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タナケン教授の「プロティアン・キャリア」ゼミ【第34回】
社員の「転職」を気にする前に、
人事が今日からすべきこと

法政大学 キャリアデザイン学部 教授

タナケン教授の「プロティアン・キャリア」ゼミ

令和という新時代。かつてないほどに変化が求められる時代に、私たちはどこに向かって、いかに歩んでいけばいいのでしょうか。これからの<私>のキャリア形成と、人事という仕事で関わる<同僚たち>へのキャリア開発支援。このゼミでは、プロティアン・キャリア論をベースに、人生100年時代の「生き方と働き方」をインタラクティブなダイアローグを通じて、戦略的にデザインしていきます。

タナケン教授があなたの悩みに答えます!

たくさんのご質問ありがとうございます! 今回は次の質問を取り上げます。

社員が自律的にキャリア開発に取り組み、組織に向き合ってくれたらよいのですが、キャリア開発した結果、もっと条件の良い企業へ転職してしまうだけではないのかと心配になります。伝統的企業と社員がグロースパートナーであるために、企業はどのようにあればよいのでしょうか。

キャリア開発に取り組んだ結果、もっと条件の良い企業へと転職してしまうのではないか……。皆さまはどのように考えますか?

私は年間200社以上の企業で研修や講演を行っています。これまでに10万人以上の社員の方々に直接キャリア開発研修を実施してきました。人事の方々とのディスカッションも数百を超えます。まず、私の経験的な知見からを述べたいと思います。

キャリア開発を社内で定期的に実施していくと、離職は減る。これが私の結論です。

本当にそうなのか、根拠はどこにあるのか、と思う方もいらっしゃるでしょう。そこで、離職の理由からピックアップしていくことにします。厚生労働省がまとめた「令和2年転職者実態調査の概況」の「自己都合による転職の理由」を見てみましょう。

「令和2年転職者実態調査の概況」の「自己都合による転職の理由」

出典:令和2年転職者実態調査の概況

 「転職の理由」として割合が高い順に見ていくと、興味深いことが浮かび上がってきます。
(*注意点:三つまでの複数回答のため、割合の合計≠100%)

転職理由

出典:令和2年転職者実態調査の概況

人事として認識しておくべきことは、「労働条件(1位)」「賃金条件(3位)」「能力・実績評価(8位)」などの「条件・評価」を理由とした「転職」です。「条件・評価」面については、経営の中長期計画の中で、報酬体系や労働環境の改善、さらに人事評価制度の改定に、戦略的に取り組んでいかなければなりません。ただし、正直なところ、「条件・評価」の改善は、人事の働きかけで今日から即座に対応できるわけではありません。時間を要します。

その点からして、「満足のいく仕事内容ではなかった」「会社の不安を感じた」「人間関係がうまくいかなかった」という項目は、キャリア開発の得意な分野です。

現在、私が企業で実施している「プロティアン・キャリア開発」では、社員の「キャリアブレーキ」を見つけ出していきます。

経営戦略、事業戦略と連動する形で社員一人ひとりのキャリア戦略を策定していきます。「これまでに何をやってきたか」という過去のキャリアの棚卸しよりも、「これから何をやっていきたいか」という未来の設計に重点をおきます。

今必要なのは3つの戦略策定

年に1回の形式的な研修ではなく、社員が定期的にキャリアについて考えることのできるワークアウトを実践しながら、伴走していくのです。

ハイブリッド・ワークになり、以前よりも社員の声が聞こえにくくなっています。オンラインだから社員が何を考えているのかわからないと諦めるのではなく、社員の声や心境に寄り添っていくのも、人事の大切な仕事です。

人事パーソンとしての腕の見せどころでもあります。仕事の満足度は、仕事とキャリアの意味づけによって改善していきます。やらされ感を持ってこなす業務ではなく、自ら主体的に向き合うようにしていくのです。

