ワーキングマザーの活躍支援
~「両立」だけではなく、「活躍」もできる社会に向けて~
第一生命経済研究所 ライフデザイン研究部 研究員 福澤 涼子氏
1.育児をしながら正社員として働く女性の増加
働く女性にとって「キャリアか、育児か」の二者択一から、「キャリアも、育児も」と両立を目指す時代になりつつある。国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、2000年代前半までは、女性正社員の約半数が第一子出産をきっかけに無職に転じていた。だが、出産後も正社員としてキャリアを維持する女性は年々増加し、2015年以降では74.8%、すなわち4人に3人にも相当する。
正社員として働き続けることには、雇用の安定、相対的に高い賃金水準、福利厚生の充実などに加えて、スキルアップや昇進などキャリア形成の面でもメリットがある。「デュアルキャリア・カップル」などの言葉も広がりを見せるように、夫婦ともにキャリアを築いていこうという動きが加速している。
2.勤務時間に関する「両立支援」の現状
出産後も復帰する女性が増えた背景の1つとして、育児休業や短時間勤務といった「両立支援」が整備されてきたことがある。厚生労働省の「雇用均等基本調査」によると、「育児短時間勤務制度(子どもが3歳までは雇用形態を変えずに1日の所定労働時間を6時間などに短縮することができる制度)」の導入事業所は、2021年時点で約7割にのぼる。そして、厚生労働省の別の調査によると、2021年時点で3歳未満の子どもを育てる女性正社員の6割以上が1日8時間未満で勤務している(図表2)。
さらに、育児短時間勤務制度は、法律上、事業所に義務付けられているのは、子どもが3歳未満の養育者に対してであるが、事業所の裁量で3歳以降も認める割合が増加傾向だ(注1)。先の「雇用均等基本調査」によると、本制度の導入事業所のうち、およそ5割は、子どもが3歳以降であってもその制度の利用を認めており、本人の希望次第で時短勤務を延長することができる。このように、勤務時間に関する育児中の女性への「両立支援」への理解や制度整備は進みつつあるといえる。
3.「活躍支援」に関する課題
他方、育児中の女性正社員に対する企業の「活躍支援」については、いまだ課題も多い。そもそも、育休復帰後の女性社員に対しては、仕事量や難易度などについて一律に過度な配慮をするのではなく、継続就業による長期的なキャリア形成を見据えた支援を行っていくことが望ましい。
だが、小さい子どもを育てる女性については、先述したように週40時間未満で働く人も多く残業は難しい傾向にある。加えて、子どもの体調不良などで、突発的に休まざるを得ないなどの状況も起こりやすい。会社側としてはそうした女性への配慮や活用の難しさから、残業や緊急対応が発生しにくく、突発的に休んでも支障が少ない業務を任せがちとなる。その結果として、難易度や責任の度合いが低く、キャリア展望が持ちにくい業務だけを任される、いわゆる「マミートラック」に陥り、就業意欲を減退させる女性が増えている。21世紀職業財団の調査によると、2021年時点で子どものいる女性正社員の約半数がマミートラックに該当している(図表3)。さらに、短時間勤務制度を利用している人の5割以上がマミートラックの状態にあり、育児中の女性正社員のキャリア形成における課題となっていることがうかがえる。
4.多様な人材の活用が求められる時代の到来
1992年に育児休業法が施行され、2010年に短時間勤務制度が義務化された。近年、出産を機に離職する女性は大きく減少し、育児中でも正社員としてキャリアを維持する動きは一般化しつつある。そのことからも、「両立支援」の次なるステージとして、「活躍支援」が社会的にもより注目されることを期待したい。
今後、時短勤務をはじめ多様な働き方を求める動きはさらに広がっていくだろう。育児中の女性はもとより、家族の介護をする人、別の企業で副業する人、学校に通う人など、生き方・働き方が多様化し、自社とは別の役割を社外に持つ社員も増えていく。正社員で継続就業するだけでなく、パートやフリーランスといった働き方を希望する人もいるだろう。そうした多様な就労ニーズに応え、一人ひとりがエンゲージメント高く働けるような環境を整備することが、今後も多くの職場における共通の課題になるはずだ。
そして、こうした多様性の受容・活用こそが、新しい価値を創出することにつながるという見方もある。一人ひとりが能力を高め、エンゲージメント高く働くことができる社会を実現するため、多様な人々が持つ能力を最大限発揮できるような制度整備やマネジメントの進化が求められているといえるだろう。その意味で、フルタイム勤務・時短勤務にかかわらず、能力開発やキャリア形成の機会をすべからく提供していくことが大切だ。未来のための教育機会は、短時間勤務者にも与えられるべきものである。
- 短時間勤務制度がある事業所のうち、短時間勤務制度の最長利用期間が「小学校就学の始期に達するまで」以上の割合は2011年の33.0%から、2021年は41.9%まで増加。2021年時点で、子どもが3歳以降の制度利用を認める事業所は46.4%とおよそ半数となる。/厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査 事業所調査」2021年、および「平成23年度雇用均等基本調査事業所調査」2011年より
【参考文献】
- 国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」2022年
- 厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査 事業所調査」2021年/「平成23年度雇用均等基本調査事業所調査」2011年
- 厚生労働省「令和2年度 仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業」2021年
- 21世紀職業財団「~ともにキャリアを形成するために~子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」2022年
- 厚生労働省「令和4年版労働経済白書」2022年
- 厚生労働省「正社員転換・待遇改善実現プラン」2019年
- 厚生労働省「平成29年度版労働経済白書」2017年
- 厚生労働省「国民生活国民生活基礎調査」2019年
- 冬木春子,佐野千夏「母親の就労が幼児の生活習慣に及ぼす影響」2019年,日本家政学会誌
- 佐藤博樹,武石恵美子「ワーク・ライフ・バランス支援の課題 人材多様化時代における企業の対応」2014年
- 佐藤博樹, 武石恵美子, 坂爪洋美「多様な人材のマネジメント (シリーズダイバーシティ経営)」2022年
- 脇坂明「女性労働に関する基礎的研究」2018年
- 武石恵美子「短時間勤務制度の現状と課題」2013年,法政大学学術機関リポジトリ
- 的場康子「育児のための短時間勤務制度の現状と課題」2011年,第一生命経済研究所ライフデザインレポート
- 持田聖子, 岡田昌毅「総合職ワーキングマザーの仕事と家庭の両立方略と働き方の変容プロセス」2021年, 産業・組織心理学研究
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