【実効性の乏しい対策では意味がない】
『SNS問題』に関する実務対策と規定・研修の見直し
弁護士
高仲幸雄(中山・男澤法律事務所)
1. 企業が抱えるSNS利用に関する問題の背景
(1)インターネットの特徴(利便性・拡散性・検索可能性)
スマートフォンやタブレット端末の普及により、自宅や会社にあるパソコンを利用しなくても、簡単・容易にインターネットを利用して情報の発信・受信ができるようになりました。
そして、TwitterやFacebook、ブログといったソーシャルネットワーキングサービス(以下、「SNS」という)の利用者も急激に増加したことで、従業員が勤務先や顧客に関する不適切な内容の書込みや投稿をして問題になる事例が増えました。
確かに、SNSは友人・知人との連絡や情報交換のための有益なツールではあります(利便性)。しかし、友人間や一定の仲間内での気軽な情報(書込み・写真など)交換のつもりで行った投稿でも、企業情報や顧客情報が含まれていると、「友人の友人は赤の他人」ということもあり、その中に悪意を持った人がいれば、瞬く間に投稿内容がインターネット掲示板等に転記・保存されてしまい(拡散性)、ネット上はおろか、マスコミにも企業の不祥事として取り上げられかねないリスクを孕んでいます。これは有名企業や希少性のある業種であればある程、話題性が増し、被害も大きくなります。
書込みをした本人は匿名で書き込んだつもりでも、他の書込み内容から個人や所属を特定することは比較的容易であり、発信したパソコンや携帯電話を調査することで投稿者を特定することも可能です(検索可能性)。不用意な書込みで従業員個人の氏名や素性が特定・公開されてしまえば、不適切投稿をした従業員自身も多大な不利益を被ることにもなります。
(2)実効性の乏しい規則整備や勉強会
不適切とされる投稿内容としては、(1)企業への敵対意識や遵法意識から企業情報を暴露する「内部告発型」もありますが、SNSへの不適切投稿で話題となるものの多くは、(2)顧客や企業情報を友人とおしゃべりするような意識で書き込んでしまう「おしゃべり・噂話型」、(3)企業内での身内ネタや馬鹿な行為を他人に披露・自慢してみて、その反響の多さが快感となり、それがエスカレートしていく「目立ちたがり・悪ふざけ型」であり、この(2)(3)は「悪気のなさ・不注意」が特徴と言えます。
このようなタイプの投稿に対しては、従業員に会社への忠誠心や不適切投稿によって会社が被る不利益を説明しても、あまり効果がありません。例えば、学生アルバイトに対して、従業員としての自覚や忠誠心に訴えたり、問題行為を起こした場合の懲戒解雇処分を説明したりしても、どれだけの威嚇・抑止効果があるかを考えればわかるでしょう。
また、会社や店舗に出入りし、会社や顧客に関する情報に触れるのは、自社の従業員に限らず、派遣社員や関連会社の従業員も含まれます。ですから、就業規則の規定や研修の対象を社員のみとするのは、対策として不十分です。
(3)近時の対応
近時は、SNSの利用に関する規程やガイドラインを策定し、新人社員教育にも取り入れている企業があります。公務員でも、復興庁職員がTwitter上で不適切発発言をした事案が批判を招き、復興庁は【1】「復興庁職員の情報発信に関する規程」を定めました。また、総務省では2013年6月に【2】「国家公務員のソーシャルメディアの私的利用に当たっての留意点」を取りまとめ、各府省庁等に対して、これを参考に職員への周知徹底を行うほか、必要に応じて内規の制定、研修の実施等を行うように求めています。
下記は、「国家公務員のソーシャルメディアの私的利用に当たっての留意点」で指摘されているソーシャルメディア(ブログ、SNS、動画共有サイトなど利用者が情報を発信し、形成していくメディア)の特性をピックアップしたものです。
SNSへの不適切投稿への対応については、まとまった資料が少ないので、上記【1】【2】には、必ず目を通してください。
◆ソーシャルメディアの特性
- 手軽さ・即時性から、熟考することなく情報発信してしまう
- 一旦発信すると、急速に拡散し、第三者の引用等で半永久的に拡散し続ける危険がある
- 恣意的な切取りによる意図しない形式で伝播する危険がある
- 匿名発信でも、過去の発信内容等から発信者や所属組織の特定がなされる危険がある
人事の専門メディアやシンクタンクが発表した調査・研究の中から、いま人事として知っておきたい情報をピックアップしました。