国内転勤に関する取り扱いの最新実態
労務行政研究所
民間調査機関の労務行政研究所が2021年1~3月にかけて実施した「国内転勤に関する実態調査」の結果がまとまった。本調査は2015年以降6年ぶりに実施しており、転勤を「転居を伴う人事異動」と定義し、国内転勤に限定して、直近の見直し状況や転勤者の増減傾向、転勤者を選定する際の取り扱い、費用補助の実態等を調べている。
本稿では、調査結果の中から「直近5年間(2016年以降)の動向と今後の方向性」について紹介する。
◎調査名:「国内転勤に関する実態調査」
- 調査対象:全国証券市場の上場企業(新興市場の上場企業も含む)3630社と、上場企業に匹敵する非上場企業(資本金5億円以上かつ従業員500人以上。一部「資本金5億円以上または従業員500人以上」を含む)1761社の合計5391社。
- 調査時期:2021年1月7日~3月1日
- 調査方法:(1)調査票の郵送による記入、(2)PDF形式の調査票への記入、(3)WEBアンケートフォームへの記入
- 集計対象:前記調査対象のうち、回答のあった256社(1社1人)。集計対象会社の業種別、規模別の内訳は、[参考表]のとおり。なお、設問により回答していない企業があるため、各項目の集計社数は異なる。
- 利用上の注意:[図表]の割合は、小数第2位を四捨五入し小数第1位まで表示しているため、合計が100.0にならない場合がある。また、本文中で割合を引用する際には、実数に戻り再度割合を算出し直しているため、[図表]中の数値の足し上げと本文中の数値とは一致しないことがある。
【用語の定義】本調査では、「転勤」を「転居を伴う人事異動」とし、「国内転勤」に限定して各社の取り扱いを尋ねた。
直近5年間(2016年以降)の動向と今後の方向性
転勤制度の見直し状況[図表1~2]
直近5年間で制度を「見直した」企業は31.3%。
見直しの内容は「手当関係」が約6割
直近5年間(2016年以降)で転勤制度を「見直した」企業は31.3%であった[図表1]。規模別に見ると、1000人以上は36.4%と若干高く、300人未満の23.8%を12.6ポイント上回っている。
具体的な見直しの内容(複数回答)は、支度料(転勤手当・赴任手当)や単身赴任手当(別居手当)などの「手当関係」が62.8%で最多[図表2]。「転勤者の住宅関係」も51.3%と過半数に達した。そのほか、「荷造運送費や交通費などの経費関係」が26.9%、「転勤命令に関する手続き関係」が10.3%となっている。産業別に見ると、「手当関係」の見直しは製造業の50.0%に対し、非製造業で71.7%と20ポイント以上高い。
国内転勤者の増減傾向[図表3~4]
家族帯同赴任者、単身赴任者とも「横ばい」が6割台で最多。
家族帯同赴任者は「減少している」が26.4%
直近5年間における国内転勤者の増減傾向を尋ねたところ、「横ばい」が家族帯同赴任者63.2%、単身赴任者64.9%でいずれも最も多い結果となった[図表3]。
単身赴任者では「増加している」が18.5%、「減少している」が16.5%といずれも10%台後半であるのに対し、家族帯同赴任者では、「減少している」が26.4%と約4分の1に上る一方、「増加している」が8.4%にとどまる。家族帯同赴任者について規模別に見ると、300人未満では「増加している」が1.8%(1社)にとどまるのに対して、「減少している」が30.9%と大きく上回っている。
家族帯同赴任者と単身赴任者の増減傾向の関係をクロス集計して見ると[図表4]、“両者とも横ばい” が55.0%で最も多く、2番目に多い “両者とも減少” の13.9%を大幅に上回っている。
転勤発令の今後の方向性[図表5]
「特に変更する予定はない」が84.2%で最多
新型コロナウイルス感染拡大により、転勤の在り方を再考する企業もあるだろう。そこで、転勤発令の増減に関する今後の方向性を聞いたところ、「特に変更する予定はない」84.2%が最多となり、「意図的に減らしていく」11.7%、「意図的に増やしていく」3.6%と続く[図表5]。
なお、近年転勤を廃止する企業の取り組みが注目を集めているが、「転勤はすべて廃止する」と回答した企業は0.4%(回答247社中1社)にとどまっており、本調査の回答企業においては、今後も転勤制度を維持する傾向にあるとみられる。
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