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増加する“モンスター社員 タイプ別分析&対応方法

1 増加する「モンスター社員」とは?

(1)常識外れの言動で周囲を振り回す

最近、「モンスター社員」という言葉を人事労務管理の現場で耳にする機会が増えてきました。例えば、少しでも処遇に不満を持つと、本人ではなく、母親や父親などの保護者や、妻や夫などの配偶者が出てきて会社に文句を言ってくる。有給休暇や福利厚生などの諸制度を徹底的に利用して周囲に迷惑をかけてもまったく気にしないが、少しでも自分の権利が侵害されると行政などの外部機関を巻き込んで争いを起こす。パワー・ハラスメントを繰り返し、自分の部下を次々に潰していく…。

明確な定義や学術上の根拠があるわけではありませんが、常識外れの態度で周囲を振り回し、会社や上司などが対応に苦慮する社員を総称して、「モンスター社員」と呼ぶようにしたのでしょう。

(2)他にもいる「モンスター○○」

「モンスター」といえば、似たような言葉として、「モンスター・ペアレント」「モンスター・ペイシェント」などが思い浮かびます。

「モンスター・ペアレント」とは、教師・学校や教育委員会などに対して、自己中心的で常識を超えた理不尽な要求あるいはクレームをつきつける保護者のことを意味する、和製英語とされています。このような保護者の対応に疲労困憊し、うつ病を発症する教師も少なくないと言われています(なお、米国では、このような保護者のことを“まるでヘリコプターのように子どもの頭上を飛び、何かあると急降下して助けに行く”というような意味から、「ヘリコプター・ペアレント」と呼んでいるそうです。自己中心的で過干渉な親が増えてきている事情は、日本と似ているのかもしれません)。

また、「モンスター・ペイシェント」とは、医師や看護師などの医療業務従事者に対して常軌を逸したクレームや自己中心的な要求をつきつける、あるいは気に入らないことがあると暴力を振るうなどする悪質な患者のことを総称したものです。最近では、「モンスター・ペイシェント」対策マニュアルを準備している病院やクリニックも増加傾向にあると言われています。

一方、「モンスター」の表現はありませんが、「悪質クレーマー」についても、「モンスター・ペアレント」や「モンスター・ペイシェント」と同様、自己中心的で常識外れの人々を表す、最近の傾向を反映した新しい言葉の1つでしょう。行き過ぎた消費者主義や信頼関係の低下などを背景として、サービスを受ける人あるいは商品の購入者などが一方的に理不尽な要求を突きつけたり、常軌を逸した無茶なクレームをつきつけたりするケースが増えており、このような一般消費者が「悪質クレーマー」と呼ばれています。

(3)背景には何があるのか?

以上のような「モンスター・ペアレント」「モンスター・ペイシェント」「悪質クレーマー」などの言葉が流行する背景には、やはり社会の中で一人ひとりに余裕がなくなり、ギスギスとした人間関係が蔓延しつつあるという側面がありそうです。

では、増加する「モンスター社員」に対して、会社はどのように対応すればよいのでしょうか。以下では、「モンスター社員」を最近よく見受けられるパターン別に分類して、それぞれの対応法を示していきますので、個別のケースを通して具体的にイメージしていただきたいと思います。

※なお、以下の内容については、匿名性に充分配慮し、様々なケースをシャッフルして実際のケースとはまったく異なる形で記載しています。

2 タイプ別「モンスター社員」への対応法

(1)「親介入型」社員

新卒採用した女性社員。入社当初から体調不良を訴え、最近では遅刻や欠勤が目立つようになっていた。理由を聞いても、「今度から気をつけます」というだけで、一向に改善されることはなく、ハッキリしない理由による欠勤が続いていた。会社(総務部)から注意したところ、案の定、翌日は欠勤したうえ、何と彼女の母親から文句の電話がかかってきた。しかも、その文句の言い方が尋常ではなく、長時間にわたって一方的に怒りをぶつけてくるだけで冷静な話合いにもならない。しまいには「監督署に訴える!」などと言い出す始末であった。

