<特別企画>人事オピニオンリーダー座談会
人事が変われば、会社も変わる。
人生100年時代に求められる「チェンジドライバー」としての人事とは
勝ちに行かない経営者が多いのは人事の責任でもある
人事は会社を変える「チェンジドライバー」
有賀:経営側の問題としてはもちろん、個人の意識の問題も大きいですよね。「9時から17時まで真面目に働いてなんぼ」という前提では変われません。
藤間:私は、上司の問題も大きいと思っています。武田薬品工業では、上司が外国人の部署や、海外のやり方を理解した日本人上司の部署の残業が激減しているんです。人事部でも、私が入社した頃は22時から「よし頑張るぞ」なんて声を掛け合っていましたが、今では19時を過ぎて会社に残っていたら恥ずかしい気がするような風土になりました。しかも、以前よりもはるかに大きな成果を出しています。
杉原:よく分かります。楽天の本社は25パーセント超が日本人ではないので、「効率的に働くのが当たり前。「そうじゃない人はダメ」という価値観が広がっています。
八木:「真面目すぎる上司」と「真面目すぎる部下」の組み合わせは最悪なのかもしれません。アメリカやドイツと比べて、日本は著しく生産性が低い。管理職の意識を変え、能力を高めることが、働き方改革の本質なのではないかと思います。
落合:労働生産性を分母と分子の関係で考えたとき、売り上げを伸ばすことができない経営者が多いことも問題でしょう。人をたくさん使って売り上げを出すのではなく、人を増やさなくても売り上げを伸ばすビジネスモデルを考えなければいけない時代です。
有賀:残念ながら日本には、人をたくさん使って規模の維持(負けない)をはかろうと考える企業が多いですね。一方、欧米の経営者は貪欲に成長と利益(勝ちに行く)にこだわる。ただ、例えばアメリカの経営者は、短期的な利益を重視して人や技術への長期的な投資に力を入れていない場合もあるので、単純に比較はできないのかもしれませんが。
落合:とはいえ、ここ10年から20年、日本企業の収益力が下がり続けているのは事実です。逆にアメリカの企業はどんどん収益力を高め、そこに中国企業も台頭している。特にリーマンショック以降は稼げる日本企業が少なくなりました。今でも上位にいるのは伝統的な製造業企業ですが、アメリカでは新しいプレイヤーもどんどん出てきています。
八木:勝ちに行かない経営者が多いのは、人事の責任も大きいでしょう。人事とは本来、経営を差別化していくために存在する部署なのに、経営の足を引っ張ってしまっているケースも往々にしてあると思います。社員が変わらなければいけないのは当然ですが、社員に寄り添っている人事、制度を作っている人事は変われているのか……。そう問いかけられているのだと思いますね。人事が変わらなければ、会社も変わらない。これからの時代、全ての人事が「人事はチェンジドライバーなのだ」という意識を強く持たなければいけません。
ありが・まこと /1981年、日本鋼管(現JFE)入社。製鉄所生産管理、米国事業、本社経営企画管理等に携わる。1997年、日本ゼネラル・モーターズ人事部マネージャー。部品部門であったデルファイの分社独立を遂行し、その日本法人を立ち上げる。その後、日本デルファイ取締役副社長兼デルファイ/アジア・パシフィック人事本部長。アジア域内での職務制度の統合を行う。2003年、ダイムラークライスラー傘下の三菱自動車にて常務執行役員人事本部長。グローバル人事制度の構築および次世代リーダー育成プログラムを手がける。2005年、ユニクロ執行役員(生産およびデザイン担当)を経て、2006年、エディー・バウアー・ジャパン代表取締役社長に就任。ブランド構築、店舗網拡大、インターネット事業強化に取り組む。その後、人事分野の業務に戻ることを決意。2009年、日本IBM人事部門理事、2010年、日本ヒューレット・パッカード取締役執行役員人事統括本部長を経て、2016年より現職。1981年、北海道大学法学部卒。1993年、ミシガン大学経営大学院(MBA)卒。
