内定辞退の理由と現状から内定者フォローの重要性を考える
ニッセイ基礎研究所 総合政策研究部 研究員 河岸 秀叔氏
1――高い水準にある内定辞退率
就職白書2024によると、新卒採用を実施する62.5%の企業が採用予定数を満たすことができなかった。また、こうした企業の約6割は選考応募者が予定より少なく、約半数は内定辞退 1 が予定より多かった。企業は、採用母集団の形成や内定辞退数の抑制に課題を感じていることが分かる。特に後者について、学生の内定辞退率は依然、高い水準にある(図表1)。2014年時点では50.0%を下回る水準であったが、2024年は、約63.6%の学生が卒業時点で1社以上の内定辞退を経験している。
1 本稿では、内々定辞退も合わせて「内定辞退」と表記する。また、内定者フォローは内々定者に対するフォローも含意する
2――なぜ内定辞退率は高い水準にあり、どのような企業が辞退されているのか
1|企業の採用意欲向上が直接的な背景
日本の新卒一括採用では、企業の採用数は経済状況や人材の過不足によって変動する(図表2、3)。バブル崩壊以降、数年間の売り手市場(2006年頃~リーマンショック前)を挟んで採用数は長期間低迷してきた。しかし2015年頃から、少子化・人手不足や景況感の回復に伴い、新卒採用数は拡大している。コロナ禍で一時落ち着いたものの、ほぼ10年近く強い採用意欲を維持している。
一方、民間企業就職希望者数はほぼ20年横ばいである(図表3)。大学進学率の上昇により、大学生数は少子化の影響が小さい。一定の供給数に対する需要の急増が近年の売り手市場を形成している。
学生優位の状況下では、1人の学生に複数企業が内定を出すことも珍しくない。2024年卒の平均内定取得社数は2.4社であり、37.6%の学生が3社以上の内定を受けている 2。こうした、限られた学生を多くの企業で奪い合う構造が、高い水準の内定辞退率に繋がっている。
2 株式会社リクルート 就職みらい研究所 . 就職プロセス調査(2024年卒)「2023年10月1日時点 内定状況」. 2023-10-10
2|学生はどのような企業を選び、また辞退するのか
リクルートの調査によれば、入社を決めた企業の内(々)定を承諾した理由として、「やりたい仕事ができる」(15.1%)、「社員や社風が魅力的」(9.2%)、「希望の勤務地に就ける可能性が高い」(9.2%)が上位を占めた 3。また、業績の安定性や、福利厚生、知名度などを挙げる学生の割合も高い。
内定辞退理由についても、「やりたい仕事ではなかった」ことや、給与や福利厚生、勤務地への不安が上位を占める(図表4)。低い入社意欲や、希望業務の合わない学生の辞退防止は現実的に難しい部分もあろう。とはいえ、多様な働き方の推進や賃上げなど、企業の魅力を高める働き方改革が必要であることがうかがえる。
また、それだけでなく、入社後の姿を広くイメージさせることも重要だと考えられる。前述の内(々)定承諾理由では、「育成に力を入れている」(4.3%)、「入社後のキャリアを具体的にイメージできる」(3.9%)と回答する学生は2020年卒以降増加している。また、入社後のワークライフバランスやスキル面、業績への不安が、内定辞退に繋がっていることも分かる(図表4)。
近年では、不安から内定式の1か月前まで複数の内々定を保持する 4、1社に絞った後も就活を再開するケースも指摘される 5。内定辞退数を減らすには、内々定から入社までの期間に学生とコミュニケーションを取り、不安の軽減や入社後の姿をイメージしてもらうための取り組みが重要になる。
3 リクルートマネジメントソリューションズ . 「2024年新卒採用大学生の就職活動に関する調査」の結果を発表. 2023-11-2
4 学情. 2024年卒学生の就職意識調査(内定承諾)2023年9月版. 2023-09-28
5 村田幸子. 急に思いが冷める「蛙化現象」は就職でも 恋愛と同様、自分と相手への十分な理解を. 産経新聞社. 2023-12-18