<対応のポイント>

社員の問題行動を注意し、改善のためのアドバイスをしたとたん、社員の親や配偶者が会社にクレームをつきつけてくるケースは、まさに「モンスター」ケースの代表格かもしれません。

このようなケースは、初期対応が最も重要です。“モンスター親”の自分勝手で理不尽な要求や、立場をわきまえず「自分の思い通りに動かしたい、会社を従わせたい」というエゴの内側には、世の中に対する怒りや鬱積した不満や挫折感が隠れていることが多いからです。出口を求めていた鬱積した不満や怒りが、たまたま運悪く会社や担当者に向けられてしまった部分も少なくないので、まさに“とばっちり”状態、一度巻き込まれると大変な事態にもなりかねません。まずは誠実に、じっくりと話を聴くことが大事でしょう。“感情”で向かってくる相手に、“理論”で応えようとすると、かえってこじれる可能性もありますので、注意が必要です。

一方で、親自身が自分の人生と真剣に向き合っていないため、行き場のない感情や自信のなさをこころの奥に抱えつつも、そのような自分に向き合う勇気もなく、その代わりに“子どものために”会社に文句を言うことで、自分の存在価値を見出そうとしているケースもあるでしょう。その場合は、常識外れの言動の背後に「私の言うことを認めて欲しい。私の気持ちや存在を受け止めて欲しい」という要求が、肥大化している可能性もありますから、以下のような対応をとるのがよいでしょう。

  1. 話をじっくり聴く。
  2. 会社として“できること”と“できないこと”を明確にし、毅然とした態度は保ち つつ言葉を選び誠実に伝える。
  3. 言うなりになるのではなく、文句を言わずにはいられない親自身の感情をどっしり 受け止める。

(2)「反抗型」社員

30代前半の男性社員。日頃から業務や社内コミュニケーションに積極的ではなく、1人で孤立していることが多かった。教育指導の一環として上司が改善点を指摘しても、ムスッとして口をきかなくなったり、わざと仕事をミスしたり、会議の時間に遅れてきたり、周囲に聞こえるような大きな声でため息をついたり、上目遣いに周囲の人を睨んだりなど、ネガティブな形で反抗してくる。ある時、自分のブログで会社の悪口を書き込んでいたことが発覚し、社内で大騒ぎになったが、本人にはまったく反省の色が見えなかった。

<対応のポイント>

このようなタイプの人は、率直に不満や希望を語らず、こころを閉ざしたまま表面的な会話を続ける傾向があるため、せっかく話合いの機会を設けても、あまり大きな進展はないかもしれません。もちろん、相互理解のため、継続的にコミュニケーションの機会をもつ必要はありますが、まずは社内規定をきちんと整備するなど、法的な視点から自衛策を検討することにエネルギーを割いたほうが安心かもしれません。

もちろん、可能であれば時間をかけて、本人がこころを開くまで待つことも大切です。ただし、もともと会社や社会に対する不信感が強いタイプであれば、せっかくこころを砕いて向き合うよう努力しても、徒労に終わってしまう可能性もあります。

<情報管理規定の例>

第●条 従業員は、会社内外を問わず、在職中あるいは退職後においても、会社の機密情報や顧客情報、個人情報ほか会社の不利益になる情報、および業務上知り得た情報やデータなどを、第三者やインターネット上に開示したり、提供したり、漏洩したりしてはならない。

(3)「パワハラ型」社員

50代の男性社員。キャリアが長く有能で仕事もできるが、行き過ぎた部下指導のため、若手社員が次々とうつ病などで休職したり、退職したりするケースが後を絶たなかった。熱心だがこだわりも強いため、「何度同じことを言ったらわかるんだ!この馬鹿がっ!」「お前には一人前に判断する脳みそも能力も経験もないんだから、俺の言う通りにやっていればいいんだっ!!」などと、周囲をはばかることもなく、大声で部下を怒鳴りつけることが多かった。

