください。

これまでの私自身のキャリアを振り返ってみると、レースクイーンからカーレーサーの世界に飛び込み、成功と失敗を繰り返しながら世界の中で戦ってきて、女性カーレーサーとして世界最高成績を獲得することができました。

日本の基幹産業は自動車であり、モータースポーツは車の技術革新を表現する場としてカーメーカーも取り組みに力をいれていますが、日本人女性レーサーが世界レベルで戦っていても国内メーカーなどとプロ契約してもらえることは近年までありませんでした。男性であれば国内で数十位の順位だとしても、プロとしての機会を得られます。しかしながら女性はたとえ「世界一」になっても、そのような機会を得られないのであれば、女性は誰もこの世界に入ってこようとは思わないでしょう。こういう状況は不自然だと思いましたし、技術の分野でも女性を起用することで自動車産業も更なる国際競争力を高められるのではないかと思いました。

井原慶子さん Photo
2014年「ル・マン」24時間レースで走行する井原さん

政府が女性活躍推進をうたうようになって、近年ではだんだんとサポートしてくれるようにはなりましたが、世界と比べると、まだまだ遅れている状況です。このような構図は、企業社会の中にもあるのではないでしょうか。「男女雇用機会均等法」が1986年に施行され、30年近くが経ちますが、日本企業の中における女性の活躍は思ったほど進んでいません。女性管理職比率は、依然として低い状況です。ただ最近になって、制度は少しずつ整ってきました。事実、制度の内容も諸外国と比べて、著しく劣っているとは思いません。

それなのに、なぜ女性の活躍が一向に進まないのでしょう。それは、実際の「ムーブメント(動き)」がないからです。制度をいくら作っても、女性の活躍を推進しようという具体的な動き、あるいは風潮がなければ、多くの男性は理解しようとしませんし、女性自身も学んで活躍する場が得られない。これは欧州での生活経験で学びました。

日本では女性活躍の問題となると、必ず制度に関する議論が中心になります。ところが、欧州などでは運用につながる機運を高めることにも注力しています。制度と共に女性活躍という「ムーブメント」を起こし、人々に考える機会を与えて確実に運用していく。例えば、電気自動車のインフラ整備についても、EV先進国であることを象徴するかのように世界に先駆けて電気自動車のレースを開催しました。象徴的になる指針を国民に人気があるスポーツ文化を通して打ち出し「ムーブメント」を起こすのです。その上で、より良い制度を作ってインフラを整備し、企業の技術革新や電気自動車の普及を確実なものにしていく。こういう事例を欧州にいた時に数多く見てきたので、日本でも「ムーブメント」を制度と共に起こしていくやり方ができないかと、私なりに考えました。

日本の場合だとまず多くのメディアに取り上げられないと、なかなか話が進みません。そこで、レーサーからエンジニア、メカニックなど、モータースポーツに関わるあらゆる職種で、女性が活躍できる環境作りを進めるプロジェクト「Women in Motorsport」を2015年にスタート。カーメーカーのマツダ株式会社と共同で立ち上げました。プロジェクトを発表したところ、新聞やテレビなどに多数取り上げられました。今年は早速、女性レーサーを中心にモータースポーツで活躍する人材育成を目指して公募したところ、18歳~68歳の女性の数百名の応募があり、25人の女性メンバーを選出。4月から7月にかけて訓練合宿を行いました。

井原慶子さん Photo
「Women in Motorsport」の訓練合宿

最終的には、自動車産業で女性がもっと活躍できるようになってほしい。言うまでもなく、自動車は日本の基幹産業です。基幹産業で女性が活躍するのが普通のことになれば、それは自ずと他の産業にも波及していくことでしょう。できれば、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年くらいまでに、あらゆる産業で女性が働くことが普通であるという風を吹かせたいと思い、「Women in Motorsport」の取り組みを始めました。

私はカーレースという生死を賭けた世界で生きてきたわけですが、この世界で人を動かすのは、人の「感情」だと思います。人の「感情」が動けば、産業で必要な「金」や「モノ」も動きます。「行政」も動くことでしょう。

逆に、「制度」が人を動かすのではない、ということもよく分かりました。それは、制度を充実させても、日本で女性活躍があまり進まなかった結果を見ても明らかです。人の「感情」次第で、世の中が変わることもある。人の「感情」で「ムーブメント」が起こり、そこから「産業」や「制度」が生まれてくるというやり方について、今後私たち日本人の自主性も問われるところですね。

―― ところで、世界で広く経験をしてきた井原さんから見て、日本人の「強み」「弱み」は何ですか。

「強み」は、かなりあると思います。健康長寿で志も高い。語学力の問題はありますが、チームとしてものごとを進めていく上でのコミュニケーション力は、非常に高いと思います。逆に、「弱み」と感じるのは、チャレンジをしないことです。組織や枠組みを超えたコミュニケーションや新しい環境へのチャレンジは少ないように感じます。


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