上司と部下の間の「評価ギャップ」を解消するには――?
人事評価への納得性を高めるための
目標設定・フィードバック面接と運用法
株式会社河合コンサルティング代表取締役
河合 克彦
2. なぜ目標の評価で不満が生じるのか
評価の納得性の有無は、評価を受ける者(被評価者)が納得するかどうかで決まるため、評価の納得性は被評価 者の主観となります。通常、被評価者が納得できず不満を感じるのは、被評価者の評価が高く、上司(評価者)の評価が低い場合です。その原因を探ってみる と、次のようなことが挙げられます。
(1)目標設定時の問題
目標の評価にギャップが生じる原因は、評価そのものではなく、目標の設定の場面に問題がある場合が多いものです。例えば以下のような問題です。
問題1. 目標の達成基準が明確でないために、本人と上司の間で達成基準のイメージにギャップがある
目標の評価は、設定した達成基準をどの程度達成したかで評価します。この達成基準がそもそも十分明確になっ ていないために、被評価者が正確に目標を把握しないまま職務を遂行した結果、評価の段階でギャップが生じるという問題です。したがって、まず達成基準を明 確に設定する必要があります。
達成基準の設定は、その目標の期末時点の状態がどのようになっているかをイメージすることから始めます。 イメージは具体的に、詳細に行うことが必要です。そのイメージをそのまま達成基準として記述すればよいのです。そしてイメージ通りになっていれば「達成」 ということになります。
期末時点の状態をイメージしづらい目標については、期中にどのような行動をするかをできる限り詳しくイメージし、そのイメージをできる限り詳しく記述すればよいのです。
イメージする場合、数値化することが可能なものはできる限り数値化します。何個、何円、何点など数値化することによって、イメージがより具体的になります。数値化することにより、目標達成へのやり方やプロセスも、より具体的になってきます。
しかし、何が何でも数値化しなければならないと硬直的に考えることはありません。「この目標は重要だと思 うのですが、うまく数値化できないので、目標としませんでした」と言う人がいますが、これでは本末転倒です。数値化できない目標もあるのです。それが重要 であれば目標とすべきです。その場合は達成したときのイメージをできる限り具体的にイメージし、そのイメージを詳しく達成基準に記入すればよいのです。
問題2. 評価の取決めが十分に行われていない
売上目標、利益目標など数値が明確な定量的な目標は、100%達成で「5」、95%達成で「4」のように、 目標設定時に取り決めておきます。数値が明確な目標でない場合は、「期末時にこういう状態になっていれば5」などと取り決めておきます。定性的な目標は達 成したときのイメージを具体的に表現しづらい場合もありますが、それでもできる限り明確にすることが必要です。
なお、易しい目標を設定した本人がどうしてもその目標を譲らず、達成したとしても高い評価につながらない場合は、「仮にこの目標を達成しても『5』評価にはならないよ」など、評価時の取決めをしっかり伝えることが必要です。
また、チャレンジングな目標、難しい目標を設定した場合で、達成に向けたプロセスも評価対象になるという 場合には、「これは価値のある目標だが、達成が難しい目標だ。達成できなくてもそのプロセス、頑張りを評価するから思いきってやってくれ」などのように伝 えて、やる気を引き出すことも必要です。
(2)目標遂行時の問題
目標の評価で不満が起こる原因の第2に、目標遂行時の問題が挙げられます。
問題1. セルフコントロールを放任と勘違いしている
与えた仕事は任せっぱなしで報告を求めない、中間時の確認をしない、アドバイスもしない、必要な情報も提供しないなど、セルフコントロールを放任と勘違いしている管理職がいるとすれば、問題です。
管理職は、しっかりフォローし、報告を求めます。
問題2. 目標を変更する必要がありながら変更しない
目標遂行の途中で別の重要な仕事が発生し、本来の仕事を一時ストップして別の仕事を行ったために、当初の目標を達成できなかったようなこともあります。そういう場合は、評価期間中でも目標の変更を考える必要があります。
(3)目標評価時の問題
目標評価時に生じる問題としては、次のようなことが挙げられます。
問題1. 目標の評価に他の要素を入れて評価してしまう
被評価者の自己評価でも評価者の評価においても、目標の評価に他の要素を入れて評価してしまうことがよくあるので、注意が必要です。
目標の評価とは、目標に掲げられたことだけで評価すべきであって、目標以外の要素は評価に入れないことが重要です。
例えば、ある特定製品の売上を伸ばそうと、特定製品について売上目標を設定し、この目標は達成したのですが本人が担当する売上目標はまったく未達成であったため、この特定製品の売上目標達成に対する評価を下げてしまう、といったようなものです。
問題2. 評価期間外のことまで入れて評価してしまう
また、評価期間外のことまで入れて評価してしまうことがあるので、これも注意が必要です。
例えば、図表2に示すように、評価は期末時点(例えば3月31日時点)の達成状況で評価すべきところを、評価時点(例えば4月20日時点)での達成状況で評価してしまう、などです。3月31日時点では達成していなかったのですから「未達」と評価すべきが、4月20日時点では達成していたため「達成」と評価しがちです。
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