3――学生のニーズに応え、入社意欲を高めるためには
1|内定者フォローを通じた、将来イメージの具体化
内定者フォローとは、「企業が内定を得た大学生と適切なコミュニケーションをとること」を指す 6。その主目的は、内定辞退数を可能な限り抑制することにある。多くの企業で実施されている施策として、内定式や人事からの定期連絡、内定者懇親会などが挙げられる(図表5)。
特に、他の内定者や社員との交流や、企業の見学会などの施策は満足度が高い。将来の仲間や先輩との交流や、仕事環境や内容を直接見聞きすることで、入社後の姿が具体化できる点などが学生の満足度に繋がっていると考えられる。
実際、学生は社風や職場の雰囲気、仕事内容やその進め方などに対して高い関心を持っている 7。どのような人と、どのような仕事を、どのように行うのかというイメージを膨らませる施策は、学生のニーズと合致している。
6 石田秀朗. 大卒採用における内定者フォローに関する研究. 奈良学園大学学術リポジトリ. 2009
7 リクルートマネジメントソリューションズ . 2024年新卒採用大学生の就職活動に関する調査」の結果を発表. 2023-11-20
2|部門横断的な協力体制が必要
具体的なイメージを学生に伝えるためには、採用担当者だけではなく、様々な業務に取り組んでいる現場の社員による部門横断的な協力が必要だ。しかし、採用担当者以外の社員が内定者フォローに協力している企業は41.1%であり、インターンシップや仕事体験(65.4%)や、面接官・実質的な選考(54.8%)と比べると劣る 8。
また、沖本(2023)の指摘 9 のように、多くの企業において新卒採用を担当する部署は、慢性的なマンパワー不足にある。例えば、企業の55.4%は新卒採用担当部署を1~2人体制で回しており、77.5%が新卒採用を担当する部署の「全員が他業務と兼任」している。内定者フォローの実施・充実化にあたっては、多くの企業で全社的な協力体制の構築が必要になるだろう。
ただし、全社的な協力にあたっては、内定者フォローが行き過ぎ、オワハラ(就職終われハラスメント)にならないよう注意が必要だ。オワハラは職業選択の自由を侵害する行為であり、発覚すれば企業イメージや社会的信用が棄損される。特に、採用を専業としないリクルーターが学生と接するにあたっては、どのような言動がオワハラにあたるか、事前に研修を実施することが好ましいだろう。
8 株式会社マイナビ. 2024年卒企業新卒内定状況調査. 2023-11-06
9 沖本麻佑. 売り手市場×人手不足で逼迫する採用担当者たち―新卒採用担当者のマンパワー不足を考える. 株式会社マイナビ.2023-12-19
4――おわりに
売り手市場では、複数内定を得る学生も多く、これに伴い内定辞退率は高い水準にある。こうした状況下で採用を充足させるには、働き方改革などを通じて企業の魅力を高めるとともに、学生の入社後イメージを膨らませ、入社までの不安を取り除くための内定者フォローが重要になる。
新卒採用は企業にとって投資であり、経営上重要な取り組みである。今後の少子化で新卒学生数は減少する可能性が高い。だからこそ、全社一体になって、選ばれる企業になるための施策を、できることから始めて行くことが必要だ。
(参考文献) リクルート就職みらい研究所. 就職白書2024 . 2024-04-24
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
ニッセイ基礎研究所は、年金・介護等の社会保障、ヘルスケア、ジェロントロジー、国内外の経済・金融問題等を、中立公正な立場で基礎的かつ問題解決型の調査・研究を実施しているシンクタンクです。現在をとりまく問題を解明し、未来のあるべき姿を探求しています。
https://www.nli-research.co.jp/?site=nli
人事の専門メディアやシンクタンクが発表した調査・研究の中から、いま人事として知っておきたい情報をピックアップしました。