<対応のポイント>

パワー・ハラスメント(パワハラ)とは、中央労働災害防止協会の定義によれば「職場において、職権などの力関係を利用して、相手の人格や尊厳を侵害する言動を繰り返し行い、精神的な苦痛を与えることにより、その人の働く環境を悪化させたり、あるいは雇用不安を与えること」とされています。

例えば、相手の感情に配慮することなく、「人間のクズ」「役立たずは不要」「社会人として最低」「幼稚園からやり直せ」などと、人格を否定する言葉を繰り返したり、イライラした感情をそのままぶつけたり、大声で怒鳴りつけたり、暴力的になったりすると、パワー・ハラスメントに該当する可能性が高いと言えるでしょう。

このようなタイプの人は、仕事はでき論理的で弁が立つが、相手の立場や気持ちを想像する能力に乏しいケースが少なくないので、対応に苦慮するでしょう。「感情暴発型」、「コントロール型」、「自己愛型」、「完璧主義型」、「攻撃型」、「こだわり型」、「不安型」など、加害者のタイプによって対応は異なりますが、基本的には、以下の対応が有効でしょう。

  1. 問題となる言動を具体化し、禁止する。
  2. 規程やマニュアル等を整備する。
  3. 問題行動に焦点をあて、加害者自身を否定しない。
  4. 被害者の感情を想像するトレーニングを継続させる。

3 採用面接の段階で注意すべきポイント

「モンスター社員」による問題発生を未然に防ぐためには、採用段階で注意することも必要です。以下では、どのようなタイプに気をつけるとよいのか、そのポイントについて見ていきます。

(1)愛想が良くしばしば面接担当者を持ち上げるタイプ

相手をこころから認めて良い部分を誉めることと、持ち上げることとは、まったく別のことです。必要以上に“持ち上げる”ことは、“突き落とす”ことの裏返しになる可能性もありますし、相手を自分のペースに巻き込んだり歓心を買ったりすることで、相手をコントロールすることにもつながるでしょう。

最も典型的な例は、いわゆる家庭内暴力(DV)の夫が、結婚前は交際相手にイベントでもないのに花束や高価な物を繰り返しプレゼントするようなパターンです。交際相手の歓心を買い、「こんなにいろいろしてもらって申し訳ない。私も何かお返ししなくちゃ」という気持ちを起こさせ、結果的に自分の意のままに相手をコントロールしてしまうのです。

「この女性はもう自分のものになった」と勘違いしたとたん、あるいは「正式な社員になったからもう簡単には自分を追い出せないだろう」と思ったとたん、態度が豹変し、好き勝手に振る舞うなど、実は最初から相手を尊重していなかったというケースは少なくないのです。

(2)採用者の顔色や反応で態度がコロコロ変わるタイプ

一貫した考え方がなく人に合わせてばかりの人や、極端に自分に自信がない人ほど、人の顔色や反応を敏感に察知して、相手の望むように振る舞うのではないでしょうか。もちろん、そのような態度が自然であるわけがなく、本人も気づかないうちにストレスを溜め込むことにもなりかねません。ある日突然感情を爆発させて、態度が豹変するとも限らないのです。さらに、日頃から相手によって反応や意見がコロコロ変わるので、複数の関係者がそれぞれ異なる情報を伝えられ、現場が混乱する可能性も否定できません。

相手の反応を無視して自分のやり方や考え方を押し通すだけの人も問題ですが、態度をコロコロ変える人も本音では不誠実だったり、1人でストレスを溜め込みある日突然暴発したりするなど、結果的にトラブルの元にもなりかねないでしょう。

(3)「人の役に立ちたい」という意識が感じられないタイプ

本音の部分では「生活のために仕事をする」ということもちろんあると思いますが、それだけでなく、やはり仕事には“人に役に立つ”“奉仕して対価をいただく”という意味があると思います。このような意識に乏しい人は、自己中心的な態度に陥りやすかったり、自分の都合の良いように会社を利用したりする可能性も否定できないのではないでしょうか。

