仕事の効率をアップさせる「昼寝」の活用と規定作成&運用
社会保険労務士
奥村 禮司
2. 就業時間中の昼寝を社内制度化する場合に検討すべき内容
(1)社内制度化する際に検討すべき事項
欧州、特に南欧では13時から16時までは「シエスタ」という昼寝時間であることが有名です。何ともうらやましい限りですが、スペインでは、生産性向上のため、「シエスタ」の廃止を検討しているとか。さすがに、3時間は長すぎたようです。
しかし、米国では短時間睡眠の研究が進んでいます。米コーネル大学の社会心理学者、ジェームス・マースは、15~20分の仮眠を取る睡眠法「パワーナップ」を提唱しており、昼寝による作業能率の改善を図る組織がかなり広がってきています。
日本で仕事中に「昼寝」と言うと、「うとうとしてサボってんじゃない!」「気が弛んでいる!」と怒鳴られそうですが、短時間睡眠を認める企業も少し ずつ増えています。大手企業では、社内に昼寝専用の仮眠室を設けている企業もありますし、昼寝専用のベッドやカプセルを置き、時間単位で有料で貸し出して いる企業もあります。また、福岡の学校では、「頭をすっきりさせてから、勉強にのぞむ」として、授業時間の合間に昼寝時間を入れているところもあります。 考えてみれば、15~20分の喫煙時間ならば許されて15~20分の昼寝は許されないというのは、おかしな話です。事故等の予防を考えれば、喫煙の時間よ りもはるかに有意義な時間とも考えられます。
では、実際に昼寝を社内制度化するには、どうしたらよいでしょうか。
まずは、昼寝の効用をいかに理解してもらうかが大切です。特に経営層や年配の社員は、なかなか理解できないことであると思いますので、科学的な根 拠、数字を入れたデータ等により理解してもらい、実験的なところから始めてみましょう。昼寝を社内制度化する際にクリアすべき検討課題は、以下の通りで す。
- 昼寝の取得の仕方⇒自由に取得させるのか、上司の承認を得てから取得させるのか
- 昼寝の場所⇒自分の机に伏せて寝るのか、応接室等別室で寝るのか、仮眠室を作るのか
- 15~20分をどう守らせるのか⇒目覚まし時計を置くのか、個人が保有するアラーム機能付き時計等で自らを律するのか
- 昼寝の時間は労働時間とするのか、休憩時間とするのか
- 昼寝を取らない・取れない者との相違
筆者は、自分の机の上に枕等を置かせて寝かせるのが良いだろうと考えます。急な眠 りのときに上司の承認を取るのは辛いでしょうし、承認を求めている間に眠る機会を逸してしまう可能性もあります。自分の机で寝ていれば、上司や周囲は「昼 寝」をしていることがわかりますし、15~20分経っても起きないようであれば、起こすことも可能です。
(2)労働時間の管理制度として「休憩時間の自己申告制」を取り入れる
また、昼寝の時間は、明らかに労働時間ではありませんので、その時間分は控除すべきでしょう。そうでなければ、昼寝を取らない人、取れなかった人と の整合性が取れません。しかし、昼寝時間を計る人をわざわざ社内に置くわけにはいきません。そこで、労働時間の管理制度として「休憩時間の自己申告制」を 取り入れてみてはどうでしょうか。
「休憩時間の自己申告制」では、就業時間内に所定の休憩時間のほかにどれだけ休憩時間(例えば、昼寝の時間、もしくは喫煙時間やコーヒーなどの飲食 に要した時間、または仕事以外のことをした時間)を取ったのかを自己申告させ、その時間分は時間外割増賃金の額を計算する際に時間外労働時間から差し引い て支払うというものです。この制度によれば、いままで所定労働時間を超えた分がすべて時間外労働時間としてカウントされていたところ、所定労働時間プラス 自己申告分の休憩時間を超えた時間のみを時間外労働時間としてカウントすることが可能となります。
このとき、所定労働時間労働しても所定労働時間を超えて労働しても、自己申告分の休憩時間に相当する時間外労働時間分は、賃金は変わらないようにす ることがポイントです。こうすれば多くの不平は抑えられます。あくまでも、効率良い仕事をしてもらうために導入する制度であるからです。
少し話はそれますが、会社によっては、「本人が申告する休憩時間が本当かどうかわからない」と言われる会社もあるかもしれません。それは仕組みづく りと、社内文化の問題です。「ズルをしない」という、人間として当たり前の行為を、当たり前にできる文化を持つことです。現に導入している企業はいくつも あります。仕組みとしては簡単です。コミュニケーションの取れている会社とすればいいだけのことです。コミュニケーションが取れている会社に社内制度は、 不正がありません。なぜでしょうか? コミュニケーションがよく取れていると、インフォーマルなネットワークが構築されます。インフォーマルなネットワー クの存在により、お互いをよく知っている状態が生まれます。すると、「ズル」をした場合には会社に居づらくなり、必然的に排除されることとなるため、自然 と「ズルをしない」という牽制機能が生まれるのです。
人事の専門メディアやシンクタンクが発表した調査・研究の中から、いま人事として知っておきたい情報をピックアップしました。