職場のストレスをどう解消している?
メンタルヘルス対策の最新実態を探る
「成果主義」の浸透、IT化の進行による業務内容の変更、経営不安から来る雇用への不安感など、急激な労働環境の変化によって、労働者の抱えるストレスは増大する傾向にあります。一昔前までは、働く人にとって「心の健康は自分自身で管理すべきもの」という認識が一般的でしたが、過労自殺が社会問題化し、心の健康についても企業に安全配慮義務が明確に問われるようになっています。実務担当者にとってメンタルヘルス対策は無視できない問題となってきましたが、その取り組みは今、どこまで進んでいるのでしょうか。企業のメンタルヘルス対策をめぐる事情について、労務行政研究所の調査をもとに探ってみます。
規模の大きな企業ほど「メンタルヘルス対策が課題」と考えている
うつ病などメンタルヘルス(心の健康)に問題を抱える社員が増えていると指摘される一方で、その対策に課題を抱えていると考える企業はどれくらいあるでしょうか。まず、表(1)をごらんください。
現在、メンタルヘルス対策が自社で課題となっているかとの問いに対して、56.9%の企業が「課題となっている」と答え、「とくに課題となっていない」とする企業(39.9%)を17ポイント上回っています。規模別に見ると、大手ほど「課題となっている」企業の割合が高く、1000人以上で79.1%と8割に近い企業が問題視しているのに対し、300人未満では18.8%と2割にも達していません。
課題となっている企業において、実際にメンタルヘルス対策の窓口になっている部署を尋ねてみると、大多数の企業が「人事関連部門(健康管理室、安全衛生担当、福利厚生担当など)」を挙げました。具体的にどんな課題があるのかというと、(1)メンタルヘルス不全による休職者や相談件数の増加(2)長時間・過重労働への取り組み(3)復職の見極めと復職後の支援体制(4)職場での心の健康管理ケア(職場環境の整備などの予防策、管理職のメンタルヘルス教育)――の4つに集約されました。
話題の「EAP」サービスを利用している企業は全体の1割以下
それでは、企業は今、どんなメンタルヘルス対策を実施しているのでしょうか。表(2)をごらんください。
健保組合や外部の専門機関を利用しているものも含めて複数回答をしてもらった結果、「心の健康対策を目的とするカウンセリング」と「電話やEメールによる相談窓口の設置」がそれぞれ42.4%と、最も多くなっています。次いで「管理職に対するメンタルヘルス教育」(39.1%)、「社内報、パンフレットなどによるPR」(37.7%)と続きます。
一方、「とくに実施しているものはない」と回答する企業も3割に上りますが、これを詳しく規模別に見てみると、1000人以上が9.6%と1割程度に対して、300~999人が32.0%、300人未満が64.1%と、小規模企業ほどあまり積極的に取り組んでいないことがわかります。
最近、認知度が高まりつつある「EAP」についてはどうでしょうか。どれくらいの企業が利用しているのでしょうか。「EAP」とは、主にアメリカなどで普及している従業員援助プログラム(Employee Assistance Programs)の略称。簡単に言えば、医師や臨床心理士、産業カンウセラーなどの専門家が、契約企業のメンタルヘルス、カウンセリング、心の病による休職者の復職支援など、従業員の業務パフォーマンス向上のために行うさまざまな支援活動のことです。
表(3)をごらんください。実際にEAPサービスの利用状況を尋ねたところ、「利用している」企業はわずか8.0%と、1割もありません。規模別に見ても、1000人以上が14.8%と1割台に乗るだけで、300~999人が4.1%、300人未満が1.6%と、まだEPAが普及するまでには時間がかかりそうです。
「職場復帰プログラム」を設定している企業は4社に1社にとどまる
この調査では、メンタルヘルス不全により1カ月以上休職している社員がいる企業は50.9%と、半数に上っています。問題は、そうした社員が復職するときです。その社員の主治医の診断書を信じて復職させたら再び休職することになったとか、主治医が社員に都合がいいような診断書を書いていたなどというケースもあります。休職していたメンタルヘルス不全者が職場に復帰する際の手順や流れを示した「職場復帰プログラム」があれば、そういった問題も減ると思われますが、それを設定している企業はどれくらいあるでしょうか。
表(4)をごらんください。
「職場復帰プログラム」を設定している企業は25.5%と、4社に1社にとどまっています。規模別に見ると、1000人以上で33.9%、300~999人で24.7%、300人未満の企業では11.3%というように、大手ほど設定している企業は多くなります。「職場復帰プログラム」の具体的な内容は「配置転換」「短時間勤務」「残業の制限・禁止」「業務量・内容の見直し」などが多く挙げられましたが、とくに一律的に決めるのではなく、個人の状況に応じて産業医の意見に従い柔軟に対応する、というところもあります。
人事の専門メディアやシンクタンクが発表した調査・研究の中から、いま人事として知っておきたい情報をピックアップしました。