(4)退職理由がいつも“職場の人間関係”であるタイプ

時代の変化が早くなり、自己責任によるキャリア開発が求められるようになってきた昨今、転職回数が多くても、一概に問題があるとは言えなくなりました。むしろ、明確なビジョンとキャリア開発の必要性から、定期的に転職を繰り返すことも珍しくなくなっています(そうは言っても“石の上にも3年”という言葉にもある通り、あまりに転職回数が多いのも問題ですが…)。

そこで、「転職回数が多いかどうか」という視点のみで判断するのではなく、「明確なビジョンによる転職であったか」など、理由をきちんとおさえることで、応募者が問題社員だったかどうかの1つの判断材料にすることができるでしょう。もしその転職理由が、いつも“職場の人間関係”だったとしたら、おそらく問題の多くは本人の側にあるのではないでしょうか。

(5)「自分が○○してやった」等の表現が目立つタイプ

仲間の存在や周囲のサポートの有難みを認めず、「自分が、自分が」という発想が根底にあると、言葉の端々にそのような自己中心的な考えがにじみ出てくるでしょう。確かに、採用面接は自己PRの場ではありますが、自分の過去における実績や貢献度を客観的に分析して冷静にPRすることと、自慢話をすることはまったく異なります。

自分の話題になると、エンジンがかかって早口でまくし立て、「社内で一番」などの“最上級表現”を乱発し、目つきはギラギラ、得意満面の笑みを浮かべたり、あるいはあごを斜め上にしゃくりあげ、斜め下を見下ろすような表情をしたり(いわゆる“上から目線”で斜に構えたような態度、でしょうか?)、少しでも疑いや客観的な意見を挟むと、とたんに不快感をあらわにするようなタイプは要注意でしょう。

4 組織のあり方にも問題はないか?

「モンスター社員」には、本稿でご紹介したタイプだけでなく、「回避型」「強迫的こだわり型」「不安定型」「自信過剰型」など、様々なタイプがあり、対応の仕方も一様ではありません。そして、最も気をつけたいのは、問題の原因を個人の性格的要因のみに帰してしまうことです。実は、問題の根源は組織の側にあり、社員が自己防衛策として「モンスター社員」化しているケースも少なくないからです。

人間は、環境の影響を受けやすい生き物です。「モンスター社員」の問題と、組織の問題や人間関係のあり方は、無関係ではないのです。

日本法令発行の『ビジネスガイド』は、1965年5月創刊の人事・労務を中心とした実務雑誌です。労働・社会保険、労働法などの法改正情報をいち早く提供、また人事・賃金制度、最新労働裁判例やADR、公的年金・企業年金、税務、登記などの潮流や実務上の問題点についても最新かつ正確な情報をもとに解説しています。ここでは、同誌のご協力により、2008年11月号の記事「増加する“モンスター社員”タイプ別分析&対応方法」を掲載します。『ビジネスガイド』の詳細は日本法令ホームページ http://www.horei.co.jp/ へ。

【執筆者略歴】
●涌井美和子(わくい・みわこ)
青山学院大学卒業。メーカー勤務、社会保険労務士事務所勤務を経て、東京国際大学大学院修士過程修了(臨床心理士資格推定大学院)。現在、メンタルヘルス&ハラスメント対策や個別カウンセリングを行う「オフィスプリズム」( http://office-prism.com/ )や公的機関のカウンセラーを務めるかたわら、執筆やセミナー講演も行う。著書に「モンスター社員が会社を壊す!?」「企業のメンタルヘルス対策と労務管理」(いずれも日本法令)、「職場のいじめとパワハラ防止のヒント」(経営書院)、「社員を大事にする会社のメンタルヘルス」(共著、大成出版社)、「日本一わかりやすい労働基準法と雇用トラブル解決!」(共著、明日香出版社)等がある。

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