味の素のグローバル化に向けた
“トランスフォーメーション”による
人財マネジメント変革(後編)[前編を読む]
味の素株式会社 理事 グローバル人事部 次長
髙倉 千春さん
変革を進めていくには、先人たちへの敬意と「新人」「変人」「強人」が必要
そのような変革を進めていく際、ハードルになることは何でしょうか。
変革を進めていくことは容易ではありません。当然、それに対して自分自身も抵抗があります。そうした中で大切なのは、今までの成長を支えてきた先人たちの実状を含めた相当の努力、創意、工夫に対する敬意です。
一方、一度作ったシステムを変えることには、大変なエネルギーを要します。また、人間の習性からすれば、既存の仕組みをあまり変えたいとは思いません。ですから、変える時には、変えるための「大義」が必要となります。
今、グローバルに展開を図っていこうとしている多くの日本企業を見ると、変えるための「大義」は十分あると思います。なぜなら、国内市場が縮小していく中、これまでのシステム・仕組みを変えないと先細りになり、グローバルレベルで持続ある成長を期待するためには、変えていく必要があるからです。
業績が好調で、経営的にも特に問題となる要素は見当たらないとなると、変革を訴えても「なぜ、変える必要があるのか? 変える理由を言ってほしい」という意見も出てきます。この点については、経営幹部ともかなり意見交換を行いました。そこで変革のキーワードとなったのが「将来に向けた次世代育成」です。
10年後、15年後を考えた時に、経営や人事がやっておかなければいけないのは、今の人たちが2030年にも活躍できる状況を想定し、そのために準備すること。次世代が活躍できる「基盤(プラットフォーム)」を作っておくことです。これが人事変革のシナリオに対して、経営が合意した背景でした。
一方、変革を起こす際は、チームワークが必要です。そこで求められるのは「新人」「変人」「強人」といった人たち。「新人」は、これまでにない新しいものを生み出します。「変人」は変化の方向に興味を持ち、変化を周囲に分かりやすく翻訳します。「強人」は、決まったことを粘り強くやり遂げます。この三つのタイプの人財がチームにいることで相乗効果を生み、ダイバーシティが育まれ、目標達成に向けて大きくドライブがかかります。私の場合は、このようなメンバーに恵まれました。
変革を進めることで、味の素らしさが失われることはありませんか。
味の素の「良いところ」は残すべきです。社員各自がなぜ味の素に入社しようと思ったのか、その「心持ち」は大事にしなくてはなりません。それがないと、自己否定になってしまい、成長が止まってしまいますから。2030年に向けて変わらなくてはなりませんが、それは自己を否定することではないのです。
その時により所となるのが「人を求めてやまず、人を活かす」という味の素の「DNA」です。一人ひとりを大事にするという味の素の良さを残しながら、次の世代に羽ばたいていくことをメッセージとして掲げています。だからこそ、「チェンジ」ではなく、「トランスフォーメーション(移行)」が重要なのです。
欧米では、これまでの状況から新しいものを生み出す大きな変革がよし、とされるところがあります。しかし、もともと根付いている良いものは残し、それを守りながら変革を進めていくのが適している場合もあります。建物で例えれば、古くなった建物を壊して、新しい場所に移築するのがチェンジ。しかし、それはとても大変なことです。風向きや太陽光は変わってくるかもしれません。だから、建物の中で芯となる良いところを残し、窓の向きや正面玄関を変えるなどしながら、改築する。これが、トランスフォーメーションだと思います。