ありさわ・まさと/1984年に協和銀行(現りそな銀行)に入行。 銀行派遣により米国でMBAを取得後、主に人事、経営企画に携わる。2004年にHOYA株式会社に入社。人事担当ディレクターとして全世界のHOYAグループの人事を統括。全世界共通の職務等級制度や評価制度の導入を行う。また委員会設置会社として指名委員会、報酬委員会の事務局長も兼任。グローバルサクセッションプランの導入等を通じて事業部の枠を超えたグローバルな人事制度を構築する。2009年にAIU保険会社に人事担当執行役員として入社。ニューヨークの本社とともに日本独自のジョブグレーディング制度や評価体系を構築する。2012年1月にカゴメ株式会社に特別顧問として入社。カゴメ株式会社の人事面でのグローバル化の統括責任者となり、全世界共通の人事制度の構築を行っている。2012年10月より現職となり、国内だけでなく全世界のカゴメの人事最高責任者となる。「HRアワード2015」企業人事部門 個人の部 最優秀賞 受賞。
おちあい・とおる/1979年 明治大学商学部卒業。同年ヤクルト本社入社、営業・マーケティングを経て、83年人事部へ。90年に日本ペプシコーラ社に人事企画本部次長として入社。92年には日本ペプシコーラボトリング社に出向し、リストラクチャリング、人事制度全般の改革をリードした。95年から日本ペプシコーラ社人事総務本部長。98年HRディレクターとしてディズニーストアに入社。 2002年からウォルト・ディズニー・ジャパン(株)の人事総務担当責任者。2014年1月からは日本/韓国の人事総務担当責任者を務める。また、現在はウォルト・ディズニー・アジアの成長戦略に伴い、人事面からさまざまなサポートも行っている。キャリアカウンセラー、認定コーチ。
すぎはら・あきお/1969年生まれ。96年に慶応義塾大学大学院・政策メディア研究科修士課程修了時にITベンチャー会社設立。 97年に楽天の創業メンバーとして参画し、「楽天市場」の出店営業部門を担当。その後、楽天市場以外の事業を複数立ち上げる。取締役新規事業開発部長、楽天オークション部長、楽天ブックス社長、システム開発部門担当役員などを経て、現在は、人事・総務部門担当役員。
たにもと・みほ/慶應義塾大学卒業。2000年GEに入社。人事リーダーシップ・プログラムに選抜され国内並びに米国の金融部門で業務ローテーションを行う。その後、米国金融部門の人事担当、日本GE本社部門の採用リーダーや組織開発マネージャーを歴任。2011~2014年の間は米国のGEグローバル本社にて次世代グローバルリーダー開発を担当する。帰国後は日本地区の組織開発・人材育成リーダーを経て、2016年よりGEジャパン人事部長を務める。
ふじま・みき/1961年大阪生まれ。神戸大学農学部卒業。1985年藤沢薬品工業(現アステラス製薬)に入社、営業、労働組合、人事、事業企画を経験。人事部では米国駐在を含め主に海外人事を担当。2005年にバイエルメディカルに人事総務部長として入社、2007年に武田薬品工業に入社。海外人事を中心にCMC HRビジネスパートナー部長などを歴任し、現在は本社部門の戦略的人事ビジネスパートナーをグローバルに統括するグローバルHRBPコーポレートヘッドの任務に従事。M&Aは米国と欧州の海外案件を中心に10件以上経験し、米国駐在は3回、計6年となる。武田薬品工業のグローバル化の流れを日米欧の3大拠点で経験し、グローバルに通用する人材像とその育成を探求。人と組織の活性化研究会「APO研」メンバー。
やぎ・ようすけ/1955年京都府生まれ。1980年京都大学経済学部卒業後、日本鋼管株式会社に入社。主に人事などを担当した後、National Steelに出向し、CEOを補佐。1999年にGEに入社し、Healthcare Asia、Money Asia、GE Japanにおいて人事責任者などを歴任。2012年に株式会社LIXILグループ 執行役副社長 兼 株式会社LIXIL 取締役副社長 執行役員に就任。CHRO(最高人事責任者)を務め、同社の変革を実践。グローバル化、リーダーの育成、ダイバーシティの促進など、戦略的人事を推進した。2017年に独立し、現職。著書に『戦略人事のビジョン 制度で縛るな、ストーリーを語れ』(光文社新書、共著)がある。「HRアワード2012」企業人事部門 個人の部 最優秀賞 受賞。