Jリーグ 村井チェアマンに聞く!ビジネスで発揮してきた人事・経営の手腕を、
Jリーグでどう生かしていくのか?(前編)
~組織を変革するリーダーは、夢を共有し、ビジョンを描かなくてはならない
公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)チェアマン
村井満さん
ビジョナリーであることが、他のスポーツ組織と違うJリーグの大きな特徴
Jリーグの「組織」としての特徴を、お聞かせください。
Jリーグの所属する組織は、全世界に展開している巨大コングロマリット(複合企業体)です。FIFA(国際サッカー連盟)を頂点として、世界各国に傘下のサッカー協会があります。FIFAの方針は一国一協会主義。日本はJFA(日本サッカー協会)ですね。オリンピックと並ぶ世界的なスポーツ大会であるFIFAワールドカップの予選には209の国・地域が参加していますが、これは国連参加国数よりも多い。また、JFAにはJリーグだけでなく、女子サッカーや大学サッカー、フットサルなど、多くの団体が所属しています。ホールディング会社がJFAだとすると、その中の一事業部門にJリーグがあるということです。私はそのJリーグのチェアマンかつ、JFAの副会長を兼任しています。
JFAやJリーグはFIFAという世界的な組織の中の一構成員であり、FIFAワールドカップで戦う、アジアチャンピオンズリーグで戦うなど、常に世界に通じているのが大きな特徴です。サッカーボールがあって、そこに技術があれば、ドイツやスペイン、バルセロナやレアル・マドリッド、バイエルン・ミュンヘンといったサッカー強国・クラブと戦う権利は常に用意されています。そういう世界的な組織に属しているのが、Jリーグなのです。
もう一つ、Jリーグが組織として特徴的なのは、ビジョナリーな組織であるということです。Jリーグの理念は「日本サッカーの水準向上およびサッカーの普及促進」「豊かなスポーツ文化の振興および国民の心身の健全な発達への寄与」「国際社会における交流および親善への貢献」の三つです。この中で2番目が大きなポイントです。ここでは、サッカーという言葉が出てきません。今から21年前、1993年にJリーグが発足した時に、初代・川淵三郎チェアマンが「日本中に緑の芝を作りたい」として、ドイツに原型のある複合型のスポーツクラブが街にあり、そこに市民が集まってスポーツを楽しむ、といったスポーツ文化を広めていきたいと宣言しました。これがJリーグの理念の根本を成す考え方です。
理念の下、Jリーグでは各地域におけるホームタウン活動を義務づけています。例えば、「学校を訪ねて給食を一緒に食べる」「お年寄りの介護施設に行って、一緒にストレッチをする」「川沿いの清掃活動をする」「子供たちと一緒に田植えをする」など、選手や指導者が地域の人々と交流を深める場や機会をつくっています。サッカーだけでなく、いろいろな機会をつくって身体を動かす、そして心身の健全な発達につながるような活動を地域の人たちと一緒に行っているのです。その回数は昨年で4000回。J1・J2が40クラブあるわけですから、1クラブ当たり年間で約100回、1週間に2回のペースで平日、ホームタウン活動を行っていることになります。そして、週末にサッカーの試合を行う。これがJリーグの選手たちの実際の姿なのです。
このようにJリーグは、他のスポーツ競技団体と比べると、非常に地域色が強い組織であることが分かります。地域に貢献し、豊かなスポーツ文化を広めていくことを使命としている。そのためにホームタウン活動を行うわけであり、収益を上げるためには何をやってもいい、ということではありません。ビジョンから発想して、細かな規定や打ち手を決めていくというスタイルがあり、非常にビジョナリーな組織だと言えると思います。
日本企業がこれからグローバルに展開していく上で、Jリーグの組織のあり方に学ぶ点が非常に多いように感じます。
私はリクルート時代、4社の買収を経験しました。海外3社、国内1社でいずれもグローバル企業です。そこで分かったのが、相手の経営状況、資産内容などを徹底的に分析・評価し、有利な条件で交渉していくことだけがM&Aではないということです。世界の経営者と対等に付き合っていく時に、相手を買いたたくといったような浅ましい根性では、相手はシャッターを降ろしてしまいます。大事なのは、大きなビジョンを描いて夢を共有することです。そして、一緒にお酒を飲んだり、あるいは夜を徹して語り合ったりできることが本当の意味でのリーダーの「経営力」です。ビジョナリーな人間でなければ、世界の市場では相手にされないのです。その点で、Jリーグのスタンスというのは、これまで私が見てきたビジョナリーな「経営観」と全くずれるものはありませんでした。語学力が大事だという人もいますが、いかに流暢に話せるかもより、伝えることがあるかどうかの方がとても重要だと思います。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。