キャリアブレーキの事例を見ると、上長や同僚と思うようにコミュニケーションがとれなかったり、クライアントとうまくいかなかったりするなど、職場やビジネスシーンでの人間関係に悩んでいる社員が少なくありません。

最大の問題は、人間関係に悩んでいるのを誰にも相談できない状態です。職場内に相談相手がいて、コミュニケーションについて解決策が共有できているのであれば、少なくとも、その社員は辞めません。信頼してくれる同志が近くにいると感じているからです。

誰にも相談できない雰囲気や風通しの悪い職場では、誰にも相談できずに、人間関係に悩み、その職場から転職しようという判断に至るのです。

社内にキャリア相談室などがあることも重要です。ただし、設置してあるだけでは意味がなく、社員が気楽に相談できるような社内での発信や日頃からの働きかけが欠かせません。

社員が「会社に不安を感じている」状態も、問題の本質は同じです。社内のコミュニケーションが円滑に行われていなかったり、経営層の考えていることが伝わってなかったりすると、社員は不安に感じるものなのです。

経営層や人事が定期的に言葉を届けて続けていますか? 社内報や動画でメッセージを全社員向けに届けるなど、それほどコストをかけずに、やれることはいくらでもあります。また、経営層が参画する経営会議を社員に公開するなどの施策も、「会社への不安」を取り除くために有効な方法です。

社員が現状の仕事に満足しているか。この点も重要です。プロティアン・キャリア開発では、やらされて働くのではなく、自ら主体的に仕事に取り組むように、キャリア・トランスフォーメーションしていきます。仕事の満足度とは、仕事への向き合い方、仕事への構えに大きく左右されるのです。

もちろん、社員は常に、他の職場を念頭においていると言っても過言ではないでしょう。「他に良い仕事はないか?(6位)」「いろんな会社で経験を積みたいから(7位)」。これらを理由に辞めていく社員もいます。

大切なことは、社員に選ばれる会社や組織を作っていくことです。そのためには、人事として、キャリア開発をして社員が辞めていくと誤解するのではなく、まずは、一人ひとりの社員のキャリアをグロースさせるため、今日からできることに一つひとつ取り組んでいきましょう。

  • 経営層に頼んで、社員向けにメッセージを発信する
  • 社内の取り組みを記事化する
  • キャリア開発研修で、社員の仕事への向き合い方を変えてみる
  • キャリア診断ツールで、社員の変化を経年で分析していく

やれることは、山ほどあります。これらのことに着実に取り組んでいる企業の離職率は、低い。その理由は明確です。

社員がその会社で働くことを選び、働くことを通じて自ら主体的にキャリア形成をしているからです。離職率の低下は、人事であるみなさんの日頃からの総合的なキャリア開発施策にかかっているのです。

それでは、また!


田中 研之輔さん(法政大学 教授)
田中 研之輔
法政大学キャリアデザイン学部教授/一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事/明光キャリアアカデミー学長

たなか・けんのすけ/博士:社会学。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。専門はキャリア論、組織論。UC. Berkeley元客員研究員、University of Melbourne元客員研究員、日本学術振興会特別研究員SPD 東京大学。社外取締役・社外顧問を31社歴任。個人投資家。著書27冊。『辞める研修辞めない研修–新人育成の組織エスノグラフィー』『先生は教えてくれない就活のトリセツ』『ルポ不法移民』『丼家の経営』『都市に刻む軌跡』『走らないトヨタ』、訳書に『ボディ&ソウル』『ストリートのコード』など。ソフトバンクアカデミア外部一期生。専門社会調査士。『プロティアン―70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本論』、『ビジトレ−今日から始めるミドルシニアのキャリア開発』、『プロティアン教育』『新しいキャリアの見つけ方』、最新刊『今すぐ転職を考えてない人のためのキャリア戦略』など。日経ビジネス、日経STYLEほかメディア多数連載。プログラム開発・新規事業開発を得意とする。

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