法的な要件と労使双方の要望を満たす
定年後再雇用の労働条件と賃金設計
社会保険労務士
川嶋 英明
5 労働者との交渉の進め方
基本的には3-<1>③で見た通りです。よって、まずは会社としての方針をしっかり定めることが重要です。会社としての方針がしっかり決まっていれば、労働者との交渉の際もそれを土台とすることができます。労働条件の決定の際に労働者側の事情を加味するにしても、土台が定まっているほうが一貫性のある対応ができます。そのためにも、就業規則等による定年後再雇用の制度化を進め、「うちの会社の再雇用制度はこうである」というものを確立してしまったほうがよいでしょう。
では、会社の方針に反して「福祉的雇用」や「戦力としての雇用」を望む高齢労働者がいた場合はどうでしょうか。大前提として、会社には「希望者全員を65歳まで継続雇用する義務」はあっても「労働者の希望通りに働かせる義務」まではありません。よって、正当な理由もなく「もう十分に働いたのでセミリタイアさせてほしい」「定年後は現場ではなく事務がいい」というような高齢労働者の要求を飲む必要はありません。とはいえ、高齢労働者の健康や家庭の事情への配慮は当然必要であり、そうした事情を理由に継続雇用を打ち切ることはできません。また、嫌がらせのような人事異動も許されません。
このように、再雇用時の労働条件の交渉において会社側が主導権を握れるよう準備しておくことは難しいことではありません。一方で、人手不足に苦しんでいて高齢労働者にできる限り辞めてほしくないという会社の場合、それなりの譲歩や妥協は覚悟する必要があるでしょう。
【執筆者略歴】
●川嶋 英明(かわしま ひであき)
社会保険労務士。社会保険労務士川嶋事務所所長。就業規則の作成変更・労務相談を中心に社労士業務を行う傍ら、1日3、000PVを超えるブログ「名古屋のブロガー社労士日記」で積極的な情報発信を行っている。初の著書となる「『働き方改革法』の実務(日本法令)」が2018年7月に発売。
人事の専門メディアやシンクタンクが発表した調査・研究の中から、いま人事として知っておきたい情報をピックアップしました。