応募者の入社意欲や面接満足度をどう
高めればいいのか
テクノロジーで採用面接の
コミュニケーションを“見える化”した
村田製作所の取り組み
株式会社村田製作所 企画管理本部 人事グループ 人事部 部長
畑尾直哉さん
人事としてのプロ意識がある人ほど、分析してみる価値がある
実証実験によって可視化された事実は、社内でどのように活用していますか。
2019年の秋から、新たに体系立てた面接官向けの研修を開始しました。これまでも、新卒採用活動で面接官向けの研修を定期的に行っており、他の社内研修においても管理職クラスがアセスメントについて学ぶ機会などを設けていました。そうした一定の土壌はあったものの、「面接の力」に関しては先ほども申し上げた通り、面接官の感覚値や自己満足の世界での評価になってしまいがちで、人によって面接の力にばらつきが出てしまっていることは否めませんでした。
新たな研修では、どのようなプログラムを組んでいるのですか。
新しい研修では、「NAONA」で分析したデータを活用。面接経験が豊富な人には面接スタイルの改善策を考えること、これから面接官を担当する人には自身の面接スタイルを作ることのきっかけになるようなプログラムを目指しました。
非言語情報のデータからは「面接官ばかりが話していないか」「応募者の受け答えを踏まえた質問ができているか」といったチェックポイントを見いだすことができます。また当社の面接では、面接官が応募者の合否判定に必要な情報を聞き出すことはできていても、応募者の入社意欲を高める観点においては課題があることがわかりました。これは当社の面接官にある程度共通する傾向だったのです。
こうした情報も研修で共有しながら、1対1でやり取りをすることが多い面接の場で、選考中の辞退を減らすための接し方を身につけてもらいたいと考えています。そうすれば、応募してくれた人の面接満足度やマッチング精度の向上といった効果にもつながっていくはずです。
研修自体は概ね好評で「以前はこうした振り返りをする場がなかった」と、研修に意義を感じてくれる意見もありました。面接のコミュニケーションを向上し、相手の話を引き出していく力を高めていくためのきっかけになっていると思います。
人事部門には、傾聴などのコミュニケーション領域で一定のトレーニングを積んでいる方も多いと思いますが、それでも「NAONA」によるデータは有用なのでしょうか。
傾聴などのトレーニングを行っていても、それを実戦の場である面接や面談で発揮できるとは限りません。応募者や面談相手一人ひとり、違った相手に合わせてどんな引き出しを使うか。面接官本人は自分の引き出しを活用したつもりでも、相手に本当に伝わったかどうかはその場ではわかりません。そうした意味では、キャリアコンサルタントなどの資格を持ち、人事としてのプロ意識がある人ほど、非言語情報を振り返って自身の面接を分析してみる価値があると思います。
また、面接官トレーニングとは異なりますが、「NAONA×Interview」は社外のコーチングのプロフェッショナルにも活用されています。多くのコーチング実績を積んできた専門家にも試してもらい、「客観的なデータで自分の面談を振り返り、大変参考になった」という声が寄せられました。
今後は面接官トレーニングのロールプレーイングなどでも「NAONA」を活用できるのではないかと考えています。そもそも「自社の面接がうまくいっているか」を振り返るのは難しいことですが、その面接で起きていることを可視化し、面接スタイルを見直していくことは、売り手優位の採用市場で良い人材を採用していくために欠かせません。
「コミュニケーションが重要」なあらゆる場面で活用を検討
今回の実証実験や面接官研修などで得られた知見は、今後どのように生かしていこうとお考えですか。
社内では、面接だけでなく人事考課のフィードバックや教育・研修の場など、「コミュニケーションが重要となるあらゆる場面」で活用できるのではないかと考えています。例えば、ある事業部門では、すでに上司と部下の面談で活用しています。「部下の意見や考えを聞けていたつもり」の上司でも、非言語情報から分析したデータを見ると、実際には面談時間の3割しか傾聴していなかった事例もありました。このように今後は、日常のマネジメントスタイルそのものの改善にも力を発揮してくれると期待しています。
近年、当社にはさまざまな年代の社員が新たに加わり、組織の多様性が増しています。上司と部下の年齢が離れていることや、部下が上司より年上であることも当たり前になっています。さまざまな年代の社員がコミュニケーションを取って成果を出すには、一人ひとりが相手に合わせた関わり方を学んでいくことが必要になるでしょう。同じ人でも、会話する相手が20代と50代とでは、コミュニケーションのスタイルが大きく変わるという結果も出ています。そうした傾向を一人ひとりが自覚し、コミュニケーションの引き出しを増やしていくことで、組織全体の活性化にもつながっていくはずです。
今回の「HRアワード」受賞にあたっての反応や今後の展望などをお聞かせください。
社内の新規事業の取り組みに人事部門が連携できるケースは過去にはなかったので、新しい驚きを持って評価していただいていると感じています。また、当社の海外拠点や外部の会社からも「NAONA」を活用したいという問い合わせが増えています。
今回の取り組みに活用されているシステムやデバイスも、社内リソースや研究成果を基に生まれています。これは製品開発に携わる企業の人事部門としてもうれしいこと。これまで製品開発といえば、クライアントのニーズやシーズに併せて進めることが主流でしたが、最近では私たち人事の知見も共有しながら、共同で開発する機会を得られるようになりました。テクノロジーの可能性を追求する村田製作所として、今後も人事やマネジメント、組織開発の分野で新たなノウハウを発信していきたいですね。