顧客を感動させるサービスは従業員の「内発的動機」から生まれる
マニュアルのないスターバックスは、
なぜエンゲージメントを高められるのか(後編)[前編を読む]
スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社 人事本部 人事部 部長
久保田 美紀さん
3万3千人を超えるパートナー(従業員)のうち、約8割がアルバイト。若手のスタッフも多いスターバックスではエンゲージメントを重視して、仕事や組織を自分ごと化し、顧客や地域のために能動的に行動できる人材を育成しています(前編参照)。人事部長の久保田美紀さんは、こうした人材育成のポイントを「内発的動機の醸成」であると語ります。個人の価値観が多様化し続ける中、スターバックスはどのようにしてパートナーの内発的動機を引き出し、エンゲージメントの向上につなげているのでしょうか。後編ではその具体的なプロセスをうかがいます。
- 久保田 美紀さん
- スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社
人事本部 人事部 部長
くぼた・みき/ドイツ系IT企業で採用・教育・部門人事を経験した後、2010年スターバックス コーヒー ジャパンに人材開発部長として入社。リテイルおよびサポートセンターの人材開発・組織開発に従事した後、2016年より人事部長に就任、現在に至る。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。
学生アルバイトも目標設定を行い、4ヵ月に一度の人事考課でレビュー
顧客のために能動的に行動できるパートナーを、どのように育成しているのでしょうか。
スターバックスでは「OUR MISSION」として、「人々の心を豊かで活力あるものにするために―― ひとりのお客さま、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティーから」と掲げています。さらにそのミッションを達成するための行動指針として「OUR VALUES」を定めています。新しく入社するパートナーには、まずこれらのミッション・バリューに共感してもらえるよう働きかけています。
といっても、ミッションやバリューのすべてに共感する必要はありません。特に採用時点では、「私はミッションやバリューのここが好き」といったように、一部でもいいので共感してもらえればいいと思っています。
まず考えてもらうのが、将来の目標や理想の人物像など、その人が将来なりたい姿。学生アルバイトの方も多いので、必ずしも「スターバックスでどうなりたいか」という目標である必要はありません。たとえば、将来就きたい仕事などをあげる方もいます。それを実現するために、スターバックスでの仕事を通じて何を身につけたいかを考え、「個人の成長目標」を決めていきます。
加えて、パートナーの「パフォーマンスに関する目標」も設定します。スターバックスの各店舗では、ストアマネジャーがミッションとバリューをもとに、「地域でこんな存在になりたい」という思いを込めた店舗ビジョンを掲げています。それを実現するためにはどのような行動をとればいいのかを言語化するのです。
こうして設定した目標のもと、4ヵ月ごとの人事考課の際に、振り返りを行います。
アルバイトの学生などに対して、明確な人事考課やレビューを行うのは、他社にはあまりない例ですね。
例えばスターバックスのバリスタは、マルチタスクが求められる大変な仕事です。率直に言って、他に時給の高い、割の良いアルバイトはいくらでもあります。それでも、スターバックスで働きたいと言ってもらえる方が多いのは、上司や同僚からのフィードバックを通じて成長を実感できる機会が多いことがあげられます。学生の頃にこうした経験を積むことで自己理解につながり、就職活動が順調に進む方も多いようです。
スターバックスでアルバイトを経験した学生が、就職活動の際に選考を受けに来てくれることも少なくありません。あるいは、新卒で別の企業に就職しても、第二新卒としてスターバックスに戻って来てくれるケースもあります。こうした方が多いのは、ミッションやバリューに共感して行動し、それを適正に評価される仕組みがあるからだと考えています。