明確な就業規則違反、業務命令違反がない問題社員対策!
「グレー問題社員」への注意・指導と懲戒処分の仕方
弁護士
浅井隆(第一芙蓉法律事務所)
(2)労働能力欠如型
これも、1ページ目、2(2)の具体例を念頭に対応を考えます。
【1】業務指示には従うものの、ふて腐れた態度を取る
ⅰ.グレー度
「ふて腐れた態度を取る」というのは、客観的には、はっきりしません。それを指摘したとしても、当該社員からは、「私はふて腐れた態度など取っていませんよ。何を言っているのですか」と反撃されます。
したがって、(過去の)当該社員がそのような態度を取ったこと自体を問題視するのは、うまいやり方ではありません。
ⅱ.対応
勤務態度の良いモデルを示すことにし、過去の当該社員の勤務態度の悪さは指摘しない、ということです。例えば、「お互いに気持ち良く仕事をしましょう。したがって、業務指示を受けたら、指示をした上司に向き合い、顔を見て、しっかりその指示の内容を聞いてください。そして、理解できたら『わかりました』と答えてください」と、勤務態度の良いモデルを示し、当該グレー問題社員がそのモデルを実行するならば「ふて腐れた態度」を取れないようにするのです。
もし、当該グレー問題社員が、上記(勤務態度の)良いモデルを実行しなければ、「ふて腐れた態度」を指摘する必要はなく、当該業務指示違反を指摘することが可能になります。
その指摘をしても改善しなければ、文書による注意、さらにはけん責処分、あるいは賞与・昇給査定でのマイナス評価という展開が可能になります。この場合に使用する書式も、前出の書式例1~3を参考にしてください。
【2】業務はこなしているが、上司が聞くまで連絡・報告がない
ⅰ.グレー度
「上司が聞くまで連絡・報告がない」のでは、確かに、上司は、部下が何をやっているかわからず困ってしまいます。
ただ、【1】と同様、問題性が明確になるように工夫する必要があります。
ⅱ.対応
上記【1】と同様ですから、どうすればよいかおわかりでしょう。どういうタイミングで連絡・報告をしなければならないかを、事前に良いモデルとして示すのです。
例えば、「1週間以内に処理することを指示した業務に関しては、その業務が終了したか1週間では終わらないとわかったときに、必ず連絡し報告するように。処理するのに1週間を超える業務は、1週間ごとに進捗を報告するように。ただその途中で予想していなかったことが起きたら、その都度すぐに連絡して相談するように」と業務指示をします。つまり、会社(上司)が当該社員の「聞くまで連絡・報告がない」という問題点につき、どうさせたいのかを分析して整理し、上記のように、具体化するのです。そして、それを事前に示すのです。
一度明確に業務指示として示せば、それに違反したときは業務指示(命令)違反となります。違反が明確になれば、文書による注意、さらにけん責等の懲戒処分が可能となります。
【3】社外の人への態度が悪く評判が悪い、あるいは社内の評判が悪い
ⅰ.グレー度
この「社外の人への態度が悪く評判が悪い」、あるいは「社内の評判が悪い」ということ自体は、評価であって、事実ではありません。したがって、それを指摘しても、当該社員から「そんなことはありません。『態度が悪く評価が悪い』と言うなら、具体的にいつ、どこで、誰に対してどのような言動をしたのか、明確にしてください」などと開き直られ、会社が答えに窮すれば「それ見たことか。そんな事実なんてないから答えられないんですよ。こんな指摘をすること自体、私へのパワハラですよ。謝罪してください」と追及されかねません。
つまり、このような指摘は、日時、場所、言動内容を特定した事実を余程具体的に記録化していない限り、逆に反撃されてしまうのです。
したがって、そのような記録がない以上は、「社外の人への態度が悪く評判が悪い」、あるいは「社内の評判が悪い」などと、無防備に指摘してはいけません。
ただ、そのような評価となるような言動をしたグレー問題社員を放置しておくことは、もっと悪い対応です。それは、組織にとって極めてマイナスとなる社員だからです。
ⅱ.対応
この場合も、上記【1】、【2】と同様、業務指示として、将来の行為規範を明確に示すのです。当該社員について「社外の人への態度が悪い」、あるいは「社内の評判が悪い」との評価があるなら、それがどういう内容かを関係者から確認して分析し、行為規範として整理します。
例えば、ある営業職の社員について社外の人への態度の悪さゆえに苦情を受けていたならば、その「苦情」の具体的な内容を聞き、同僚が当該グレー問題社員の社外の人に対する態度を見ていたなら、その同僚の話を具体化し、どんな態度が問題なのかを、例えば、次のように整理します。
- 顧客の担当者に対し失礼な受答えをする
- 顧客の担当者と電話会議を設定したのに時間を守らない
- 顧客の担当者に2日以内に確認結果を報告する、と約束したのに報告しない
そして、次のように行為規範を設定し、グレー問題社員に口頭で伝えます。
- 顧客担当者との口頭でのやりとりは丁寧に行い、決して職場の仲間と話す口調で行わないこと
- 顧客担当者と電話会議や確認事項報告を約束したときは必ず守り、万一事情があって守るのが難しければ、事前に当該担当者に電話し、その旨伝えるとともに、代わりの約束(電話会議なら代替の日時、確認事項について期限内に報告できないならば、いつまでならできるか)をすること
その際、グレー問題社員が「なぜそんな当たり前のことを私に言うのか。言うなら他の社員にも平等に言ってくれ」と言ったら、「あなたの社外の人への態度の悪さを指摘する人がいる。ただ、会社としては、その真偽を確認するよりは、あなたの将来の勤務態度に指摘されているようなことがなければ、問題ないと思っている。それゆえ、あなたにそのような指示をした」と回答すればよいのです。つまり、過去の問題性を指摘することで他の社員には指示しない合理的根拠を示 しながら、それ自体が争点化しないようにするのです。
このような指摘に対して、グレー問題社員が「それは、私への名誉毀損だ。事実ではない」と食い下がったら、「むしろ、あなたが今後、会社の上記指示に則って勤務すれば、あなたの勤務ぶりが悪くないことを証明できる、それが動かぬ事実ではないか。あなたが自身で証明できる良い機会なのだから、しっかりやってもらいたい」と、切り返してください。
上記【1】、【2】やその他の問題類型でも、「なぜ、私だけにそういう指示(注意)をするのか」と言ってくることは、当然、想定されます。そのときには、グレー度を指摘してください。グレー問題社員はそれを否定し、「そんな疑いをかけるなら会社は立証してみろ」、と言ってきます。対応としては、「過去、あなたがそう言われていることを会社は、そのまま信じていない。むしろ、将来、あなたが、それを打ち消す勤務態度を示す機会を与えることで、会社は見極めたいと考えている」と切り返すのです。そして、過去の評価を打ち消す勤務態度を示す機会として行為規範(勤務態度の良いモデル)を示します。
この対応によって、今後、グレー問題社員が行為規範に従わなければ、そのことで問題行動を記録化できるようになります。この方法はいろいろな場面で応用できるので、是非できるようにしてください。
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