相談事例にみる!
企業の“合理的配慮”はどこまで必要か?
弁護士 岡 正俊(杜若経営法律事務所)
2 障害者の雇用をめぐる相談事例と対応のポイント
雇用義務の対象に精神障害者が含まれたことや法定雇用率が引き上げられ、今後もさらに引上げが予定されていること等から、特に大企業を中心に障害者雇用が進んできているといえます。その一方で、最近障害者雇用をめぐる相談事例も多くなってきており、各企業の人事担当者の方も対応に苦労されている様子がうかがえます。
そこで以下では、実際にご相談があった事例を紹介しつつ、法改正も踏まえた対応のポイントについて述べてみたいと思います。
【1】合理的配慮の提供義務
前述のとおり、平成25年の障害者雇用促進法改正により、会社は障害者に対して、障害者でない労働者との均等な待遇の確保または障害者である労働者の能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善する等のため、必要な措置を講じなければならないとの合理的な配慮の提供義務が設けられました。
合理的配慮については、その適切かつ有効な実施を図るため、「雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会若しくは待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき措置に関する指針」(以下、「合理的配慮指針」という)が定められています。会社の障害者に対する労務管理においては、この合理的配慮指針を参考にする必要があります。
本稿では、合理的配慮指針の内容について詳しく見ることはしませんが、厚生労働省のホームページ等で確認していただければと思います。合理的配慮指針について筆者が感じたことをひとこと申し上げるとすると、特に中小企業においては、器具の設置等費用をかけて対応を行うというよりも、相談窓口を決めて適切に相談に応じる体制を整備する等、ちょっとした配慮を心がけるべきだということです。
【2】障害者対応の基本的な考え
ア:社内教育・意識改善
個々のケースに応じた対応については後ほど触れますが、その前に障害者である労働者に対する基本的な対応の考え方について述べておきたいと思います。
障害者である労働者への基本的な対応としては、会社として、法定雇用率を達成、維持するため仕方なく障害者を雇用しているといった考えをなくすことだと思います。そのような考えを例えば会社のトップや人事担当者が持ったとすると、それは社内にも無意識のうちに広がってしまい、そのような雰囲気になってしまうものです。
そこで、障害者雇用については、社内の意識を変えることが人事担当者としてまず取り組まなければならないステップといえます。障害者雇用においては、何気ないひとこと等で人間関係、職場関係が悪化し、労務トラブルに発展してしまうことが少なくありません。一度トラブルになった場合は、当事者間の話合いではなかなか解決するのが難しく、訴訟や第三者が入って解決するしかなくなってしまいます。それはそれで一つの解決方法かもしれませんが、ネット等に「障害者を差別する会社」「障害者いじめの会社」といった書き込みをされてしまうと、会社が受ける打撃も無視できないものとなります。
法律で決められたことをどのように会社の中に取り入れて実践していくかは各会社、各人事担当者の考え次第だと思います。できればトラブルなく実践していきたいと思うのが通常でしょう。法律で決められたから仕方なく行うのではなく、可能な限り障害者の目線に立って実践していくことが、トラブル防止につながるのです。
イ:中小企業の場合
中小企業の中でも社会貢献を考えたり、会社が社会的な存在であるという意識をもった社長さんも多いと思います。中小企業のほうが社員の数が少ない分、むしろ障害者雇用に関する社内教育はやりやすい面もあると思います。他方、とてもうちの会社では障害者を雇用できる状況ではないと考える社長さんもいるでしょう。実際に企業の規模が小さくなるにつれて、障害者雇用率は低くなる傾向にあるといえます。法定雇用率を達成できない場合、指導を受けたり、場合によっては公表されるリスクがありますが、一方で、すでに雇用している労働者が障害者になる可能性もないわけではありません。障害により労務提供に影響が生じた場合、会社は障害がある前提での労務提供を期待して雇用したわけではありませんので、労働者側の債務不履行に当たるようにも思えますが、会社が合理的配慮義務を負っていることもあり、簡単には解雇できないことになるのではないかと思います。会社として合理的配慮義務を負っている、その配慮をすれば働き続けることができる、という場合には解雇が無効になる可能性があります(詳しくは後述します)。
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